イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

速度 密度 質量

2009-05-07 20:58:05 | 昼ドラマ

ここで何度も書いたように、『エゴイスト egoist~』は、2ヶ月8週全40話に短縮することによりテンポアップ、スピード感、密度の濃さを前宣伝でアピールされ、期待された作品です。めでたく功を奏したかどうか、その点だけは見届けたいと思い録画視聴を続けている次第。

この枠の東海テレビ製作作品に限ったことではなく、帯ドラマ、連続ドラマで不人気な作品に決まって見られる苦情や悪評に「展開が遅い」があります。

ネット上の掲示板やBBS「飽きる」「退屈」「1エピ見逃しても残念と思えない」などの表現で書き込まれていることもありますが、観た人が言わんとするところはほぼ一緒です。

ここで製作陣に何としても勘違いしていただきたくないのは、「展開が遅い」と不満を訴える視聴者が、何も毎日、毎話、敵味方が寝返り合ったり、出生の秘密が発覚したり、それがまた嘘だと発覚したり、暴行や望まぬ妊娠流産や、刃傷沙汰や交通事故死を見たいと思っているわけではないということです。

ある人物がどんな出生で、どういう状況にあって、どんな願望を持ってどう生きているか。対立する(敵対でなくても、恋心でもいい)誰かがその人物に対して、どうなってほしいと思ってどういう行動に出たか。セリフのやりとりや行動の衝突、作為または偶然による行き違い、それがもたらす状況の変化において、「この人物なら、こうなったらこんな気持ちになり、こういう言動に出るのではないかしら」「出てほしい」と思って観ているのに、人物がさっぱりそういう表現をしてくれない、表現をしないから状況が次の局面に向かって胎動しない。あの人物もこのキャラも、「ここは普通、激怒でしょう」「絶縁でしょう」「こっちはやめて、あの人物について行けばいいのに」と思ってもさっぱりそう動かない。こんな沈滞した流れになってしまったとき視聴者は「展開が遅い」「飽きる」と訴えるのです。

言葉を変えれば、“観ていて喚起される情緒、情動を、ドラマ・人物のほうが掬い取ってくれない”という苛立ちこそが、「展開が遅い」訴えの底流にある。不評ドラマの感想におけるもうひとつの最大頻出意見「主人公に感情移入できない」「気持ちを沿わせて、幸せになってほしいと願って見れるキャラがいない」と、根幹、意味するところは同じなのです。

『エゴイスト』に話を戻すと、2ヶ月クールになって、どうも“速ければ薄くていい”と思って作っているふしが、特に連休で始まった5週め辺りから目についてきました。

幼い頃から服飾が大好きで、働く母が不在がちの淋しい幼児時代から着せ替え人形を手放さず、先輩や担当女優にグズ能なしと罵倒され嫌がらせを受けてもスタイリストを目指していたはずの明里(吉井怜さん)が、「産んだ実の子の私を捨てても女優の地位を貴女は選んだ」「女優とはそんなに価値があるのか見届けるために、私は女優になります」と玲子(川島なお美さん)に啖呵切ってからというもの、スタイリストがらみの話題はまったく出なくなりました。現時点では、女優宣言する前の明里は普通のOLでも、道具係でも、女優と対極な人目をひかない地味な仕事でありさえすれば何設定でもよかったようなものです。

「とても貴女には安心して仕事を任せられない」と明里をクビにした先輩スタイリスト・トシ子さんなんか、その明里がまさかの女優デビュー、しかもあの西条玲子さんと共演2番手と知ったら、「フジモトすごいじゃない!」「でもアナタに演技なんて…どこを見込まれたのかしら」と真っ先に飛んできて目を白黒させそうなものなのに。

明里が、かつて夢みたスタイリストに“今度は女優として注文つけ駄目出す立場”になった心理の揺れを表現する場面は、トシ子をからめずとも一度は入れるべきだった。

姉は大女優の娘、ならば自分がなりすまして大女優に「貴女の娘です」と名乗りをあげ、自分が女優として売って出る足がかりに利用しようと企てた香里(宮地真緒さん)に、明里は「ウソでつかんだ名声で幸せになれる?」と問うていましたが、いまや“対マスコミ・世間上は香里が玲子の娘”“同じく世間上は明里は玲子のマネージャー上がり”“但し部外者の中では、唯一SPドラマ原作者の春木柊二朗(佐々木勝彦さん)だけ玲子から実子は明里と打ち明けられている”というイビツな、危なっかしい状況が、玲子を頂点とし明里、香里&綾女(山本みどりさん)との三つ巴の“女優の地位・プライド”をめぐるさや当てに、いつの間にかほとんど影を落とさなくなってしまった。香里が玲子の娘と表向き言い張り、明里が逆に表向きそれを伏せていることが、物語の緊迫感アップにほとんど貢献しなくなってしまったのです。

玲子に“老獪なタヌキ”と断じられていた春木先生が、筆の上でも律義に秘密を共有してくれ続けるとも思えません。

他にも一場面、一モチーフずつあげつらっていくと切りがありませんが、どうも“物語的イベント数”“局面転換のコーナー数”を2ヶ月8週に押し込むのに汲々として、“視聴者が自然に持つだろう情緒・心情を置き去り”という根本的な問題点のほうはあまり解決していないように思います。

NHK『つばさ』は、こういうのもアリかなという安定感も出て来ました。予想通りちょっとギヴアップな高齢組に代わり、非高齢家族がおもに夜1930~のBS再放送で熱心に追尾していますね。ROLLYさんの歌に合わせひとりミュージカルになるつばさ(多部未華子さん)、可愛いし、結構高スペック。ノロくさくてイモっぽいようで、勘はよく、自覚なく鋭いところをついてくる“多部ちゃんのつばさが魅力的だから見る”というのがいちばんストレスのない沿い方かな。

NHK朝ドラ、ヒロインがうんと幼い時の物語の間は仕方がないけれど、思春期を迎え社会人になろうかという段階まで“家族・身内がらみの話”に終始するのは勘弁してほしいなと思っていたので、家族でもなければ身内でもない、そんなに気心知れ合ってるとも思えない他人たちがヒロインの周りにうじゃうじゃ出たり入ったりする雑駁感は、月河もかなり好きですね。

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