魔人の鉞

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自己とは関係性である

2017-12-16 13:03:47 | 文明史・進化論・哲学

「脳はいかに意識を作るのか」 ゲオルグ・ノルトフ著、高橋 洋訳、白掦社   2016年。

ギリシャの時代から、唯心論、唯物論は哲学上の大問題でした。著者は、脳の事故や病気による精神異常の研究による精神科学を通して、この問題の解決の方向性を示唆します。

もちろん、脳という物質の働きはまだまだ十分に解明されてはいないのですが、脳が心の本源であることは、一般人には常識となっています。しかし哲学的には依然として難問です。著者はいろいろな精神傷害の症例を分析し、このように言います。
『心と脳という2つの実在間の哲学的な問題とされていたものが、「内因性の活動によって、いかに神経活動が心的特性に変換されるのか」 という変換の問題に置換えられる。』(83p)

安静時の活発な脳活動などによって、外部からの刺激や経験がアイデンティティと呼ばれる精神性、心を作り出します。しかし脳は単なる物質であり、それが心を作りだすというのはどうしても納得できないという人が少なくありません。それなら、まったく同じ脳の状態からはまったく同一の精神が出てくるはずだと主張するらしい。
しかしそれは議論のための議論でしょう。人は生まれる前からまったく同一の条件というのはあり得ない。脳の構造・シナプスのつながり方にしても、遺伝子にしてもひとりひとりみな違っている。また生まれてすぐから、脳への刺激は一人ひとりすべて異なっており、同じ経験・記憶を持つことは一人としてあり得ないのです。だから、まったく同じ脳の状態などというのはただの空論にすぎません。万一物理的にまったく同じであっても、蓄積されている記憶や経験はすべて違うのです。

著者はさらに進んで、自己とは関係性だと主張します。自己は 『心として、つまり独立した心的実体としては存在しないことは確かである。(中略) 自己は、脳と身体と環境相互間の関係の中に見出すことができる。一言でいえば自己とは実体ではなく関係である。』 (中略) 『この考え方は、心や実体ではなく、関係やプロセスに基づくものとして自己を説明する、新たな哲学的アプローチを提起する。』 (111p)
なんと明瞭なことでしょうか。人間の心とはヒトの関係性だと。脳の働きがどのようにして心を作り出すか、詳細な活動プロセスはまだ分かっていないけれども、説得力があります。

ということは、ひょっとして人工知能が心を持つこともあり得なくないのでは、という不安?? を感じさせます。人工知能には安静時脳活動のような働きはセットされないでしょうが、ディープラーニングというような仕組みはすでに開発されています。AIがどこまで進むのか、恐ろしい気もします。
    (わが家で  2017年12月6日)

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