魔人の鉞

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イスラーム社会の謎を解き明かす 「哲学」

2022-02-21 16:03:57 | 文明史・進化論・哲学

<世界史>の哲学 イスラーム篇 大澤真幸著、講談社、2015年。

イスラームについていろいろ読んできた中で、もっとも分かりやすく難しい本です。

前書きにある、イスラーム世界に関する大きな1つの疑問、「資本主義は、どうして、逸早く、イスラーム教のもとで発達しなかったのか。」(6p) 利子の禁止があったというのは俗説で、キリスト教でも利子は蔑視されていました。それどころか、コーランにはこんな章句さえある。「アッラーに素晴らしい貸付けをする者はいないか。何倍にもしてそれを返却していただけるんだぞ。」 (2章246節) 「たとえ比喩であるとしても、投資し、それによって利潤をあげることが善いことの典型であるとの了解が無ければ、このような表現は絶対に使われまい。」(86p) そしてリバー (利子) 禁止をかいくぐる方法はいくらでもあり、昔から利用されているそうです。

しかし大きな要素として法人という概念が認められないこと。法人は神との契約で定められた五行等の礼拝や巡礼の義務を果たせないから、認められないそうです。(275p)  また、被造物たる人間が永続的な法人などというものをつくるのは、神への冒涜になる。(276p) これでは、資本主義が発達したくてもできないのは当然です。

 

大きな疑問その②。アッバース朝以来のイスラーム帝国は異教徒 (特にキリスト教徒) の少年少女を狩り出して奴隷とし、イスラームに改宗させて教育し、官僚や常備軍団「イェニチェリ」の軍団員としたそうです。(7p) 他の文明圏ではこういうことはしていない。それは、根深い部族主義に対抗するために作られ、発展させたシステムだと言います。(201p) それはオスマン・トルコ帝国で最高度に達し、めっぽう強かったと言われています。しかし当初は妻帯も禁じられていたイェニチェリが時代とともにその子供たちに後を継がせようという流れになり、結局ある種の疑似部族・利権集団となって問題化していったようです。

 

疑問その③。イスラームはアッラーを絶対化し、アッラーへの帰依の他には部族的な団結など許されないはずなのに、ムハンマド以来1450年も経つのに、「ほぼ純粋状態で残存している部族主義的倫理」があるそうです。(7p) ムハンマド以前の時代をジャーヒリーヤ=無道時代 と呼ぶのですが、井筒俊彦氏によると、ジャーヒリーヤは部族社会の誇り高い「不羈独立の精神」を指す言葉だそうです。(204p)  対してイスラームとは、「神のアブド=奴隷」 (235p) になることを選ぶということです。まったく水と油のはずが、今日でも仲良く共存している。

本当にインシャラーのイスラーム社会はバカバカしい宗教的規制と矛盾に満ちています。人間が神の奴隷では、とても人間の精神的発展は望めません。

 

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イスラム世界が没落した理由

2022-02-13 12:01:08 | 文明史・進化論・哲学

西洋の優位はすでに消え去ったのか? を考える、ニーアル・ファーガソン「文明~西洋が覇権を取れた6つの真因」 仙名 紀 訳、勁草書房2012年。

競争・科学・所有権・医学・消費・労働の6つの分野でその原因を分析しています。私が興味を持ったのは「科学」。(123-129p)

1530年から1789年の科学革命の時代に生まれた特に画期的な発明・発見29件のすべてが西欧のもので、同じ時期にオスマントルコにおける科学的な進歩と言えば、なきに等しい。この大差を生んだ理由として最も納得できる説明は、ムスリム世界においては宗教が絶対的な統治権を持っていたからだ」

1530年というとスレイマン大帝 (在位 1520-1566) の時代からということで、オスマントルコの全盛期を含んでいます。

「11世紀の終わりごろ、イスラム教のリーダーたちは、古代ギリシャの哲学はコーランの教えと合致しない、と述べていた。神がみ心に従って意のままに行うべきことを、人間がおこなうなどもってのほかだ、という。」「(アルガザーリー 1058-1111 ら) 宗教指導者の発言の影響力は大きいから、古い哲学を学ぶことは下火になり、書物は焼かれ、自由な思考をする者は迫害された。」

「イスラム世界では、印刷技術にも抵抗があった。オスマントルコでは、手書きが神聖視された。」「学者のインクは殉教者の血より神聖だ、と言われた。」「1515年、セリム1世は 『印刷に関わったものは死刑』 という布告を出した。」

