イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

A(エース)でJ(ジャック)

2010-08-22 14:45:02 | 映画

遅まきながらUSドラマ24(トゥウェンティ・フォー)』のプチ・マイブームが来ています。

そもそもは2004年の春頃、当地のローカルフジテレビ系で深夜に、シーズンⅠが週一、2エピソード=2時間分ずつ放送されていたんです。DVDですでにはまっている人も多いと聞いていたので、第2週から途中参入して、一応、最終話まで録画視聴しました。

 そのときの印象というか、読後感がいまいちだったんですよね。「USでヒットした理由はわかるし、DVDではまる人の気持ちもわかるけど、あまりにも“はまらせ狙い”であざといなあ」「人物が次から次“出しては退場させ、出しては退場させ”で“あの人、あの後どうなっただろう、こうなっていてほしい”という観客の心情を掬い取ってくれないし、ドラマじゃなくてむしろゲームのテイスト」、何よりホラ、ジャック・バウアー妻にしてキンバリーの母親=テリーの妊娠とそのカミングアウトが、土壇場に来て事態を一変させる、まあそれだけが文字通りの“引き金”ではなかったのかもしれないけど、女性の妊娠、子供を身ごもったことをああいう展開のためのツールとして使う姿勢が、「大枚の製作予算かけて、結局、日本の昼帯と思考が一緒じゃん」と思えて、言わば生理的に受けつけず自分の中では“要らないタイトル”入りをしていたのです。

当然その後の、シーズンⅡ以降の放送もノーチェック、ノータッチで何年も過ぎていました。

しかし、脱税も年金未払いも不正受給も、5年経ちゃ時効になるわけですよ(関係ないにもほどがある)。この暑さですからねえ。うちの高齢組がふらふら外出して熱中症になられちゃたまらないので、インドアにつなぎとめておくためのハラモチのいい、ヴォリュームのあるソフトを何かしらあてがっておく必要がある。特に春以降は、ウチじゅうでいちばん録画っ子だったはずの月河のレギュラー録画視聴番組が、実質『ゲゲゲの女房』だけなので、レコーダーも休眠時間が多いのです。

ネコにかつぶし、高齢者には時代劇……とは言えヤッコさんたち、『鬼平犯科帳』も『剣客商売』も、『仕掛人梅安』の小林桂樹さん版も渡辺謙さん版も、緒形拳さん版も気がつけば踏破してるのね(年が年だからシリーズの最初のほうもう一度見せたら忘れてるかもしんないけど)。

そこで、試しに『24』の、月河は放送録画で視聴済みのシーズンⅠ序盤を見せてみて反応をみていたところ、思いのほか食いつきが良く、「早く続きが見たい」と言い出したので、プチブームの始まりとなったわけです。

懸念していた「展開が速すぎ複雑すぎてわけがわからない」「誰がいい人で、誰が悪人なのかわからない」のたぐいの不評も出ませんでした。とにかく主人公のジャック・バウアーが毎話、毎局面、即断即決で話を前に進めていくのが気持ちいい様子。

月河が「うわぁ…」と思った終盤のテリーの運命も、DVDでは“もうひとつのエンディング”が収録されていたり、テリー役のレスリー・ホープが、劇中の蹌踉たる挙措とは真逆のつやつやきれいめメイクでインタヴューにニコニコキャッキャと答えていたりで、だいぶ救われました。たぶん早い段階で、ふた通りのエンディングが書かれ撮影されていたのでしょうが、シーズンⅡの製作が決まり、ジャックが罪悪感喪失感に悩み自己処罰願望にとらわれている状態でⅡをスタートさせたほうが作りやすい…ぐらいの経緯で、放送されたほうのエンディング採用になったのではないでしょうかね。

そんなこんな“内輪事情”に想像を逞しくする脇道方法論も覚え、初見から6年以上過ぎて、月河も“あざとさ耐性”ができたようで、再生中の三分の二ぐらいは高齢組と一緒に楽しめていますね。

