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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

「私の」ナンキンハゼと「故郷喪失」と「文字渦」

2018-11-22 16:48:24 | 写真とおしゃべり
 借りるというより読みたいものがあって岐阜県図書館へ。この時期、陽が落ちるのが早い。4時ちょっと過ぎなのにもう夕焼けが見える。

        

 到着。
 ふと見やると夕日に映えて真っ赤に紅葉した樹が。
 ああ、私のナンキンハゼだ。場所は、県図書館の正門の前、県美術館の裏門にあたる。

        

 「私の」というのは、ここ20年近く、四季を通じて私がウオッチングをしてきた樹だからだ。この樹を何枚写真に収めたことか。
 樹下で撮っていいると、通りかかったひとから「なんかいますか」と訊かれたことも二度三度。
 そういえば、キジバトとのコラボを撮ったこともあったっけ。
 そうそう、私が参加していた同人誌の表紙を飾ったこともあった。

        

 ウオッチングといっても、図書館か美術館へ行った折のみだから、すべての瞬間を把握しているわけではない。しかし図書館は月一度以上は必ず行くから、年にして二〇回ぐらい、その20年分だから400回近くは会っていることとなる。

        

 しかし、今年は訪れるタイミングが良かったからか、それとも特有の気候のせいか、こんなに赤く染まっているのははじめてだ。
 この前来たのは、10日でそれから2週間も経っていない。もちろんその折もちゃんと挨拶を交わしたが、まだほとんど紅葉の兆しはなかった。それがもうこんなになるなんて。

        

 近寄ると、赤一色ではない。様々な色合いが混じりあって全体として赤く見えているようだ。
 暗紅色の葉があるが、これがナンキンハゼの紅葉の特徴であり、それが紅葉全体の陰影をより深くしている。
 白くポチポチ見えるのは実だ。始めは緑の果皮に包まれているが、やがてそれが褐色になり、その果皮もまた落ちると、このような白い実となる。
 やがて落葉が始まり、葉が全てなくなってもこの白い実は残って、まるで、樹いっぱいに真珠を散りばめたようになる。

           

 図書館では、『文學界』12月号所載の小林敏明氏の評論「故郷喪失の時代 第三回」を読む。
 小林氏は、岐阜県出身で現在ライプツィヒ大学の教授職にある。実は先月も、尊父のご不幸で帰省され、ドイツへの出発前、親しい友人たちが集まって一席を設けたばかりだ(その前日が私の傘寿の誕生日だったので、思いがけず花束などを頂いた)。

 今回の文章は、日本人の故郷との関わりを通時的に述べたもので、文学作品のそれや、盆暮れにみられる帰省という風俗、冠婚葬祭との関わり、方言のありようなどなどが多方面のジャンルを横断して論じられていて面白かった。

 毎回思うのだが、生まれてすぐに両親に別れ、親戚をたらい回しにされ、幼い頃から成人するまで小刻みな移動を繰り返してきた私はなにをもって故郷と同定しているのだろうか。またそのかすかなイメージとどう向き合ってきたのだろうか。
 この連載と共に考えてゆきたい。

           

 せっかく図書館に来たのに何も借りないで帰るのもと思い(実際には今のところ5冊を借りているのだが)、円城塔の『文字渦』を借りた。この書は文字通り「文字」について述べたもので、私なんぞは、朝起きて新聞に目を通すのを始め、一日中文字のお世話になっている。そのくせ、文字そのものについてはそこに記されている文章の意味合いを運ぶツールだぐらいにしか考えていない。

           
 
 かつて、そのイメージから少し反省させられたのは中島敦の『文字禍』(似ているが、円城のものは「渦」である。もちろん円城は中島のそれをじゅうぶん意識している)という短編を読んだ際であった。
 この「唯言語論」「唯文字論」を含む小説は、文字にこだわる主人公が文字の霊と対決するという話で、私が文字を介して得るものとその間にある文字という実体そのものを取り上げていて面白かった。
 青空文庫にあるので、興味のある方はどうぞ。
 https://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/622_14497.html
 Kindle版はアマゾンで無料

 例によってじゅうぶん長くなった。
 削ろうと思えば可能かもしれないが、そこで削った文字たちの霊がさまよって私に襲いかか・・・・・・・・。ブルルッ。



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