魔人の鉞

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櫻井よしこ女史は 泣き言ばかりの 「自虐史観」

2014-03-04 18:27:26 | 第2次大戦

以前から気になっていた、櫻井よしこ女史。多くの論点を一度に読めそうなので手に取った、「日本よ 『歴史力』 を磨け」 (櫻井よしこ編、2007年、文芸春秋)。

右派のアイドル理論家櫻井よしこ女史が編んだ本ですが、ほとんどトンデモ本の類ではないかと感じました。読み通すのは苦痛でしたが、今の日本では、こういう考え方で教育の見直しが叫ばれているのだ、ということを確認することができました。

冒頭に、「いわゆる 『日本悪玉史観』 『自虐史観』 『東京裁判史観』 を検証し、(中略) そうした物の見方に異議を唱え、(中略)  事実に沿って理性的に歴史を見つめることで、私たちの国、日本の歩みを検証しようとする試みである。」 とこの本の趣旨を語っています。
「理性的に歴史を見つめる」 という前から、対象に 『日本悪玉史観』 『自虐史観』 などというレッテルを貼りつけるのはどうかと思いますが、私は冷静に本の内容を検討してみたいと思います。

(内容)
第一章 「慰安婦強制連行」の嘘 櫻井よしこ(書き下し)
第二章 「南京大虐殺」の嘘    櫻井よしこvs. 北村稔
第三章 「日中戦争」の嘘     櫻井よしこvs. 北村稔
第四章 「第二次世界大戦」の嘘  櫻井よしこvs. 伊藤隆/北村稔/滝澤一郎/中西輝政
第五章 「原爆投下」の嘘     櫻井よしこvs. 鳥居民
第六章 「東京裁判」の嘘     櫻井よしこvs. 庄司潤一郎/橋爪大三朗/八木秀次
第七章 「朝日新聞」の嘘     櫻井よしこvs. 佐々淳行/平川祐弘 (※祐のヘンは示)
第八章 「冷戦終焉」の嘘     櫻井よしこvs. 伊藤隆/中西輝政/古田博司

以上八章からなっています。

第一章で櫻井氏は、「私たちは、慰安婦となった女性たちに日本人が行ったことに対して深く反省している。それは紛れもない事実である。他方、政府が強制した、あるいは軍が拉致したという事実がないことも明らかである。」(36p) と殊勝気に書いています。
しかし櫻井氏は 「強制連行は無かった」 と主張することに熱心で、「深く反省」 しているその内容がさっぱり見えてきません。橋下氏や政府要人や 「自虐史観」 否定派といわれる人たちの間に、「慰安婦を軍が管理するのは当然」 とか 「慰安所はどこの国にもあった」 という意見が公然と支持されているのを放置しておいては信頼感に欠けます。まさか 「強制連行は無かった」 という意見広告を米紙に出すのが反省の中身ではないでしょう。

強制連行は無かった、逆にそういうことを禁止する通達が出されていた、と櫻井氏は主張します。しかしそういう通達は、そうした事件が起きたから出されるというのがまさに歴史の教えるところです。徳川幕府の禁令は、ことが頻発するから禁令を出すというものでした。
1938年11月の軍の指令は、「21歳以上で既にその職業に就いている女性を対象とするよう命じ」 ているとのことです (23p) が、1937年7月の盧溝橋事件・年末の南京占領から1年、その程度の生やさしいことで必要人数が満たせたのかどうか。朝鮮の東亜日報に、強制的に慰安婦を集めた業者が朝鮮警察に処罰された、という記事が掲載されたのは1939年8月とのことですが、
募集状況が年々悪化していった可能性があります。またこれ一つを以て、「日本政府が人道にもとる罪を厳しく処罰していた証拠」 として掲げています (23p) が、当時の軍部は内地の日本人の人権でさえ何とも思っていなかったということを、櫻井氏は知らないとでもいうのでしょうか。

第二章 「南京大虐殺」の嘘 
ここでは、「外国人の見た日本軍の暴行」の著者ティンパーリ氏や、金陵大学教授ルイス・スマイス氏は中国国民党のスパイまたは資金援助を受けており、大虐殺はまったく虚報だったとしています (38-41p)。しかし私が2月25日付で紹介した南京近郊・幕府山での捕虜虐殺事件のように、捕虜の始末は日本軍の方針だったと考えられます。それが20万人とか30万人とかは別として、国民党の情報戦に負けたと強調するあまりに、全体を客観的に見る目が曇っていると感じざるを得ません。

第三章 「日中戦争」の嘘
ここにはもっと噴飯ものの説がいくつも登場します。
櫻井氏 「共産党が政権を奪取するチャンスをもっとも与えたのは、日本軍でした。(中略) ですから、中国共産党の幹部は、東条さんが祀られている靖国神社に、(中略) 感謝の意を込めて参拝したらいいのです。」 中国人が聞いたら卒倒するか、その場で殴り掛かることでしょう。こんなことは、理性ある大人が言ったり書いたりすることではありません。