「腰抜け野心家ロス支部長メイソン役の俳優さんと、東欧系般若顔のニーナ・マイヤーズ役の女優さんは共演が縁で結婚してもう子供も2人いるらしいよ」「“第二の波”のサイエド・アリ役の俳優さんは『道』のアンソニー・クインの息子だよ、顔似てね?」とか紙媒体の立ち読みやネット覗き見で拾った豆知識を投下しながら、どうにか高齢組の興味をつなぎつつシーズンⅢまで来ました。

「トニー、ヘリで現場入り似合わないなと思ったら速攻撃たれてんの」「キムはどっか座敷牢閉じ込めといたほうがいいな」など、高齢組なりにレギュラーキャラの人となりを掴んできたようです。本家USではラストシーズン放送済みのようですが、ウチも早晩ラストまで踏破できそう。

でもキーファー・サザーランドと言えば月河にとってはいまだにジャック・バウアーよりは『スタンド・バイ・ミー』のエース・メリルなんですよね。1983年、初めてのUS渡航時、サムソナイトに詰められる限りのペーパーバックを土産に買い込んだ中にスティーヴン・キングの『Different Seasons』があり、帰りのユナイテッド機の中で不眠で読んだ『FALL  FROM  INNOCENCE   The Body』でひと目惚れならぬ“一読惚れ”したエース・メリル。85年にこの小説の映画化情報を知り、87年、「どんな俳優さんがどんな演技でエースに扮するんだろう?」だけが興味で『スタンド・バイ・ミー』公開の劇場に飛び込みました。

クレジットを確かめずとも、登場ファーストカットで「あーーーコイツがエースだ!」とピンと…と言うより、ドッカーンと来ましたね。ちょっとレッディッシュなブロンド短髪、“栄養の良いめのオオカミ”みたいな風貌。主人公の年少組ボーイズにジャックナイフを構える姿勢は、いま思えばバウアー捜査官から「ワキが甘い!」と駄目が出そうでしたが、“中学生でオープンカーを乗り回してたブラックシャドウズ時代の花形満”みたいな危ういカッコよさがバチバチ放射していて、「よくぞこんなにぴったんこのエース役を…」と月河、ほとんど泣きそうでした。

大御所性格俳優のドナルド・サザーランドの二世。いま思えば、コネオファーだったのかもしれないんですけれどね。エミリオ・エステベスやチャーリー・シーンらブラット・パック仲間と共演した『ヤングガン』『ヤングガン2』のドクも魅力的な役で、「オレにもっといい場面よこせよー」「オマエ前のシーンでくさい台詞あっただろ、ここはオレだよ」「さっきもオマエアップとったじゃんずるいぞー」みたいな同世代俳優くんたちのやりとりがあったっぽくて、映画としての出来とは別に興趣尽きなかったですね。

ジュリア・ロバーツと婚約→ドタキャン以後は、いちいち食いついてやきもきするのもバカバカしいぐらいのやんちゃゴシップ製造機ぶりを発揮し続けているキーファーですが、エース・メリルは永遠なり。おそらくはやんちゃの度が過ぎたがゆえに、ややしばらくメジャー映画界のメジャーな役に縁が薄かったのでしょう。

映画界で干されたがゆえに格落ちのTVで開花し全米的人気を得るというのもよく聞く話。ヒョウタンからコマ。災い転じて福となす。ロバーツドタキャン事件以後二度ばかり結婚はして、娘さんもあるようです。

映画原作『The Body』のラストでは、映画で描写された晩夏から18年後、顔まで太った冴えない四十路男になったエースが再び登場し、成人した主人公少年たちのひとりと対面して、昔を思い出すこともなく背を向けて去ります。拷問シーンなど見るにつけいささかメタボながら、24時間は飲まず食わずで走れる戦える高燃費ヒーロー、ジャック・バウアーが、くたびれたエースを見たらどう言うか。

