このごろ、世相が戦前に似ていると言われることがあります。
日中全面戦争が始まった1937年を分析した、
「1937年の日本人」山崎雅弘著、朝日新聞出版、2018年。
何が似ているのでしょうか。
例えば巨額の国債発行と無秩序な金融緩和。国の財政状態はすでに戦前より悪いと言われます。コロナ対策は手当たり次第の巨額で、自由に使える予備費も莫大。それで税収が少し増えたからと言ってキシダメガネの減税検討。そのためもあって為替が歴史的な円安になり、輸入物価は高騰しています。
しかし誰もその原因と始末の見通しがないまま、いわば状況に流されて漂流しているのです。
日中戦争を、終結の見通しもなく、予算と兵力を追加投入してズルズルと拡大する。そういう所はたいへんよく似ています。
防衛費の倍増計画。中國・北朝鮮の脅威をあおり、防衛費は使い枯れないほどなのに、軍事費は詳細な検討が困難な性質があるのを良いことに、専守防衛などをはるが踏み越える、先制攻撃可能な武器さえ導入を図っています。共同軍事訓練もしかりです。
我が国はアメリカと連携していますが、アメリカは第2次大戦後も何度も嘘をついて戦争を起こしています。
ベトナム戦争前のトンキン湾事件。近くは大量破壊兵器を口実にしたイラク戦争。結果はメチャメチャでした。とても全面的に信用することはできません。
そしてこの本で気づいたことは、天皇の行動です。昭和天皇は独白録で、憲法に従って行動し、内閣の一致した方針については異議を唱えなかった、といって自身の戦争責任を否定しました。
しかし昭和天皇が1937年の第72臨時議会に発した勅語にはこうあります。(149p)
「朕は国務大臣に命じ、特に時局に関し、緊急なる追加予算案及び法律案を議会に提出させた。卿らよく朕の意を体し、和衷協賛の任をつくすよう努めよ。」
盧溝橋事件に発した全面的紛争を「支那事変」と命名したのに合わせて、必要な追加軍事費や追加法令の制定を、主権者である天皇が政府に「指示」したものです。政府が自らの施策を自分自身に指示したりはしないはず。天皇直々の勅語にはっきりと、卿ら (閣僚) に指示したと書いてあります。
そしてまた、軍隊の作戦行動や動員はすべて大元帥である天皇の裁可がなければ大命違反になります。たとえ盧溝橋事件のような現場の独走であれ、事後であれ裁可されなければ大元帥の命令に対する違反ですから、その気があれば止めることができたはずです。
しかし天皇は終戦まで、気にいらない上奏は出し直させるなどしましたが、結局ブレーキを掛けることなくすべての案件を裁可し続け、ついに暴走列車は転覆したのです。
天皇が自分で決裁したのは2.26事件と終戦だけだ、と主張する著名人がいますが、不勉強でなければ意図的な歪曲です。
また、軍部大臣現役制というのは軍部が内閣を倒す道具になってしまいましたが、それは2.26事件のあとで復活して悪用されたのでした。軍の内情を知っている人材でないと内部を抑えられないという理屈だったそうですが、それが軍部が大臣を出さなければ1937年1月の宇垣大将のケースように組閣できなくなって大命辞退になるし、現職なら総辞職しかないという、実に馬鹿げたことになってしまいました。
これでは大元帥・天皇の上に軍首脳部がいることになってしまいます。大元帥である天皇が下した組閣の大命を、その手下・股肱である軍部が有名無実にするなどという横暴がなぜ許されたのか。それこそ天皇大権の干犯だと思いますが、そういう議論は盛り上がらなかったようです。
しかしなぜ天皇はそんな下剋上を黙認したのでしょうか。大元帥であれば、誰にしろとは言わず、朕の意を体せよ、と言うだけで良いではありませんか。つまり、早い段階で制御しないから軍が付け上がってしまったので、軍部の独走といっても昭和天皇の無能無策のせいであり、責任は重大です。
日本軍はたしかに暴走機関車でした。
それが走るための基盤・線路である国家総動員法、大政翼賛会、国民精神総動員運動などを組織したのは近衛内閣でした。そして東条が治安維持法を強化して国民に思想統制を加え、軍には戦陣訓で玉砕を強制しました。
天皇は暴走する日本号の貴賓室の中で、せっせと軍部・政府の申請する決裁文書に署名し御璽をついていた。それでいて戦争責任がない、などという言い逃れのための独白録を書かせた。まったく腹黒く卑怯な、許しがたい人物です。もう亡くなったからといっても、歴史の責任を免れることはできません。
軍部、天皇、近衛、東条。
この4者は全員死罪をもって償うべきところをほとんどみんな生き延びた。東条ひとりは死罪になったが、310万人もの死者を出しておいて、ちっとも反省などしていない。その娘・東条由布子にいたっては開き直って、父のことを天皇を守った忠臣にして右翼の寵児になっていますが、全く心得違いのバカものです。
今また、ズルズルベッタリの世相になってきている。国家の記録を改ざんして平然としている世の中です。コロナと言えばでたらめな補助金のバラマキ。インフレだと言えばガソリン補助金。ふるさと減税はなんと税金のバーゲンセールです。公共のために、という事があいまいアヤフヤになっています。
その一方で、国防だ国防だ、軍事力倍増だ、などということに漫然と流されていたら、本当の戦争になるでしょう。
