魔人の鉞

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降伏原因は ソ連参戦

2019-01-18 08:34:16 | 第2次大戦

「暗闘 スターリン、トルーマンと日本降伏」 長谷川毅著、中央公論新社、2006年。

著者は日本生まれでアメリカ市民権を取得、カリフォルニア大学サンタバーバラ校歴史学教授、専門はロシア史・日ロ関係だそうです。
日本人の作とは思えない、緻密な分析に基づく重厚な歴史書で、たいへん読みごたえがあります。しかしちょっとタイトルが弱い。キワモノ的な内幕本のようにも見え、重厚な内容がわかりません。

「太平洋戦争の終結を、アメリカ、日本、ソ連の三国間の (中略) 国際的な観点から描き出す」(9p) ことを目的とし、日本降伏の決定的要因が原爆だったのか、ソ連の参戦だったのかを解き明かします。結論は、ソ連の参戦こそが降伏の聖断をもたらした、ということです。原爆はほとんど議論の対象になっていないことが明らかです。ソ連の斡旋で講和しようと画策していたのに、そのソ連が参戦してはどうにもなりません。
(思うに、スターリンの悪逆は許せないけれども、日本指導部の甘さは見るに堪えません。ドイツが崩壊してソ連軍がフリーとなったのは4月で、中立条約の破棄を通告されたにも関わらず、ソ連がどう出てくるか警戒もしない。軍の情報ではソ連軍の極東への移動が把握されていたのに、情報が共有されず議論もされない。そして実は日本軍人の強制徴用はヤルタ密約に含まれていた。4か月を無為に過ごして膨大な戦死・空襲死者と損害、シベリア抑留を生じさせてしまいました。つくづく残念なことです。)

著者は、原爆投下に至る前のトルーマンには二つのジレンマがあったとします (14p) ① (ヤルタ密約に基づく) ソ連参戦は日本降伏に必要だが、できればさせたくない。 ② 無条件降伏をさせたいが、終戦を早めるために条件緩和を求める圧力 の二つです。原爆はこれを一挙に解決する手段と考えられた、とします。
そして、ポツダム宣言は最後通牒と考えられているが、実際には 「原爆を使用することを正当化する」 ために発せられたものだとします。スターリンを除外したのは、ソ連を出し抜いて原爆で日本を降伏させることができる、と考えたからでしょう。スターリンはその意図を察して、予定していた対日参戦をなんとか2日早めた、とします。

そして天皇の動向。終戦の聖断でヒーローとなったわけですが、天皇は原爆投下からソ連参戦に至る間、ポツダム宣言を拒否してソ連斡旋に望みをかけ、積極的に政治過程に関与しなかった。(517p) 原爆たった一発で広島が壊滅したのに、それについて真剣な議論がなされた形跡はありません。ソ連参戦が降伏の決定的要因だったという証拠です。国体の定義があいまいで、降伏条件の4条件か1条件かで会議は分裂し、二度目の聖断が必要になりました。

私が思うに、終戦後の天皇や要人の発言はみな天皇を守るという意図が明らかであり、潤色されています。「わが身はいかになろうとも」 というのは映画の演出、つくり話に過ぎないのは昨日の本で明らかになりました。しかし国民は、天皇にはそうあってほしいと願ったのでしょう。だから、神話として生きていると思うのです。そもそも、帝都の三分の一が灰燼に帰し、10万人が死んだ3月10日の東京大空襲を目の当たりにし、さらに本土空襲が続いていたのに、天皇も六巨頭もそれを悼んだ形跡がありません。国民の犠牲は当然だ、くらいにしか考えていなかったのではないかと思います。
 

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