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【書店エレジー】売れないから置かない 置かないから売れない

2015-06-27 01:26:44 | 日記
 今日は悲しいから写真はなし。

 岩波新書にちょっと気になるものがあったので、近くにある◯洞堂本店に出かけた。ここは20年ほど前、チエーン展開を目指した岐阜でも大手の書店だった。初代の店長は名古屋で飲食店をしている時の顧客で、三省堂の店員をしていた女性であった。彼女の見識か専門書も豊富で、休みの折にはよく出かけた。
 
 開店からどれだけ経ったろうか、ある日彼女の姿が見えないので店員に訊いたら家庭の事情で退社したとの事だった。ちょっとさみしい思いをしたが、異変はそれから起こった。専門書がどんどん棚から消えて行き、コミックがやたら増え、ハリー・ポッターがどんと平積みされるようになった。鈍感な私も多少悟るところがあった。
 
 家庭の事情というより、彼女の方針と経営の求めるものが合わなかったのだ。まあ、ここは大都会ではないし、やむを得ないかなとも思った。そのうちに探してもほしい本が全くなくなって、自然に足が遠のいた。決まりきった雑誌や、年始めの手帳ぐらいしか買うものがなくなってしまったのだから仕方がないだろう。
 
 で、冒頭に戻るが、出たばかりの岩波新書ぐらいはあるだろうと思ったのだ。それに、800円前後の本を求めるのに、往復400円の交通費を支払うのは割にあわないというせこい計算もあった。しかし、私の思惑は甘かった。新書の棚にはハウツーものは多かったが、お目当てのものも、ほかの岩波新書もなかった。
 
 店員に「岩波新書はどこですか」と尋ねると、どうもバイトらしく困惑した表情で店長と思しき人に訊くのだった。するとそちらのベテランらしい店員は、いともあっけなく、「ア、岩波新書は置いていません」との返事。そんなもん、置いてるはずはないでしょうとでも言いたげな表情も。
 
 岩波の書は売れなかった場合の返本がきかないというのは聞いたことがある。しかし、新刊のものぐらいはと思ったこちらが甘かった。こうなったら、定価の半額の交通費と時間をかけて街の中心へ出るか、それともAMAZONに頼る他はない。ほんとうは目次だけでも確認してから買いたかったのだが。
 
 街の本屋さんを応援したい気持ちはある。しかしこれでは致し方がない。売れないから置かない、置かないから売れない、という悪いスパイラルがどんどん進み、地方都市の街の本屋さんは少なくとも私の需要を満たす対象外になりつつある。なんとも悲しい現実ではある。
 
 かつては、あのへんに「ヘーゲル全集」まで並んでいたのにと、かすかな郷愁を覚えつつ店を後にした。知り合いの出版社の人が、また取次がひとつ倒産したという記事をFBで紹介していた。むべなるかなである。

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4 コメント

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売れないから作れない (漂着者)
2015-06-27 21:55:43

売れないから置かない。そして店はやっていけない。複数の統計が伝えるデータによれば、書店数のピークは1990年代半ばで全国2万6000店。それが今は1万4000店と半減です。

さらに売れなければ作れない。出版社は同様に4600社から1000社減って今は3600社。しかも書店で目立つのは、もっぱらビジネス書と自己啓発本。市場社会に置いていかれないよう、どう身を処するか。多くの人の関心がそこに閉じ込められているような気がします。

先日、酒代欲しさに古書店を訪ね、ある文学全集を売りたいと掛け合いました。しかし主人は「純文学の全集なんか、10年置いといても売れませんわ」と吐き捨てるように拒絶。店の棚には本格的な文学書、哲学書、歴史書などが、主人の憤怒と諦めとともに、動く気配もなくびっしり並んでいました。

書店エレジーは、そのまま出版文化エレジーですね。

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書籍文化 (六文銭)
2015-06-28 02:17:12
 書籍文化のなかで自己形成してきましたので、ご指摘の現象には胸が痛みます。
 世界文学全集や日本文学全集は、バラですと箱入りのほぼ未読状態のものが、古書店の店頭で一冊100円の時代です。欠落している文学的素養を埋め合わせたい向きにはとてもありがたいのですが、それが同時に書籍文化の衰退現象を表しているとしたら、一概に喜んではいられません。
 書籍店に関しては、アマゾンなどの通販と、繁華なロケーションでの大型書店以外は絶滅危惧でしょうね。
 出版社の方も、それに即応したもの、あるいは他に類を見ない企画の独自性をもったもののみが生き残れる時代のように思います。
 そうなると、私のような片田舎に住んでいる者にとっては、一般的な書を買うにも都市の中心に出なければならなかったり、専門書だと名古屋の大型店まで出向いたりしなければならなくなります。交通費が本代を上回ったりしますから、どうしてもアマゾンんに依拠することになります。
 出版社にも書店にも友人がいますが、彼らの健闘を祈るのみです。
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ほんやら洞日乗 (南部)
2015-06-29 21:57:31
先日近くの大型書店に1月ぶりに行きましたところ、風媒社から甲斐扶佐義さんの「ほんやら洞日乗」が発売されていて、即購入しました。かの「ほんやら洞」が消失するまでの1年間の日記です。660頁、2000円と、原価計算大丈夫なのかと心配してしまいますが、「名古屋を呑む!」ともども愛読いたしたいと思います。
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ほんやら洞 (六文銭)
2015-06-30 00:40:14
 「ほんやら洞」は、風媒社の劉編集長が、その焼失のあと、即座に動いてまとめたという、大出版社ではおそらく不可能であろう素早さで作られた書です。
 価格については、この場合、全国区で売れると踏んで頑張ったのだろうと思います。
 この出版社の古い出版のものなど見ていると、創設以来の志がみえて、いまさらのごとく応援したくなります。
 最近も、アンジェリカ・バラバーノフの『我が反逆の生涯 インターナショナルの死と再生』を見つけ、購入しました。もう在庫自身が古びていてお金が取りにくいといっていましたが、ちゃんと料金をとってくれと言って購入しました。
 彼女の名前すら忘れ去られようとしているとき、これは貴重な記録です。

 私のものについては忘れて下さい。あまりにも不勉強で、風媒社の好意にもかかわらず、それに応えられなかった非力を恥じ入るのみです。
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