イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

追いかけて追いかけて

2009-05-01 18:05:51 | 夜ドラマ

『夜光の階段』(第2430日放送)の、どこか微妙にはずしている感じは、意図的なのでしょうかね。

はずしているというのは、ズレているとかボケているとかいう意味ではなく、見ていて「普通そうならないだろ」「あの人物ならそうは思わないし、そういう言動とらないだろ」と、呑み込むのが耐えがたいほどではないけれども違和感が生じ、その違和感を無視して踏み潰しながらドラマが先に進む感じです。

1話から2話へ続く流れで言えば、一流(←たぶん)大学経済学部卒で大手出版社人気雑誌の花形記者である幸子(木村佳乃さん、ハイビジョンにも耐えるお肌質の良好さが、仕事面だけではない育ちの良さも表現してナイス)が、前彼と別れたばかりの生傷なまなましい現場で甘い客引き声をかけてきた佐山(藤木直人さん)に、フェロモン混じりの興味を持つのはいい。彼に接近し情報収集するうち、社長夫人のパトロンを持つ野心家と知って、徐々に独占欲が芽生えていくのもいい。先輩編集者のフジ子(夏川結衣さん)が佐山について何か知っているみたいなのに隠している?と察して、ますます好奇心をかきたてられていくのもアリ。佐山が気を許し始め、当然の流れで男女の関係になっても、職業的に女を悦ばせ慣れた気配を嗅ぎつけると素っ気なく突き離すのも、何やら漫画のツンデレ類型っぽいが百歩譲ってアリでしょう。

しかし佐山のような男が、幸子のような女に、過去の殺人を告白して、「この人にだけは隠し事なく真っさらな気持ちで向き合いたい」という気になるものかどうか。

逃亡中、かつ何とかかんとかうまく逃げおおせ中の犯罪者は、多かれ少なかれ、手近で知り合った誰かへのカミングアウト願望に悩まされ、その誘惑との闘いになると聞いたことはありますが。

幸子は自分でも引き合いに出した通り『罪と罰』のソーニヤのような汚れた顔の聖母タイプではないし、女の武器をちらつかせては高給のマスコミ界で肩で風切っていて、“車輪の下で秘めたる野心”という点で佐山と共鳴し合う雰囲気でもない。

出世のためならいつでも鬼畜になれる男・佐山と、高学歴高キャリアを鼻にかけた食えない女・幸子が徐々に相手のピュアな部分や痛ましい部分に気がついていって、「悪い男だけれど、どうにか逃げ切って、さもなければ改心して、カネや地位に代えがたい幸せを、優しくなってきた幸子とつかんでくれないかしら」と女性視聴者が祈りつつ見てくれれば正解………ではないですね。昼帯ではないし、苦く、後味悪くてこその松本清張ドラマですからね。

そういう“わかりやすい哀傷感”を拒んで、避けて避けて避け通そうとする結果が、“どこかはずしている感”につながっているのかもしれない。「安易な感情移入によりかからないドラマ作り」と言うと、なんだか褒め言葉になってしまうな。幸子とフジ子の間の、同じ出版社に勤める僚友、先輩後輩というだけではない女同士のドロドロも「そう、そういう関係だとこうなるよね」と俄かには頷けない描かれ方。

ひとつリアリティを感じるのは、なにげない会話の端々で攻撃性や野心を露呈し、近所や職場で“柔和でまじめないい人”に見えているとは到底思えない佐山が、アパート隣人の岡野夫妻(石井正則さん三浦理恵子さん)を中心に、勤務先同僚たちを加えサプライズ誕生パーティーを設けてくれる程度には受け入れられ親しまれているというところです。佐山の腕を取って時計を満座に見せ「(独立させてくれるのは)スポンサーでしょ~」と軽口を叩いた後輩の頬をいきなり無言で張っても、同席の岡野らが「…ま、食べよっ」とフォローしてくれる。こじつけの理由で警察に留置、釈放されたあとで、勤務先オーナー村瀬(渡辺いっけいさん)が「給料上げてやる」と持ちかけるのもそう。

こんなに“信用できない光線”出しまくりの男に皆なぜ?と一見、思いますが、男でも女でも「何を考えているかわからない」と微量怖れられているぐらいのほうが、周囲は厚遇してくれるものなのです。全方位善良で忠実で温和だと、人間はなめられる。ここらは結構リアルです。

幸子の担当する小説家で、彼女の脚線美に下心見え見えな視線を送る森清春役の四角い顔の中年俳優さん、アレ?どっかで見たような見ないような?と思ったら、ちょっと前ワイドショーのコメンテーターとしてよく見かけた大澤孝征弁護士でしたよ。こりゃ微妙にはずしてるどころの話じゃないじゃありませんか。どういう力関係なんだ。逃亡犯vs.検察の話でもあるだけに、ヤメ検として法律監修でもしたんかい、と見ているとアラ不思議、食えない幸子に転がされるオヤジ作家のキョドり具合を、演技か地か、結構うまいこと出しておられますよ。渡辺いっけいさんが、ヘアカットの技術よりクチ先営業や経営能力メインの美容室オーナーに見える程度には、大澤さんもナサケナ系の色好み作家に一応見える。これ、どうなんですかね、弁護士の仕事にプラスなのかマイナスなのか。

弁護士と言えば、話が根底から変わりますが、こちらもよくTV(『サンデージャポン』『TVスクランブル』など)で見かける八代英輝弁護士は、特に斜め横顔が、俳優の斉藤洋介さんに似ておられますねぇ。八代さんは、斉藤さんほど“トレードマークにできる”級のシャクレ顔ではないのですが、どこかがどうにかなればああなっていただろうなと思うところがある。どこもどうにもならなかったから弁護士にもなれた、みたいな。でも役者にはなれなかった、みたいな。

斉藤さん1951年生まれ57歳、八代さん64年生まれ44歳ですから、兄弟としてはちょっと年が離れていますが、“勉強ができて人あたりが良くて垢抜けた弟”と“変わり者で一見怖いけどユニークな性格の兄”で、ドラマ的にもいけるんじゃないかな。

『夜光』に話を戻せば、主演藤木さんの歌唱になるEDテーマ『Crime of love』はすでに単体リリース決定しているでしょうからともかく、吉川清之さんの音楽はぜひサウンドトラックCD化されてほしいですね。

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