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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

四角いものがまあるい輪っかになるという話

2017-07-23 02:47:01 | よしなしごと
 私の実家は材木商である。
 私は放蕩息子で家を継がなかったので、妹夫妻が継ぎ、今はその息子、つまり私にとっては甥が経営をしている。その材木商の本拠は私の家から離れたところにあるが、商品の在庫の一部は私の家に隣接する倉庫に保管されている。
 
 2、3日前、彼から電話があって、「おじさん、いつも洗濯を干している横の空間に、しばらく材木を置かしてくれませんか」とのこと。お安い御用で二つ返事で引き受けた。
 なんでも、ここ2、3ヶ月のうちにちゃんと乾燥させて納品しなけではならないものがあって、それは倉庫の中でも駄目だし、風通しのいいわが家の洗濯干場のところが一番いいというのだ。
 ところで、わが家の洗濯干し場だが、かつて塾を経営していた頃の生徒の自転車置き場で、屋根付きでかなりのスペースがある。

        
 
 了承したその日のうちに材木は運び込まれた。それが写真のものである。
 材木をよく見ている私にとっても、あまり見慣れない形状である。柱でもなけれが板でもない。木そのものも、杉や檜とは違ってもっと硬そうな材質である。
 運んできた人に、「これって何に使うの?」と尋ねたら、「これは輪っかにする」とのこと。
 
 え、輪っか?大八車の時代でもあるまいに、いまさら木の輪っかとは、とさらに尋ねたら、これは樫の木で、山車や山鉾、だんじりの輪っかにするため、宮大工級の専門職に納品することになっているとのこと。
 更に詳しく話を聴く。
 これらからうまく木取りをしてあの頑丈で丸い輪っかを作るのだということ、そのためには完全に乾燥させて、といっても直射日光に当たるとヒビが入ることもあるので、風通しのいい日陰でしっかり干しあげなければならないのだ・・・云々。というわけで、私んちの洗濯干し場が選ばれたのだった。
 
 これによって作られる輪っかは、さらにその上に建造される、あるいはすでにできている、何トンもの山車や山鉾、だんじりの構造物を支えなければならない。この輪っかは樫だが、上部の殆どはケヤキでやはり堅牢で重い材質のものである。しかもたいていのものには、お囃子やからくり人形師など複数の人間が乗る。
 
        

 だからその素材を納品する側も、細心の注意をはらい、最上のコンディションのものを納品しなければならない。この上に乗るのは、ほとんどが重文級のものなのだ。
 こんな木をもっている材木屋はほとんどないだろうと訊いたら、「だからこういったものはうちに集中して注文が入る」と運んできた人は誇らしげにいった。
 
 ここで材木商の現状を書いておくと、全国でもひところの一割があるかなしかだろう。ひとつには、木造日本建築が激減したということである。一見和風に見えても、実際には材木を使った箇所はほとんどない。あっても輸入材など安価なものでまかなわれてしまう。
 家屋のみならず、材木の用途はうんと減っている。かつての町並みではよく見られた板塀などというのも、よほど優雅な造りの家でない限り見ることはない。
 
 おやおや、いつのように脱線気味になってきた。
 ようするに、私の甥の材木商は、上の輪っかの材料のように、特殊な用途の銘木を中心に扱っているから今も存続できているということをいいたかったのだ。
 なお、大量販売の波に流されず、たとえそのときは買い手はなくとも、いいものがあれば常に在庫しておくというのは私の父の時代以来の伝統で、父から国宝犬山城の改修の折に基本的な材料を納めた話や、その他、国宝級・重文級のものの材料ををあちらこちらへ納めた話をよく聞かされたものだ。
 しかし、親不孝な私は、また親父の自慢話が始まったとあまり熱心には耳を傾けなかったものである。
「親父、申し訳ないっ」
 と、生きてれば108歳の親父に詫びねばなるまい。
 

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1 コメント

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良い話ですね (さんこ)
2017-07-24 17:55:44
こういうぶれない仕事をしているお店は、とても貴重ですね。
そして、そうした木材で、良い仕事をする腕の良い職人さんが、残ってくれていなければ、困るわけですよね。

甥ごさんは、表彰したいような仕事を継承されているわけで、尊敬します。
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