一段落したら高齢組に『スタンド・~』と『ヤングガン』正続シリーズも見せてみたいですな。ルー・ダイヤモンド=フィリップスは見分けがつくかな。

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白と黒と虹と

2010-08-21 14:55:24 | 昼ドラマ

藍子ちゃん(菊池和澄さん)のモンスタークラスメイトは赤木留美子(アカギ・ルミコ)(藤崎花音さん)(@『ゲゲゲの女房』)。「先生に言いつける」をちらつかせていたずら男子軍を撃退、恩を売った上で「私をモデルにしたルミコって女の子を『鬼太郎』のアニメに出して」と藍子ちゃんに難題を吹っかけ、「できないならできないって、最初から言えばいいじゃない、期待させておいてウソツキ」と仲間外れペナルティを課す、政治家もびっくりの“小さな策士”“腹黒ちゃん”でした。

小学校も34年になると、こういう、世渡り計算上等な子がどのクラスにも、もれなくひとりはついてきますな。ガタイ能力で決着をつけたがる男子より、クチ先回路の発達が早い女子に多い。まー所詮はガキレベルの謀略なので、どこかで“策士、策に溺れる”式に手痛い目に遭って、いっときは素直になって見せるんですがね。雀百までの喩え通り、死ぬまで人の顔見てはハラの中で加減乗除、全体集合部分集合、方程式三角関数、ちゃっちゃか組み立てて生きて行くんでしょう。

藍子ちゃん視点で見守る視聴者からは嫌われ役になるので、子役さんにはちょっと気の進まないお仕事かな?と思いましたが、少女誌表紙風の指先アゴ杖が似合う藤崎花音さんナイスジョブ。かわいい昭和のお嬢さまワンピがいろいろ着られたので、まあ役得もあったということで行って来い。女性向けドラマにおける高慢いじめ役って、回り回って結構おいしいポジションなんですよね。

笑ったのは昨日(20日)放送回で、布美枝お母ちゃん(松下奈緒さん)手づくりのプレゼントをこっそりゴミ箱に捨てようとしてイカルばあちゃん(竹下景子さん)に見つかった藍子が、喫茶“再会”でばあちゃんと差し向かい、アカギ・ルミコちゃんの誕生会案件を相談する場面で、店内に流れていたBGMがさりげなくコヤナギ・ルミコさんの『瀬戸の花嫁』でした。こういう小ネタの埋め込み→発掘は作るほうも見るほうもめちゃめちゃ楽しいけど、大丈夫なのか。本家小柳ルミ子さんにほのか~な権利関係は発生してこないかしら。昭和47年、特に前半は世を席捲した大ヒット曲でしたが、賞レースでは秋リリースのちあきなおみさんの『喝采』と星を分けました。

小柳さんと言えばもちろん昭和46年『わたしの城下町』のデビューヒットで、当時の日本国有鉄道が仕掛けた観光キャンペーン“ディスカバー・ジャパン”ブームの一翼をも担った昭和歌謡の代表歌手であるとともに、その後女優としても長く活動され、TVデビューはほかならぬNHK朝ドラだったはずです。

『虹』というタイトルで、小柳さんの母親が南田洋子さん、『ゲゲゲ』の布美枝さんと同じ専業主婦ヒロインでしたが、月河、なにしろ子供だったもので、夏冬休みか風邪引いて休んだ日ぐらいしか見ていませんから、旦那さん役が誰だったかまるで記憶がない。影のうすい旦那だったのかしら。途中で未亡人になるストーリーだったかもしれない。ウロ覚えですみません。

とにかく小柳さんは、ふたりいる南田さんの娘のうち、おっとり、じれったいめの長女のほう。おませ系で勾配のはやいメガネっ子次女役は、当時のベテラン子役・永野裕紀子さんだったと思います。

このドラマが放送終了してすぐ、『シャボン玉ホリデー』で『城下町』を歌う小柳さんを初めて見たときには、あの二の線のほうの娘さん役の人、歌えるんだ、と軽く驚きました。宝塚音楽学校首席卒業(初舞台のみで退団)という経歴を知ったのはずっと後です。歴代の中には『ぴあの』純名里沙さんや『てるてる家族』紺野まひるさんなどジェンヌさんヒロインもいますから、当時は典型的な“ホームドラマ顔”だった小柳さんも一度は朝ドラヒロイン役、いってみたかったところではないでしょうかね。それより先に歌が大成功して、長丁場の連ドラ主役が無理になってしまい、痛し痒し。