1570年代にタキュディン・アルラシッドによりイスタンブールに建設された天文台は「先端的な機能を持ち、デンマークのティコ・ブラーエのウラニボリ天文台と肩を並べられるほどのものだった。」「1577年に彗星が観測され、タキュディンはオスマントルコの戦勝を予知するものとしたが、宗教指導者がタキュディンは宇宙の秘密をあばこうとしたているとして、首をはねられた。1580年、天文台はスルタンの命によって破壊された。それから1868年まで、イスタンブールには天文台がなかった。」

実は紙、印刷術、火薬、機械式時計、溶鉱炉は中国の発明。代数学、医学などはイスラムの文化だそうです。ゼロの発見はインドで、イスラムが取り込んでアラビア数字ができました。中国もイスラムも、かつては高度な文明を誇っていて、西欧は世界の端にあるちっぽけな辺境に過ぎなかった。しかし文明の発展を制約したのはイスラームや儒教といった、宗教だったらしい。言葉が人を制約する力は恐ろしいほどです。いい方向に向かえば素晴らしい威力を発揮するが、桎梏となってしまうと打破するにはたいへんな暴力が必要になる。

イスラムでは神がすべてを決めるので、科学的に推論すると神を冒涜することになってしまうようです。今はそれほどひどくなくなってきたようですが、やはりインシャラー、何事も神の思し召しがあれば、約束さえも神様次第という世界です。トルコもイスラムに回帰してしまったし、イスラムが改革されるにはもう1000年くらいかかるかもしれない。石油が枯渇したら、もうおしまいです。その時に初めて根本的な改革が起こるかもしれません。

 

 

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マヤ文明は日本より進んでいた!

2021-11-25 21:02:02 | 文明史・進化論・哲学

最近ハマっている、メソアメリカに関する本です。

「メソアメリカを知るための58章」 井上幸孝著、明石書店 2014年。

メソアメリカとはメキシコ南部から中米一帯を文化的にとらえる概念で、マヤやアステカなど、スペイン征服以前に興隆した古代からの中米文明世界を指す用語です。

私はこのあたりの文明についてほとんどシロウトで、この本を読んであらためてオドロキました。最古のオルメカ文明はさておいて、マヤ文明はまさに驚異です。紀元前1000年頃から発展し、紀元前8世紀には神殿ピラミッドを創り出し、紀元前300年頃にはマヤ文字を創出し、人類史上で最初にゼロを意味する文字を発明しました。暦学では今日にも劣らない高度で複雑な知識とシステムを持っていました。5126年で1巡する長期暦、256年で一巡する短期暦というものもあり、マヤ文字の解読でマヤの年代は正確にわかるそうです。

マヤでの土器の使用開始がほぼ紀元前2400-2000年頃とされるので、日本の縄文土器の歴史が紀元前1万5000年頃といわれるのと較べれば1万2000年ほども遅い。三内丸山遺跡が紀元前5000年前後ですから、それからでも3000年ほど遅いのです。そしてマヤ文明は紀元前500年頃には「石器の都市文明」といわれる大都市をいくつも発達させ、独自の文字を創り出しました。日本で神武天皇の開闢といって自慢している、まだ遺跡もなく文字もない大幅にサバを読んだ年代には、すでに数万人の人口を持つ石造の巨大都市がたくさんあったのです。日本は1万年以上もあった先行者利得を生かせず、都市文明も文字もメソアメリカに遅れることになったのでした。

人類の叡智はまことにすごい。それは人種や民族の違いを越えていて、人を侮ってはならないと教えています。カトリックのスペイン人はその文明をほとんど壊滅させてしまいました。ローマ教皇が2度にわたって謝罪したのは当然です。残念ながらキリスト教は今では現地で最も支配的な宗教です。支配者の宗教が人々を変えてしまうので、いかに宗教が人間の精神を束縛するものかがよく分かります。

イスラームも同じです。キリスト教のような強制改宗はあまり無かったかもしれないが、論理的に同じことです。イスラームでは他宗教への改宗は許されず、死罪になります。イスラームであることが経済・社会的に有利になるのは当然です。宗教は麻薬というだけでなく、人間を拘束する思想的な監獄です。

マヤ文字の解読は急速に進んで、今ではほぼ80%くらいだそうです。メソアメリカの文化は人類全体の知的財産です。もっと注目されていいと思います。

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メソアメリカ、石器の都市文明

2021-11-10 10:22:41 | 文明史・進化論・哲学

初めて古代アメリカ史を。「古代メソアメリカ文明」 青山和夫 著、講談社、2007年。

アメリカ古代史についてはマヤ、アステカ、インカなど地理も年代もうろ覚えで、ほとんど知りませんでした。著者は、メソアメリカとアンデスを含めて、世界四大文明ではなく世界六大文明と考えたいとします。

