六文錢の部屋へようこそ!

心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

Speak Low!「あの日のように抱きしめて」(2014年 ドイツ)を観る

2015-09-25 11:56:15 | 映画評論
 邦題が良くない。原題の「PHOENIX」、または「フェニックス」のままでよかったのではないか。
 そうでなければ、アウシュビッツから生還した彼女が、赤いドレスで最後にジャズのスタンダード・ナンバー、「Speak Low(スピーク ロウ」を歌い、それがこの映画のすべてを語り尽くすという意味が失われてしまう。
 そう、「Speak Low」の歌詞にあるように「Love is pure gold and time is thief(愛は純金、時は泥棒)」なのだ。

 これは盗まれた純金の愛を泥棒の手から取り戻そうとするヒロインの物語なのだ。だからこそ「フェニックス=不死鳥」でなければならない。

          

 純金の愛を盗んだ泥棒は誰か? 時? でも、時は人間が関わってこその時だ。だとすると泥棒は人間一般? だけど、人間一般なんているわけはない。常に、すでに、状況と関わり合っているのが人間なのだ。

 では、状況そのもの? 戦争? ナチズム? イデオロギー、あるいはテロル? しかし、それらは人間を規定しながらも人間によって生み出されたものではないか?
 かくて私は堂々巡りの回廊を経巡ることとなる。
 声高には叫べない。そう、「Speak Low」なのだ。

   

 この映画は、単なるサスペンスとしての面白さもあるし、私のようにもって回って考えることもできる。
 この辺まで突っ込むとネタバレになるが、本人が本人に扮するという自己言及性の迷宮もある。そしてそれもまた、彼女が不死鳥のごとく蘇るための必要な行為といえる。

 「東ベルリンから来た女」(2012年 ドイツ)という作品の監督、並びに主演(男女)のトリオによる作品。
 
   

 そして、ジャズの「Speak Low」が使われるのにもれっきとした理由がある。この曲は、かの「マック・ザ・ナイフ(匕首マッキーの殺し歌)」を含む「三文オペラ」の作曲家で、アメリカへの亡命者であるクルト・ヴァイルによって作られたものだ。彼は、ドイツ在住時代のクラッシク志向から、アメリカ亡命後は大きな転換を遂げて蘇ったといわれる。

 こうしてみると、「PHOENIX」はこの映画では多重な意味内容を秘めている。だからこそ、この邦題は、この映画の持つ独自の世界を殺してしまっていると思うのだ。


《余談》映画半ばのショーシーンで歌われる「Night and Day (夜も昼も)は、やはりジャズのスタンダード・ナンバーで、作詞作曲は、コール・ポーター。これはフルコーラスを聴かせるが、
 「あなたを求めてやまない気持ちが燃え盛っている
  そしてこの苦しみは終わることなく続く」
 と、歌われている。


 

 





コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« C級グルマンの貧乏料理手帳 | トップ | 図書館 アメリカハナミズキ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。