一昨年の昼帯ドラマ『白と黒』での“おとなの妖精”的な役・青の館の彩乃さん以後、演技する小柳さんをTVで見かけていないような気がしますが、同世代の竹下景子さんが老けづくりでおもしろ猛烈なお祖母ちゃんをこれだけ見せてくれているのですから、小柳さんの孫持ち役もそろそろ、朝のこの枠で来てもいいような気がしますよ。色っぽくてはっちゃけたお祖母ちゃん。未矯正の八重歯がチャームポイントだったお若い頃は、ドリフの番組なんかでよくネタで「鬼ババ」なんて言われていましたから、踊るおババってのもいいかも。

ある意味、朝ドラって、祖父祖母のキャラ、キャスティング次第な世界でもありますからね。

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おつむ点々

2010-08-18 23:11:53 | 朝ドラマ

そうかぁ、スガちゃん(柄本佑さん)も気がつけば水木プロアシ歴6年ですか(『ゲゲゲの女房』17日放送分)。

昭和41年春、まだ水木プロダクションが会社として発足する前、アシスタント募集の広告をゼタで見て、自筆原稿持参で村井家を訪れたのが運のツキ(どっちが)。「漫画は人それぞれですから、あんたはあんたで描いとりなさい、私の絵とはだいぶ違いますな」「もっとデッサン力をつけなさい」とのしげる先生(向井理さん)のていのいい玄関払いトークを“人それぞれ=個性を伸ばせ”“デッサン力=現場で経験踏めばつく”と自己都合翻訳、二度目に押しかけたときに本命アシの小峰(斎藤工さん)、倉田(窪田正孝さん)がちょうど入ったところだったのを利して居座ってしまい、消しゴムかけと点々打ち、ときどき藍子&喜子姉妹の子守り要員として、いつの間にやら最古参スタッフになってしまいました。

転職歴少ないほうではない月河としては、ひとつの職場、かつ中小企業、しかも同職種、なかんずくデスクワークで同デスク位置に56年超ともなれば、かなりのベテラン感、牢名主(ろうなぬし)感があります。

先週来、雄玄社の新人美人編集者・松川冴子さん(杉本有美さん)に関心ありありの様子ですが、今度はデスク昇格の北村(加治将樹さん)のみならずイトツじいちゃん(風間杜夫さん)ともバッティングしてやんの。たぶんドラマ時制では飛ばされた昭和43年夏から昭和47年初夏までの4年ばかりの間も、点々打ちながら、若い女性が視野に入ってくるたびにヨソ見しまくってたのだろうなあ。

しげる先生を筆頭に、水木プロと周りの漫画界、さらには村井家両親も含めて調布のあそこらへんは異才の人、異能の人、あるいは「漫画人ダマシイ!」に集中した、いっぷう変わった人があふれているので、人相だけならいちばん怪しい風なスガちゃんがいちばん世間一般“普通の人”なのかもしれません。

……いや、まるっきし普通の人じゃ三日三晩点々打ち続けらんないか。

それにしても、イトツじいちゃんまでイチコロにした松川さん役・杉本有美さんがゴーオンシルバー(@『炎神戦隊ゴーオンジャー』)なら、昭和47年時制になってから登場のアシのひとり・中野役は、映るカットがものすごく少ない上、ほとんど背中姿なので確認しにくいのですがタイムブルー(@『未来戦隊タイムレンジャー』)城戸裕次さんです。ゲキレッド鈴木裕樹さん、ハリケンブルー長澤奈央さんも出演済みだし、ここまで“戦隊卒業生率”が高いと、「あとイエローと、ピンクも誰か来ないかな」「寒色暖色のつなぎにグリーンもほしいね」「ブラックが来ると全体的に締まるし」と無用に脳内で、のように色並べをしてしまいますね。

