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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

【弔辞】 ああ、斃れしものよ!

2007-12-15 14:00:56 | ラブレター
 もとはといえばお前がいけないんだ
 最盛期のような羽音を立てて飛ぶなんて

 その時は「ア、いるな」ぐらいで済んだ
 でも、お前はもう一度やってきて
 あろう事かカーディガンの腕のところに
 フウワリと軟着陸するようにとまったろう


 だからこっちは本能的に叩いてしまって
 お前は斃れた
 哀れ、冬の蚊よ!

 

 いま、お前の亡骸を前に後悔している
 この時期からして、あの飛び方からして

 もう人を刺す力などなかったはずだ
 だったら、あんな風に叩かず
 自然死を待ってやればよかったのだ


 お前たちの全盛期の
 といっても、もう3ヶ月も前だが

 刺されたときのあの痒みの記憶
 おもわず手が動かしてしまったのだろう

 でも、叩く瞬間幾分力を抜いたはずだ
 だからしばらくはお前も羽を震わせてた
 哀れ、冬の蚊よ!


 

 後悔しているのにはまだわけがある
 俺もまた季節外れの蚊なのだ
 羽音ばかりうるさく飛び回るくせに
 もう人を刺す力なんてありゃしない

 
 お前の亡骸を見ていると
 まるで自分さきゆきのようだ

 
 せめてもの罪滅ぼしだ
 戒名を付けてやろう

 越季院残蚊居士(えっきいんざんぶんこじ)
 こんなのでどうだ


 戒名を持った蚊なんてめったにいやしないぞ
 だからこれで迷わず成仏してくれ

 哀れ、冬の蚊よ!



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