魔人の鉞

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「暴力の人類史」 上巻

2018-10-02 08:57:20 | 文明史・進化論・哲学

「暴力の人類史」上巻、スティーブン・ピンカー著、幾島幸子・塩原通緒訳、青土社 2015年。
人類の祖先から、狩猟採集社会、国家社会、宗教戦争と国民国家の成立、そして第2次大戦後の「長い平和」の時代まで、人類の暴力の在り方を通観する壮大な考察。
私たち現生人類と共通の祖先から分かれたチンパンジーは、かつては平和な動物とされていたが、ジェーン・グドール (1934~)の長期にわたる観察によって、彼らがきわめて残忍なやり方で自分達以外のグループのチンパンジーを殺戮することが分かってきたそうです。そして人類の暴力は彼らとたいへんよく似ている可能性が高いそうです。まり、狩猟採集時代の人類は他のグループに対したいへん攻撃的で、暴力による死亡率は死者全体の10-20%、最高では60%にも及び、カニバリズムも一般的だったそうです。

国家社会の成立で、暴力が国家・首長に一元化されると、暴力による死は大きく減る。もちろん王や皇帝の気まぐれによる理不尽な死がたくさんあったわけですが、全体としてはそれ以前よりも激減する。
世界大戦で6000万人ほどが死んだわけですが、それも人口比死亡率でいうと先史時代よりも大変低い数字になる。また、世界大戦以前の数百年間は戦争に次ぐ戦争の時代で、20世紀が特にひどいというのは勘違いだということです。

そして第2次世界大戦後は長い平和の時代になっています。これは、① 世界的に交易が発展し、戦争するよりも平和的交易の方がお互いに利益が大きいこと、② アメリカ独立宣言や世界人権宣言などに見るような、啓蒙思想がしっかりと根を下ろしたこと、この2つが大きな要因であるとしています。

現代が平和の時代である、後戻りはしない、という著者の確信は、反中反韓をあおる安倍ちゃんや右翼の時代錯誤を示唆しています。しかし、死者数を人口比で計算して古代より減っている、ということについてはちょっと違和感があります。6000万人もの人が戦争で死んだ、そのことが重大です。1-2%だから少ないじゃないか、とは思いません。数千万人が死ぬような戦争は起こしてはならない、数万人でもダメだ。人命尊重の思想が暴力による死亡率を低下させたとすれば、人口比率を強調しても得るところはないでしょう。

あと一つ、国連平和維持軍の活動を高く評価しています。中立の第3者が介入することで対立を緩和できる可能性が高い、というのは理解できます。見直したいと思いました。

なお、これはまだ上巻です。下巻が残っています。
    (自宅で  2018年10月2日)

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