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志村、後ろ、後ろ

2010-08-16 15:27:50 | 夜ドラマ

『ゲゲゲ』の水木しげるさん以外の役で演技をしている向井理さんもちょっこし見てみたいなと思って、14日放送の終戦記念SPドラマ『歸國』を録画視聴してみました。

……それにしても出しにくい漢字だこと“”。思い出せないくらい久しぶりに、IMEパッドの手書きモードを使ってやっと捜し出しましたよ。

群像役のひとりである向井さん単体でどうこうというより、(脚本)倉本聰さんも年老いたなあ」という印象で塗り潰された2時間余でした。

大戦末期に沖縄で戦死した旧日本軍将校、兵士たちが、死んだときの年齢、姿、意識のままで65年後の日本に帰還して来る。この手の“時間もの”“タイムパラドックスもの”の場合、過去で時間の止まった側(このドラマでは英霊たち)が、現在から未来に向かい進行中の時制の世界に干渉するかしないかという葛藤が最大の眼目で、ここをどう料理し、ひねりを加え、どう盛りつけるか次第で作品の出来映え読後感が決定すると言っていい。

75歳倉本さん、どうもこういうSF仕立てが根本的に苦手のようなのです。不得意感、勝手の違うアウェイ感が随所に漂っている。ツジツマがまるで合わないというわけではないが、こういう仕立てを取ったことによってドラマの緊密度が高まり感動が増したという感じがしない。

普通に65年後日本の現景から入って、切り替わって出征兵士たちの出征前の夢や日常を描き、「この人生きて帰れたのだろうか」「この人は戦死しそうだけれど、こっちの人には是非生還して夢をかなえてほしいなあ」「この人は戦死したほうが本望かも」等と観客にさまざま思わせて、ラストで“答え合わせ”を提示したほうが哀切感が高まったのではないでしょうか。

さまざまな出自やさまざまな人生、さまざまな希望を背負った男たち、青年たちが、有無を言わさぬひとつの運命に蹂躙されていった。これだけで、じゅうぶん戦争の痛ましさは伝わるのに、それぞれの“生きてあれば”の思いを、ジャック・フイニイ風の時間SF仕立てにしてしまったために、かえってひねりの稚拙さ、中途半端さが目立つ結果になった。わずか2年前の『風のガーデン』は、倉本さんと近似年代の、ウチの高齢組が涙ぐんで視聴していましたから、やはり得意とする“淡々、切々、自然描写たっぷり”で勝負すべきだった。

そして何より「日本よ栄えてくれ、妻子や子孫らよ幸せになってくれと願ってみずからの命を犠牲にした英霊たちが、もし目撃すること叶わば“こんな国になってほしくて命を捧げたわけではないのに”と嘆くような国に、いまの日本はなっている、申し訳ない恥ずかしい」という、ドラマの底流をなす思想が、観客サイドから言わせてもらえば「聞き飽きた」

バブルはじけデフレに沈みリーマンショックにボコられ放題になるずっと前、ジャパンアズナンバーワンを謳歌していた頃でも、終戦追悼記念番組ともなれば「物質的な豊かさ、科学技術の進歩にどっぷりひたって享楽三昧、カネカネに追われるいまの日本はいかがなものか」とさんざん自虐調だったものです。戦中の視点、戦死を余儀なくされた者の視点から俯瞰すれば、現代の、進行形のわが国は大いに反省しなければ、英霊さまたちに申し訳が立たない…という思考は、もうさんざん手垢がつき過ぎなのです。

一時代を築いた脚本家倉本さんが、2010年の夏に敢えてこのテーマに取り組むなら、これ式の思考から一歩も二歩も進んで興がらせてくれなければ、わざわざ出ばってきた、担ぎ出されてきた意味がない。大切な人へのたよりも検閲でままならなかった若者たちは、ケータイや動画写メールに「嘆かわしい」よりまず歓声をあげるはずです。音楽家を志していた若手将校なら自作の楽曲演奏で武道館を喝采で満たし、地方の子供たちにもダウンロードで共有してもらえる喜びを。画学生上がりの少尉ならまずは当代の美人モデルたちを集め思うさまエロく描いて「服を着ているほうが色気があったなあ、なぜだろう」と首をかしげさせてみる。

