魔人の鉞

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「道徳が宗教を基礎づける」 スポンヴィル氏に納得

2017-06-29 16:25:31 | 宗教

このところ、なぜ世界が存在するのか、といった哲学的な本を何冊か読んでいました。
しかしどうも、すべてのことに存在理由があるとするライプニッツの 「充足理由率」 自体に無理があるのではないかと思っていたところへ、これだ! と分かる本に巡り合いました。

「精神の自由ということ」 アンドレ・コント=スポンヴィル著、
小須田健/C・カンタン訳、紀伊国屋書店 2009年。
著者はフランスの哲学者で、「誠実な無神論者」を自称しています。先に読んだ本のことも交えてまとめてみます。

「物理パラドックスを解く」 ジム・アリ=カリーリ著、
松浦俊輔訳、ソフトバンククリエイティブ 2013年。
『カオス理論は、秩序と決定論がランダムに見えるものを生むことを教えてくれる。私たちの宇宙はやはり決定論的で、物理学の基本法則にしたがっているが、その一方で、非常に複雑で無秩序で、予測できなくなる傾向を示す場合が多い』といいます。『今や、科学のほとんどあらゆる分野でカオスがみられる。』 (カリーリ、233p)
さらに、『同じ単純な規則を反復して適用すると、最初は整った規則的動きでもカオス的振る舞いになり、場合によっては、なんの目立ったところもない不定形の形から、美しい複雑なパターンが生まれることもある。』 (カリーリ、234p)
あるがままの自然から、人類が自然淘汰によって生まれてきたと考えてなんの不思議もない、ということにもなるでしょう。

「人間の生の無意味さはいかに語られるか」 舟木英哲著、
東洋出版 2008年。
著者の考えが分かりづらく、たいへんに読みにくい本です。結局 『世界がなんの意味もなく存在しているなら、人生にも意味がない。』 と著者は主張しているようですが、はたしてそうか。人間の生は神の意図あるいは何らかの 「宇宙の目的」 のために奉仕することでしょうか。
『人生がたった一つしかないからといって、台無しにしてよいことにはならない。』 (スポンヴィル、78p)

「なぜ、何もないのではなく、何かかがあるのか?」 ジム・ホルト著、
寺町朋子訳、早川書房  2013年。
ライプニッツの充足理由律を前提にして、いろいろな高名な学者達に世界の存在理由を問いただします。充足理由律にこだわるとどうしてもいろいろな理屈を捏ねなければならなくなる。しかし、
『絶対に説明不可能なものは存在しないのか。偶然性が最後の言葉になってはいけないのか。』 (スポンヴィル、116p)
『世界や自然や存在の実在以上に神秘的なことなど何一つない。私たちは存在のど真ん中に、神秘のど真ん中にいる。宇宙は十分に神秘的なものだ。なぜ、別の神秘を持ち出す必要があるのか。』 (スポンヴィル、145p)
世界はあるがままに在る。理由も目的もなく存在する。東洋にはもともとそうした哲学がありました。宗教的な人はそれでは困るかもしれませんが、神は存在しないのです。

神について、世に満ちる悪の存在は神の創世を否定するとします。
『無神論者にとって、悪の存在は自明のことだ。だが、信者にとってはどうだろうか。全能にしてかぎりなく善である神によって創造された世界のいたるところに、なぜ悪があるのだろうか。まさにここで、自明なことが反論となり不可解なこととなる。』 (スポンヴィル、155p)
『人間の悲惨さは、人間の偉大さとその自然的起源との関係に比べた場合、その神的起源とどうやっても両立しえないもののように思われる。』 (スポンヴィル、168p)
聖書やコーランと世界をくらべてみるなら、『世界のほうがずっと神秘的で、広大で、ずっと計り知れないところがあり、ずっと驚きに満ちていて、最後にずっと真なるものだ。聖書やコーランはたわごとと矛盾に満ちているので、世界の一部をなしているのでもないかぎり、そうしたものたりえない。』 (スポンヴィル、143-144p)

そして、無神論者の道徳性について。ニーチェの言うように神は死んだが、『その名のもとに流通してきた一切の価値 (中略)、道徳性や共同性や誠実さといったそれらの価値を必要としているのが私たち自身に他ならないのは明らかだ ― それも、人間的に受け入れられるとみずから思えるように生きていくために。』 (スポンヴィル、36p)
共同性や誠実や愛は神がなくとも成立する、むしろ、『もはや神が道徳を基礎づけるのではなく、道徳こそが宗教を基礎づける』。(スポンヴィル、62p)
『無神論者にとっては、悪は一つの現実であり、それとして認め、たちむかい、できるのであれば克服しさえすればよいこと』 である。スポンヴィル、154p)

一つずつ、少しずつ、世の中を良くしていこう、ということであれば大賛成です。おそらく神はいないが、いなくても困らないし、時にはいない方がよい。

難しいですが、とても貴重な本です。
    (わが家で  2017年6月29日)

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