軍事力倍増はムダだ。外交力を磨くべし。
日中全面戦争が始まった1937年を分析した、
「1937年の日本人」山崎雅弘著、朝日新聞出版、2018年。
何が似ているのでしょうか。
例えば巨額の国債発行と無秩序な金融緩和。国の財政状態はすでに戦前より悪いと言われます。コロナ対策は手当たり次第の巨額で、自由に使える予備費も莫大。それで税収が少し増えたからと言ってキシダメガネの減税検討。そのためもあって為替が歴史的な円安になり、輸入物価は高騰しています。
しかし誰もその原因と始末の見通しがないまま、いわば状況に流されて漂流しているのです。
日中戦争を、終結の見通しもなく、予算と兵力を追加投入してズルズルと拡大する。そういう所はたいへんよく似ています。
防衛費の倍増計画。中國・北朝鮮の脅威をあおり、防衛費は使い枯れないほどなのに、軍事費は詳細な検討が困難な性質があるのを良いことに、専守防衛などをはるが踏み越える、先制攻撃可能な武器さえ導入を図っています。共同軍事訓練もしかりです。
我が国はアメリカと連携していますが、アメリカは第2次大戦後も何度も嘘をついて戦争を起こしています。
ベトナム戦争前のトンキン湾事件。近くは大量破壊兵器を口実にしたイラク戦争。結果はメチャメチャでした。とても全面的に信用することはできません。
そしてこの本で気づいたことは、天皇の行動です。昭和天皇は独白録で、憲法に従って行動し、内閣の一致した方針については異議を唱えなかった、といって自身の戦争責任を否定しました。
しかし昭和天皇が1937年の第72臨時議会に発した勅語にはこうあります。(149p)
「朕は国務大臣に命じ、特に時局に関し、緊急なる追加予算案及び法律案を議会に提出させた。卿らよく朕の意を体し、和衷協賛の任をつくすよう努めよ。」
盧溝橋事件に発した全面的紛争を「支那事変」と命名したのに合わせて、必要な追加軍事費や追加法令の制定を、主権者である天皇が政府に「指示」したものです。政府が自らの施策を自分自身に指示したりはしないはず。天皇直々の勅語にはっきりと、卿ら (閣僚) に指示したと書いてあります。
そしてまた、軍隊の作戦行動や動員はすべて大元帥である天皇の裁可がなければ大命違反になります。たとえ盧溝橋事件のような現場の独走であれ、事後であれ裁可されなければ大元帥の命令に対する違反ですから、その気があれば止めることができたはずです。
しかし天皇は終戦まで、気にいらない上奏は出し直させるなどしましたが、結局ブレーキを掛けることなくすべての案件を裁可し続け、ついに暴走列車は転覆したのです。
天皇が自分で決裁したのは2.26事件と終戦だけだ、と主張する著名人がいますが、不勉強でなければ意図的な歪曲です。
また、軍部大臣現役制というのは軍部が内閣を倒す道具になってしまいましたが、それは2.26事件のあとで復活して悪用されたのでした。軍の内情を知っている人材でないと内部を抑えられないという理屈だったそうですが、それが軍部が大臣を出さなければ1937年1月の宇垣大将のケースように組閣できなくなって大命辞退になるし、現職なら総辞職しかないという、実に馬鹿げたことになってしまいました。
これでは大元帥・天皇の上に軍首脳部がいることになってしまいます。大元帥である天皇が下した組閣の大命を、その手下・股肱である軍部が有名無実にするなどという横暴がなぜ許されたのか。それこそ天皇大権の干犯だと思いますが、そういう議論は盛り上がらなかったようです。
しかしなぜ天皇はそんな下剋上を黙認したのでしょうか。大元帥であれば、誰にしろとは言わず、朕の意を体せよ、と言うだけで良いではありませんか。つまり、早い段階で制御しないから軍が付け上がってしまったので、軍部の独走といっても昭和天皇の無能無策のせいであり、責任は重大です。
日本軍はたしかに暴走機関車でした。
それが走るための基盤・線路である国家総動員法、大政翼賛会、国民精神総動員運動などを組織したのは近衛内閣でした。そして東条が治安維持法を強化して国民に思想統制を加え、軍には戦陣訓で玉砕を強制しました。
天皇は暴走する日本号の貴賓室の中で、せっせと軍部・政府の申請する決裁文書に署名し御璽をついていた。それでいて戦争責任がない、などという言い逃れのための独白録を書かせた。まったく腹黒く卑怯な、許しがたい人物です。もう亡くなったからといっても、歴史の責任を免れることはできません。
軍部、天皇、近衛、東条。
この4者は全員死罪をもって償うべきところをほとんどみんな生き延びた。東条ひとりは死罪になったが、310万人もの死者を出しておいて、ちっとも反省などしていない。その娘・東条由布子にいたっては開き直って、父のことを天皇を守った忠臣にして右翼の寵児になっていますが、全く心得違いのバカものです。
今また、ズルズルベッタリの世相になってきている。国家の記録を改ざんして平然としている世の中です。コロナと言えばでたらめな補助金のバラマキ。インフレだと言えばガソリン補助金。ふるさと減税はなんと税金のバーゲンセールです。公共のために、という事があいまいアヤフヤになっています。
その一方で、国防だ国防だ、軍事力倍増だ、などということに漫然と流されていたら、本当の戦争になるでしょう。
軍事力倍増はムダだ。外交力を磨くべし。