深刻なテーマ、のっぴきならない、重苦しいテーマこそ、まずはふざけて描いてみる。まずはお茶らけさせてみる。ふざけてふざけてふざけ倒した果てにこそ、のっぴきならなさ、深刻さは透かし見え、鮮やかになり、核心を射抜けるはずなのです。キャリア半世紀に及ぶ倉本さんともあろう人が、ドラマ作りのこんな初歩の初歩を踏み忘れるはずはない。

前述の、時間ものSF仕立てのコントロール難渋っぷりとともに、やはり倉本さんがTV脚本界のトップランナーであった時代は終わったのだなと思わざるを得ません。

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貴族の晩餐

2010-08-15 23:26:37 | 朝ドラマ

安来から出張の弟・貴司さん(星野源さん)がミシンのメンテしてくれたときには身頃だけ出来て吊るされていた、布美枝お母さん(松下奈緒さん)お手製のちょうちん袖ブラウス、藍子ちゃん(菊池和澄さん)のぶんも、喜子ちゃん(松本春姫さん)のぶんも完成して、お揃いで富士山ピクニックに着て行けたようです(@『ゲゲゲの女房』)。

 花火のような、風車のようなピンクと淡ブルーの花柄。あどけない幼女にしか着こなせない、大人なら枕カバーとか、せいぜいパジャマ、浴衣にしかできない柄ゆきです。お母さんの手づくりのおニューを姉妹おそろで着て、日頃忙しいお父さんも一緒に、休日に車で遠出。電気が来てなくて暗闇にローソクでも、夕食がおにぎりに缶詰でも、最高にワクワク楽しい時間なんですよねえ。

ささやかな非日常が、飛びきり楽しく心はずむ体験だった。子供が子供であることの幸せってこういうものでしたね。おカネもブランドも要らなかった。大人になったいまは戻れないけれど、昔そんなこともあった懐かしい気分を、繊細な和澄さんと天真爛漫な春姫さんが実に達者に表現していると思う。

自薦他薦数ある候補者の中から選ばれた優秀子役さんと言っても、まだ自分の演技の引き出しをあれかこれかと選んで出し入れなんかはできない年頃だと思うので、これは“ドンピシャの表情”を“引き出した”演出スタッフの勝利ですね。

特に、小学校4年生、満9歳という、微妙な年頃の“聞き分けいい子ちゃんなだけではない”“さりとて、しょっちゅうキレる問題児でもない”ところを表現した和澄さんは偉いですね。第1週、幼年布美枝さんをも演じた和澄さん、ちょっこし引っ込み思案?なところは一緒だけれど、地方の古い商家育ちの布美枝に比べ、藍子ちゃんのほうは平和日本で飛ぶ鳥落とす勢いの有名人気漫画家の娘、世間からはいわれもなく“おカネ持ち”と好奇とやっかみの目で見られ、家では「お姉ちゃんなんだから」とストレスの多い立場。クラスメートの中でも、“水木しげる”にあまり触れないでいてくれる智美ちゃんぐらいしか気を許せる友達がいないようで、幼時布美枝よりもかなり窮屈な小学生ライフだと思われるのですが、そこらへんのモヤッと加減、“幸せなような、そうでもないような”が、ひしひしと伝わってくる。家族ドラマや学校ものでセリフの多い役を振られる子役さんというと、とかく必要以上に目から鼻に抜けたタイプが多いけれど、和澄さんは自然体、というか自然体“感”が表情の一瞬一瞬にあっていいですね。

それにしても、年の近い女の子ふたりにおそろの洋服を手製するお母さんは気をつかうだろうなあ。どっちが後回しになってもいけない。ほぼ同時に仕上がって、よーいドンで一緒に試着させてあげないと。下の子は「お姉ちゃんばっかり先に新品」と思うだろうし、上のは上ので「妹は甘えさせてもらえていいな、私にはしっかりしなさいとか、我慢ばっかり」とひがみそう。食い物の恨みは一生忘れないと言いますが、女の子の場合、着飾るものの恨みも同じくらいあとを引きますからね。おおコワ。

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