櫻井氏 「1936年12月の西安事件で、蒋介石が張学良に監禁され、共産党から 『内戦停止』と 『一致抗日』 を迫られて第2次国共合作が成立します。(中略) こうした偶発的な出来事によって、日本の運命は大きく狂わされていきます。」 
国共合作がコミンテルンの指示だったとしても、それは 「偶発的な出来事」 などではなく、また抗日戦争はすでに始まっていたわけで、それで 「日本の運命が狂わされた」 などということは泣き言に過ぎず、私にはとても理解できません。それこそ日本人として誇りを失った「自虐史観」 ではないでしょうか。

満州の利権について、北村氏は、日露戦争で 「満州に利権を持ってしまったのが日本にとっては不幸だったのかもしれません。(中略) 日本が手に入れたのは、ロシアが満州に築いた鉄道の南半分を借りる権利に過ぎず、しかも期限が短かった。(中略) そこで対華21か条要求 (1915)で99年間に延長しようとしたところ、中国は非常に強い反発をし、国際社会に対して日本の
非を訴える作戦に出たわけです。この後、様々なかたちで、日本の権益行使を妨げようとします。」 と解説します。

「満州の利権は日本の不幸」 なとどいう右派がいるとは思いもしませんでした。当時 「満州は日本の生命線」 というのが合言葉だったのではないですか。そして後に傀儡・満州国を作るわけです。北村氏には相手にとって不幸だった、という視点は全くないのです。

第四章 「第二次世界大戦」の嘘
中西氏は、「マオ-誰も知らなかった毛沢東」(ユン・チアン、2005.講談社) を取り上げ、「毛沢東こそ、ヒトラーや匹敵するスターリンと並ぶ 『二十世紀最悪の独裁者』 の一人であった、と断じています (89p)。たしかにそういう面があるようですが、しかし抗日戦争中は独裁者的性格が戦争のリーダーとして有用だったとも考えられます。日本の指導者は戦争指導の上で哀しいほど無能だった、ということを忘れては歴史研究の意味がないでしょう。

またその本から、軍閥・張作霖を爆殺した柳条湖事件の実行犯はソ連の諜報員だ、という説を紹介しています。(98p) たしかにそういう説もあるようですが、通説は日本軍の河本大佐ということになっています。事件を好機として関東軍はたちまち全満州を占領してしまったのですし、日本は河本大佐を処分していますから、ソ連諜報員説はきわめて薄弱です。しかし何とか陰謀説が成立してほしい、という願望が言葉の端々から伝わってきます。

ふたたび孫引きで、第2次上海事件 (1937年8月) が起きた時、〈日本は事件を穏便に処理したいという意向を示したが、(共産党のスパイである) 張治中 (将軍) は攻撃許可を求めて蒋介石を攻めたてた〉。
櫻井 「張治中は攻撃を拡大。挑発にまんまと乗せられた日本側が、大規模な増援部隊を投入したために、全面戦争に突入したと 『マオ』 は書いています。」
中西 「事実とすれば、日中戦争を日本軍による対中侵略としてきた見方を根底からくつがえすことになります。」
 
仮にそれが事実としても、どうして日中戦争の見方を 「根底からくつがえす」 ことになるのでしょうか。第2次上海事件を契機に日本軍は一気に南京まで攻略していきます。コミンテルンの謀略に乗せられて日本軍は何処までも進撃したのですか? どういう考えで戦争を拡大したのですか? それを知りたくても、日本は中国に宣戦布告をしていないので、戦争目的がはっきりしません。

対米英宣戦布告の後でアジア解放とか言い出しますが、それであれば日中戦争の最初からそう宣言していれば良かったのです。そうすれば戦うにしても戦い方や占領政策が随分違ったことでしょう。 そういう反省も何もなく、ただコミンテルンの陰謀だとか、後で出てくる、アメリカは真珠湾攻撃を暗号解読で知っていたのにわざと奇襲させた、とか、泣き言を並べています。そんな泣き言のどこに日本人の誇りがあるのでしょう。とんでもないことです。

戦後ようやく獲得した言論の自由を謳歌し言いたい放題。実物右翼は気に入らない集会を実力で妨害するし、ネット右翼は反対意見サイトを炎上させる。この人たちはヒトラーユーゲントみたいになりつつあるのではないでしょうか。(年寄もいるけれど)


酷い内容をきちんと批判するのはなかなか労力が要ります。まだ本は続きますが、すべてこの調子では読むのは無駄でしょう。
       (わが家で  2014年3月4日)

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