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ピアノ・パーティ スティーヴ・ライヒ&ベートーヴェン

2017-11-21 00:16:58 | 日記
 岐阜サラマンカホールでの、ちょっと珍しいコンサートに行ってきた。
 ピアニスト4名と4台のピアノによるもので、「ピアノ・パーティ」と名付けられていた。
 ピアニストは、松本和将、菊地裕介、宮谷理香、近藤嘉宏。中堅どころといったところか。
 ピアノはスタインウェイ2台とヤマハ2台を入れ子状に並べた状態。

             

 プログラムの構成も面白かった。
 第一部はそれぞれのピアニストによるソロ。ただし縛りがあって、それぞれが小品を2曲弾くのだが、そのうち一曲は、スタンウェイ、もう一曲はヤマハで弾くこと。曲想によってどの位置のどちらのピアノを選ぶかが味噌。
 この部分が終わったところで、4人が揃って登場し、それぞれの曲をどうしてその位置のそのピアノを選んだのかを種明かし。
 なるほどとそれぞれ納得。さすが音を相手にしているだけに、ただ弾くというだけではなく、自分のかもし出す音がどのように聴き手に届けられるべきかをちゃんと計算している、と改めて感心。

          

 余談だが、この第一部で演奏されたショパンのエチュード「木枯らし」は、いつ聴いても、「あの子はだあれ」と執拗に聴こえて来て、微笑ましくなってしまうのだった。嘘だと思ったら、弾き手はちがうが以下を聴いてみてほしい。
  https://www.youtube.com/watch?v=GGtsWVIXFg4

 第二部は2台4手によるスティーヴ・ライヒの「ピアノ・フェイズ」。
 ライヒといえば、1990年代初頭、彼のミニマム・ミュージックの代表作、「ディファレント・トレインズ」に接して、驚嘆した覚えがある。
 この「ディファレント・トレインズ」、何がディファレントかというと、ライヒが子どもの頃、その父と離婚した母親に逢いにゆくために乗った列車と、同時期に、ヨーロッパでユダヤ人たちを最終処分所へ運んだ列車との差異である。その差異と、少しずつの微小とも思える差異を積み重ねてゆくミニマム・ミュージックの特色とがピッタリはまっていて、何か哲学的な響きを感じたものである。
 
 それをこのように表現し得たのは、彼自身がユダヤ人であったからだろう。ここには、幼い彼が実際に乗った列車はニューヨークからロサンゼルスへのものだったが、もし、自分がヨーロッパにいたら、「違う」列車に乗っていたろうという厳しい現実が表現されている。

          

 脱線したが、今回演奏された2台のピアノのためのミニマル・ミュージックは、2台のピアノがそれぞれ違った短いフレーズのメロディを重ね合わせてゆくうちに、それらの差異のなかから不思議な調和が構成され、それぞれのメロディが少しずつ変化してゆくにつれ、そこに醸し出される調和そのものが次第に変化し、それらがもはや2台のピアノからの音であることを忘れさせる次元にいたり、その異次元の感興が最高点にさしかかったかと思う瞬間、断ち切られるように終焉を迎えるといったもので、聴く者を異次元に誘導しながら、ハッと現実に差し戻すような効果をもつ。
 久々に、ライヒのミニマム・ワールドに浸りきることができた。

 最後の第三部は、4台のピアノ8手による、ベートーヴェンの第五「運命」全曲で、編曲はテオドール・キルヒナー(1823~1903 スイスのやや異色な作曲家にして編曲家 ドイツロマン派との交流が多かった)。
 第一楽章の前半は、小節の出足などでやや不揃いの箇所もあったが(指揮者がいないからやむを得ないかもしれない。指揮者がいてもずれることがあるのだから)、その後はすっかり息が合い、最後まで疾走した。
 金管などの華やかな音色がないのはやや高揚感に欠けるが、これはこれで立派なベートーヴェンの「運命」。オケの音が空間全体への広がりだとすると、8手から繰り出される音色の絡み合いは、その4台のピアノの上空に集約し、形成されるされる音の塊といったところか。

                             右はキルヒナー  

 アンコールは、ラヴィニャックの「ギャロップ・マーチ」。
 こちらは1台のピアノに4人8手が取り付いて演奏するというもの。
 これはけっこうYou Tube などにプロではない人のものが投稿されているが、今回のプロによるそれはまったく違う。椅子を取っ払って全身を使っての演奏は、そのスピードがまったく違い、You Tube のそれが4分ほどで演奏するのに対し、おそらく1分近く短縮したスピード感あふれる快適な演奏。ギャロップ(=全速力の疾走)はやはり、こうでなくっちゃ。

 いろいろ、面白いコンサートであった。
 帰途の車中、ピアノの残響が耳の底で、まだとぐろを巻いていた。


 

 

 

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