古代メソアメリカ文明は青銅器も鉄器も持たない 「石器の文明」 で、しかも 「非大河灌漑文明」 で密林の中の文明でした。紀元前1600年ころに始まるオルテカ文明は巨石像で知られます。日本の縄文時代 (新石器時代にあたる) の三内丸山遺跡が紀元前3600~2100年頃といわれますから、それよりも 2000~500年ほど新しいことになります。

紀元前600年頃に始まるマヤ文明は文字を持ち、ゼロの概念を発見し、暦法に優れた文明で、いくつものピラミッドと数万人の人口をもつ多くの都市が発達して、著者は「究極の石器の都市文明」と呼んでいます。驚いたことに球技場まであったそうです。そしてマヤ地域はアステカに征服されず、スペインのアステカ征服後にもマヤ諸都市の反乱は長く続いたそうです。

さらに紀元前100年~後600年のテオティワカンは12万5000~20万人という、当時のローマにも匹敵する大都市で、600ものピラミッドが林立していたそうです。しかもそれが石器文明なのです。

その後トルテカ文明、そしてテノチティトランを首都とするアステカ文明 (1350年~) が続きますが、全体としてこれら諸文明・都市は地域的にも全体としても政治的に統合されなかった、というのがメソアメリカの大きな特徴だそうです。最後のアステカ王国は3都市連合を基盤にメソアメリカ最大の王国を築きましたが、諸都市は独立性が強く 「まだら模様の王国」で、統一帝国にはなれませんでした。(218p)  マヤ地域はまったく独立していました。

ほとんどの文明世界はそれぞれ一つの帝国に統合されました。エジプトの古王朝、メソポタミアのアッカド王国、黄河文明の殷、そして南アメリカのアンデス文明は文字を持たないインカ帝国が統一したのですが、メソアメリカは統合されなかった。これが不思議です。他者を支配するのは人類の本能かと思ったりするのですが、メソアメリカの支配層は、そうではなかったのか。20万人の首都を持つなら、その力はあったと思われますが、あるいは時間が足りなかっただけなのか? 

石器の大文明というのもオドロキ。全く独立的に文明が起こったというのも画期的。ゼロの発見、統一帝国が生まれなかったことなど、メソアメリカ文明は驚異に満ちています。

そしてキリスト教のスペインがおこなった文明虐殺はひどいものでした。1992年にローマ法王ヨハネ・パウロ2世がドミニカ共和国で「植民地化の下での教会の罪」ついて謝罪し、フランシスコ法王が2015年7月9日に訪問先であるボリビアサンタクルスで「アメリカ大陸の植民地化」について謝罪したのも当然です。

しかし古代文明の子孫は生きています。マヤ諸語を話す人たち800万人をはじめ、先住諸民族は千数百万人に上るそうです。(247p)  

「メソアメリカの石器の都市文明は世界6大文明のひとつであり、人類の歴史の重要な一部をなす。古代メソアメリカ文明なくして真の世界史とはいえない。」 (247p)  

まだまだ学ぶことが多くありますね。

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孤絶したイースター島は 宇宙における地球

2018-11-30 08:51:05 | 文明史・進化論・哲学

「文明の崩壊」上下、ジャレド・ダイアモンド著、楡井浩一訳、
草思社 2005年。

地球上に存在し、崩壊してしまった文明の、崩壊した原因を詳細に
分析した本です。それは森林破壊をきっかけとして表土の浸食が
引き起こされ、食料生産が阻害されることが主要な原因になって
いることが通例だとのことです。
著者の故郷モンタナ州の現状にも危機感を表明しています。また
下巻では江戸幕府の森林政策が成功例として分析されています。

モアイの石像で知られるイースター島はほとんど樹木がありません
が、かつては森に覆われていたそうです。またアメリカ大陸で唯一
文字を持っていたマヤ文明も、丘陵地の森林破壊を引き金にして
文明としては崩壊した、としています。

「イースター島の森林破壊が異常なほど激しく進行した理由とは、
(中略) 島民たちが先見性がなかったとかいうことではない。(中略)
イースター島に関しては、ほかのどの社会にも増して、環境の脆弱
性のもととなる要因を詳細に上げることができる。」(189p)

「先住ポリネシア人時代のイースター島は、現代の宇宙における
地球のように、太平洋の中で孤立していた。(中略) 現代の地球人
も、事態の深刻さが増したときに頼っていける先はない。」(190p)

環境破壊について深く考えさせられる本です。

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