「日本人の原爆投下論はこのままでよいのか」 ハリー・レイ、杉原誠四郎著、山元礼子訳。日新報道 2015年。
原爆投下の原因についての、日米の識者による対論形式の本です。杉原氏は、日本がポツダム宣言を受諾するのにはヒロシマと、長崎の2発目が重要だったと結論します。そして考えられる中では最も 「早期」 の降伏が、アメリカがソ連による日本本土占領を拒否するという良い結果をもたらしたとします。
私は、3月10日の東京大空襲、4月30日のヒトラー自殺・ドイツ崩壊を考えると、8月15日が早期とはとても思えません。
しかし日本では1945年6月8日に最高戦争指導会議が 「今後採ルベキ戦争指導ノ基本大綱」 を決定し、翌日天皇が裁可していました。その内容は九州において本土決戦を行うことです。軍人数十万、民間人百万以上の犠牲者を想定しつつ、敵に打撃を与えて国体護持などの講和条件を確保したいということで、この大綱が降伏をしばらく阻止することになったとします。この重要な大綱のことを私はあまり知りませんでしたので、これだけでも読んだ甲斐がありました。毎日空襲があるのに迎撃もろくにできず、ドイツが負けてソ連が大軍を極東に移動しつつあるのが分かっているこの時期に、このようなバカげた方針を天皇以下皆で承認していたというわけです。何が 「早期」 でしょうか。
また氏は、日本には降伏という概念がなかったといいますが、日清日露でもシンガポールでも、敵は降伏しており、その敵兵を皆殺しにしたりしていません。高松城では守将一人が自害して降参しています。日本軍が降伏しなくなったのは東条の戦陣訓をはじめとする戦争指導で降伏を禁止したからだというのは定説です。氏の主張は間違っています。
この杉原氏は教育学者ということで、歴史についてあまり詳しくない、あるいは正確でないようです。ルーズベルト大統領について、「日本を挑発して戦争に持ち込んだことは、その張本人として夢の中でも忘れることはできないはずだ。」「悪辣にも無条件降伏を最大限に拡大して、日本をして最大限に痛めつけようとした正当性はどこにあるのか。」 (p301) と口を極めて非難していますが、あまりに感情的ではないでしょうか。
アメリカは日本と戦争をするほど厳しい対立はなかったのに、ハル・ノートで 「日本を挑発」 したというのですが、その内容がたいへん厳しいものであったとしても、まだ交渉文書です。それに先立つ満州事変、上海事変、南京大虐殺、南部仏印進駐、と続く日本の軍事行動と対日石油禁輸などの経緯を忘れて、たいした対立はなかったなどというのは、不思議な見方です。ハル・ノートより前に開戦を準備していたのであり、ハル・ノートという紙ペラを見て怒り狂い、最終的に開戦を決行したのです。ルーズベルトの真意についても、十分研究されたようには見えません。
そして、アメリカの対日観を決定したパールハーバーの奇襲について、外務省の失態をきびしく追及します (p304~)。それはその通りなのですが、開戦の原因まで外務省にあるかのような口吻はいただけません。また独ソ戦開始 (1941年6月) の時、対ソ参戦の可能性を対米外交カードに使うべきなのに何もしなかったのも失態だ、というのですが、実際には松岡外相は日ソ中立条約 (1941年4月) を結んだばかりなのにソ連への攻撃を主張し、節操がないと却下されました。日中戦争の泥沼にはまった日本は資源のある南方戦略にシフトしており、南部仏印進駐を行います(7月28日)。ソ連がドイツに集中すれば好都合だったはずです。氏は外務省憎しで凝り固まって、目が曇っているように見えます。
原爆投下が日本の降伏決定に大きな意味を持っていたことは詳しく分析していますが、なぜアメリカが九州上陸作戦を計画したか、それがよくわかりません。20万人もの戦死者を推定しながら、なぜそんな無駄な地上戦を考えたのか。それとの比較で戦死者を出さないために原爆を使った、というのは理屈が合わない気がするのです。戦死者を少なくするなら、空爆や艦砲射撃で数か月やれば日本は確実に崩壊していたでしょう。石油もない、船もない、飛行機もない、鉄道もズタズタ。食料も何も配給です。
原爆も通常兵器の延長としか考えていなかった、と著者は言っていますが、ほんとうにそうなのでしょうか。使用に反対したり、警告してからという科学者もいたのですから、どうも詰めの甘さを感じます。
参考にはなるが、信頼しきれない、要注意の一冊です。
戦争に関する国際法制が、1928年の不戦条約 (ケロッグ・ブリアン協定)で根本的に変化した、とする、「逆転の大戦争史」オーナ・ハサウェイ、スコット・シャピーロ著、野中香方子訳、文芸春秋 2018年。
「日本は世界を支配するルールを懸命に学び、ようやくそこに正式な居場所を得ることができたと思った時、すでにそのルールはアメリカとヨーロッパによって書き換えられていたのだ。征服はもはや許されなかった。(中略)日本の多くの人は (昭和天皇の側近を含め) その条約を、紙に書かれた文字に過ぎないと軽んじていたのだが。」 (252p)
