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20世紀の絵画だ! マックス・エルンストを観る!

2012-08-24 15:32:01 | アート
     写真は美術館近辺のものです。

 マックス・エルンストの「フィギア ? スケープ」と題した美術展にいって参りました。
 愛知県美術館です。
 実はこの美術展、開催してすぐに、ちょうど会場近くで少し時間が空いたので、観ようかどうか迷ったのでした。しかし、その折の時間がせいぜい40分ぐらいしかなかったので、そんな駆け足ではと思ってやめにしたのでした。

             

 それが正解でした。というのは程なくして、日頃、お世話になている方からチケットを送っていただいたからです。そして、そのお手紙には、ご自分もご覧になったのですが、やはりじっくり観たほうがと書き添えられていました。それはまったくその通りでした。実際に私がそれを観るのに要したのは、途中小休止をしながらとはいえ、ゆうに2時間を越えたのですから。

                

 マックス・エルンストについては、いわゆる美術史上の位置づけのようなものは知っていましたし、その作品のどれかも観たことがあったと思います。
 しかし、その個別性のようなものをはっきり確認するほどまとめて観たことはありませんでした。
 当然のことですが、ブルトンなどと同様にシュール・リアリストと云われても、その作風にはあきらかに独自の感覚に基づく特有の表現があり、それらを観ることなく彼を語るわけにはゆきません。

             

 様々な方法を模索した人でもあります。コラージュ(貼り合わせ)、フロッタージュ(擦りだし)、グラッタージュ(削りとり)などがそれですが、これらの表現は、必然と偶然、人為的な計算とまったく恣意的なもの(それは当然シュール・リアリズムの意識と無意識の境界の追求と重なるのですが)などがさまざまにオーバーラップする境地を追求したもののように思いました。
 なぜそのような次元にあえて挑むのか、それは彼の次の言葉が指し示しているように思います。
 「外部であると同時に内部であり、自由であると同時に捕らわれている。この謎を解いてくれるのは誰だろう?」

             
 
 この言葉は、19世紀後半から始まった新しい人間観(マルクス、フロイト、ニーチェ、ソシュールなどなど)の延長上にあるものであり、思えばシュール・リアリズムそのものが、そうした人間観の美術への適応ともいえるものであったわけです。またその思想上の歩みは、例えば、ハイデガーなどの哲学的人間観を経て、いわゆるポスト構造主義にまで至るものでした。

 以上はいい古されている解説の域を出ませんが、彼の作品に戻ってその感想を述べてみます。
 あまり一般的な評論などでは見かけないもので、以下は私のきわめて主観的な感想ですから大いに的はずれだろうと思うのですが、あえて書きます。
 それは彼の作品が美しく心地よいということです。
 ダダの作家やシュール・リアリストの作品にそれをいうのはお門違いかもしれません。
 しかし、本当にそう感じたのです。
 確かに彼は意表を突くようなさまざまなフィギアを生み出します。しかしそれらのどれをとっても、グロテスクでななくすんなりと受容できるのです。

             

 とくにタブローなどでの色使いにそれを強く感じました。
 暗いものは暗いなりに、明るいものはそれなりに、どれをとってもその色使いや色彩相互の関係がとてもクリアーで心地良いのです。
 不快なものによる衝撃というのも美術のひとつの方法かもしれません。
 しかし、彼に関する限りどの作品にもそうしたものがありません。
 かといってそれが既存の枠内に収まっているわけでもありません。

 彼は、先にみた「外部であると同時に内部」という表現を、「鬼面人を驚かす」といった手法によってではなく、極めて自然に追求したのだろうと思います。
 これを退廃芸術として処分したナチは、やはりその審美眼が相当歪んでいたのだと思います。
 
 見終わってからもある種の爽快感が残りました。いいものを観ることが出来ました。
 チケットを送って下さった方に心からお礼を申し上げたいと思います。
 そして、そのご助言通り、今回は前後に(映画などの)予定を入れず、それに専念してじっくり味わうことができてよかったと思います。

 ちょうど処暑に相当する日、暑さはさほど和らいではいませんでしたが、美術館を出るともう西陽が差し、日が短くなったことを示していました。

    

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