魔人の鉞

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人類の宗教史が面白い

2024-07-12 15:00:00 | 日記
「人類はなぜ〈神〉を生み出したのか」 レザー・アスラン著、白須英子訳、 文芸春秋 2020年。
著者はアメリカでイスラム家庭に生まれ、キリスト教に転向、その後イスラムに再転向した異色の経歴をもつ宗教学者です。イスラムというより人類の宗教史が面白い。

おそらく氷河時代の終わり頃に建設された、トルコ南東部の大規模な先史時代遺跡ギョベクリ・テペ (14000年前頃) はどうやら祭祀遺跡で、人類は農耕以前にそういう大工事が必要な祭祀場を建設していました。農耕は工事人夫の食料調達のために始まったのではないか、とさえ考えられるそうです(85-86p)。

イスラムでも聖書である「創世記」、その大洪水の話の元ネタは、約4000年前の古代シュメールの「アトラ・ハーシス」と洪水の話だそうです。
神々の労働の代わりをさせるため、エンリル大神は産婆役マミに頼み、マミは粘土と血で7組の男女を作りました。600年と600年が過ぎ、人間が増えすぎて騒々しくてたまりません。神々は人間を一掃するような大洪水をおこすことを全員一致で決定しました。
そのとき地上にはアトラ・ハーシス (最高の知恵、の意) がいて、彼の守り神エンキからの箱舟を作るようにという警告の声が聞こえました。ハーシスは船を作り、全ての生き物の種と親類知己一同を乗せました。7日7夜の大雨と洪水の後、船はニムシュの山頂に漂着し、鳩、燕を放ちましたが戻ってきました。最後にカラスを放つと戻ってきませんでした。
ハーシスは犠牲をささげましたが、その香りをかいだエンリル神は生き残りがいると知って怒ったのですが、エンキ神とマミが絶滅させるという決定を批判しました。エンリル神は2度と洪水を起こさないようにし、かわりにオオカミや飢饉や戦争で人間を痛めつけよう、ということで妥協したとのことです。

旧約聖書のノアの方舟の話がこれから生まれたのは明瞭です。そして大きく違うのは、天界がたいへん民主的だということ、ハーシスは親類知人も乗せたという所です。

天界が民主的だというのは、著者によれば地上の政治構造の反映だということです。神話創成当時の社会がまだ比較的に民主的だった。その後アッカド、バビロニアと大帝国が成立。バビロニアの叙事詩「エヌマ・エリシュ」によると、マルドゥク神は怪物ティアマトを退治するときに他の神々に絶対服従を要求し、認められました。アッシリアではアッシュール神が同様の立場になっています。
その後一神教への試みが続きます。エジプトのアクエンアテン (BC. 1360-30頃) はラーの絶対的権力によりアテン神の一神信仰を強制しましたが、死後は元に戻ってしまいました。ザラズーストラのアフラ・マズダ信仰は原初的一神教とされることもあるそうですが、イスラムに押されて衰退しました。

ユダヤ教がモーゼ (BC 16ないし13世紀) により一神教として確立されました。イエスのキリスト教の神はどうもヤハウェ/ アラーとは違うという見解もあります。
イスラム教はユダヤ教の直系と言える存在で、草創期から一貫してムハンマドによる政教一致体制であり、天にアッラーという唯一絶対神あり、地上に預言者とその後継者カリフ、という完全な支配体制を確立しました。アラーの支配が貫徹すればもう以後の預言者が必要ないのは当然で、ムハンマドが最後で最大の預言者と宣言したわけです。

しかし、預言者がいなくなっても人間は次々と新しいものを生み出します。そうした新奇なものごとがイスラム法的に、あるいは神学的に許容できるものかどうか、つぎつぎと審査し判断していかなければなりません (イジュディハード)。それは神でもなく預言者でもない、要するに被造者であるただの人間が神の考えを推し量って判断していく、ということです。(それを1400年もやってきていますが、1200年代からは不活発になっています。)
これはある意味でたいへん不遜なことで、クルアーン原典やムハンマドの行状 (スンナ) に立ち返ってみれば、許しがたい冒涜になります。そこからイスラム原理主義が出てくるのですから、イスラムが危険な宗教であることは確かです。キリスト教がイエスに返っても、ジハードにはなりません。(イスラム批判はまた別にします。)

著者アスラン氏は今はイスラムの一流派スーフィズムに納得し、唯一神であり万物が神の顕現であるという汎神論に立っています。それは原初のアニミズムの、肉体とは別個の魂の存在という信仰、また大乗仏教の一切衆生 悉有仏性にも通じる (203-204p) と考えられます。
そうなると氏ははたしてイスラム教徒か?  という疑問も感じますが、スンナ派はなるべくムスリムを不信心者と認定しないそうなので、大丈夫でしょう。
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