実際には日本も不戦条約に調印し批准していた。知らない間に書き換えられたわけではない。そして不戦条約を根拠にして、ニュルンベルク裁判、東京裁判が行われたと著者は述べる。そこには 「国際主義者」 たちの理論構築の貢献があっ
たことを綿密な考証によって跡付けている。
東京裁判は勝者による後付けの処分に過ぎない、と保守修正主義者は言い募るけれど、そんな単純なものではないことがわかる。修正主義者の議論は杜撰で、国際的論争に耐えられない、バカの壁のようなものではないか。
そして現代では、個人の権利に基づく国際法制への最大の挑戦はイスラム原理主義の、クトゥプの理論だとする。
クトゥプは個人の権利や自由を認めず、アラーのみに主権がありとする。したがって現代国家の主権や個人の自由などは唾棄すべきジャーヒリーヤ (無明) にすぎず、破壊しつくすべきであるとする。これはたしかに現代の国際法制と根本的に対立する概念だろう。
アラーが全能であり、主権はアラーのみにある、とする思想は狂気だと思う。どうしたらそんなにバカになれるのか、その人のために悲しむ。
しかし妥協の余地はない。私は個人の主権と自由を信じる。もしイスラムがクトゥプ理論に走るなら、徹底的に戦うほかに方法はない。理論でも、武器を取ってでも、クトゥプ理論は絶対に破壊すべき相手だと思う。
なお不戦条約は日本国憲法9条の戦争放棄の条文に生きている。不戦条約が絵空事という人たちは、憲法9条をも作文だとして否定する。 しかし理想を失って何事かを成し遂げることができるのか? おぼつかないことではないか。
(わが家で 2018年12月12日)
韓国最高裁の、徴用工に関する判決が日本でひんしゅくを買っています。
政府は国際法違反として国際司法際に提訴することも、としているが、
熱くなりすぎではないか、と思っていました。
もともと日本政府の立場は、個人の請求権は条約によって消滅させる
ことはできない、というものだったはず。シベリア抑留や原爆投下に
ついて、個人請求権は消滅しない、と。
そのへんを、橋下徹氏がすっぱりと切ってくれました。
私自身は橋下を嫌いですが、この論理はなるほどというところがあり、
すこし見直しました。(プレジデントオンライン)
橋下氏は2007年の日本の最高裁判決で、中国人元労働者が日本企業に
強制労働させられたことを理由に訴えた事件でこのように判示した
ことを指摘しました。
(1)国同士は、今後お互いに何らの請求もしない。
(2)平和条約・講和条約によっても、国民個人の賠償請求権は完全には消滅しない。
(3)戦争中の被害に関する賠償請求権について、被害者が権利を行使できない事情がある場合には、時効消滅しない。
(4)ただし平和条約・講和条約というものは、後に民事訴訟が乱発することを避けるために締結されたものであり、個人の賠償請求権は消滅しないものの、民事訴訟で解決することはできない。
(5)民事訴訟で解決はできないが、個人の賠償請求権は完全には消滅していないのであり、被害者の被った苦痛を考えれば、その救済に向けて加害者は適切な対応をすべきである。
(2) を見れば、条約によっても個人の請求権は消滅しない、と言っています。
これは日本の最高裁の判決です。
政府もマスコミも、このことを忘れて、韓国の裁判はひどい、と批判
一色ですが、少しアタマを冷やしましょう。
橋下氏は、日韓で違うのは (4) の所だけだとしています。そして
(5) の方策を考えるべきだといいます。考えるべき意見です。
先日ノートパソコンを買い替えたとき、中古で安くと思って、ついでに
MS-オフィスと互換性の高いというWPS (キングソフト) を使ってみようと
思い、それで探したら14000円ほどで売っていたので、購入しました。
今までのところワードやエクセルをそのまま使えるので、安かったのに
満足していますが、幾つかちょっと不便なところも見つかりました。
① ワードでは、誤変換などでは確定後もソートし変換キーを押すだけで
再変換が可能ですが、
WPSのライターでは、ソートして右クリックで「再変換」を押すことになり、
ひと手間多くなります。
② エクセルでは、同様に文字の誤変換などでは確定後もソートし変換キー
を押すだけでいいのですが、
WPSのスプレッドシートでは確定後は再変換ができず、打ち直しが必要に
なるようです。(これはやり方があれば教えてください。)
スプレッドシートでの文書作成をあまり想定していないようです。
③ エクセルでの図形の回転は、任意角度で回転できるのですが、
WPSのスプレッドシートでは90度単位でしか回転できません。これは地図
の加工など細かな操作が不便です。(やり方があれば教えてください。)
高価な専用ソフトを使えばいいかもしれませんが。
いずれも大した問題ではありませんが、どこにも書いていないようなので
ここに書いておくことにしました。
プレゼンテーション (パワポに相当) はまだ使っていません。
(2018年 12月 10日 自宅で)