イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

ii谷の少女(←番組違い)

2017-04-12 00:28:08 | 朝ドラマ

『ひよっこ』の茨城弁、と言うか正確には劇中のヒロイン谷田部みね子(ちょっとふっくらしてカントリー感濃いめの有村架純さん)の故郷"奥茨城村"が設定されている"茨城県最北西部弁"パワーがすごいという話を前のエントリに書きました。

 濁音とは直接関係ないのですが、3日(月)放送の第一回で早速、これ茨城弁?と思わず耳が立ちました。

 みね子が「(今朝は鶏が5個も卵を産んだから)茹で卵、お弁当にひとつ、入るかな~?入るよね~?」とお母ちゃんにねだると、聞きつけた小学生の妹と弟が「ずれえ!」「ずれえ!」と駆け寄ってくる場面。

 茹で卵一個お弁当に加えるのがそんなにスペシャル有難いのか・・と早くも昭和39年日本の農村ワールド、団塊世代の青春期ワールドに引き込まれるわけですが、「狡(ずる)い」を「ずれえ」と転訛するのはかなり珍しいと思う。

 月河の身近で、言葉崩したいさかりの年代の中高校生たちは、ゲームのプレイ中や会話の中で「ズルっ!」「ズルくねーし」等とはよく言ってますが、「ずれえ!」をナマで聞いたことは、月河は一度もないです。

 だいぶ前、このブログで"〔-ee-〕化の拡大"について書いたことがあります。

 うんとくだけた、お行儀をはずした話し言葉で「でかい」を「でけえ」、「居ない」を「居ねえ」、「痛い」を「いてえ」とは、江戸っ子でなくても男子なら普通に全国で言うと思います。親や目上の人のいない内輪なら女子も言います。これは〔-ai〕の〔-ee〕化です。「1万円もすんの?たけーよ(=高いよ)」「おまえそういうのうぜー(=うざい)んだよ」等いたるところで〔-ai〕は〔-ee〕化しまくっています。

 また「凄(すご)い」を「すげえ」、「ひどい」を「ひでえ」も一般的です。これは〔-oi〕の〔-ee〕化です。一般的ではあるものの、〔-ai〕に比べると、手あたり次第というほどの勢いはないみたい。「メールの返事遅せーな」とは言っても、「アイツ何考えてんだか、ったく腹グレエんだから」とはあまり言わない。「暗い」が「くれえ」になっても、「黒い」は「くれえ」にならないでしょう。言いやすい場合においてのみ、といったところでしょうか。

 ところが、10年か15年ぐらい前から、おもに若手芸人が多く出演するネタ番組やトーク番組で、そうではないという否定の「違うよ!」を「ちげーよ」と言うのを多く耳にするようになりました。ついに〔-au〕にも〔-ee〕化の波が押し寄せたのです。

 個人的な所感ですが、この場合は”違う”という単語に固有の或る事情がこの特例を許したのではないかと思う。それこそ江戸弁で強い肯定の後に強調フレーズとして使われる「違(ちげ)えねぇ(=違いない)」からの派生ではないでしょうか。”違う”の名詞形=”違い”の〔-ai〕が、自然の勢いで〔-ee〕化して”違(ちげ)え”になり、否定辞の”~ない”の〔-ai〕の〔-ee〕化と相俟って、一語の中で韻を踏む様な「ちげえねぇ!」という実に勢い良く言いやすい口語フレーズが出来てしまった。これが皆さん、本当に気持ち良かったのではないかと思うんですね。だから、同じくらい勢いよく否定したいときに「違う」でなく「ちげーよ」と言ってしまった。転訛としては法則外れの無理筋なのですが、勢いのほうがまさった。

 そしてここ、『ひよっこ』でついに、「ずるい」を「ずれえ」と言う、〔-ui〕の〔-ee〕化までが堂々登場したのです。

 〔-ui〕を考えれば、「熱い」を「あ(っ)ちい」、「悪い」を「わりい」と言う〔-ii〕への転訛が普通です。「悪りーねわりーね、ワリーネ・ディートリッヒ」なんてギャグも成立している。「寒い」を「さみぃ」とは芸人の内輪同士ネタ批評では言うかもしれませんが、「眠い」を「ねみー」、「不味(まず)い」を「まじー」とはあまり聞いたことがない。やはり言いやすいかどうか次第なのでしょう。

 とりあえず、千代子ちゃんと進くんが”姉ちゃんだけお昼に茹で卵食べられんのズルい”と思ったら、日本語の最大公約数的な転訛なら「ずりぃーー!」と言うはずなのです。それが「ずれえ!」「ずれえ!」になるのは、コレやっぱり茨城弁の一環なのかな。お母さんの美代子さんも、特に女の子の千代子に「そんな汚い言葉はいけません」とたしなめる気配もなく、NHK朝ドラらしく方言に関してはナチュラルで寛容な一家なので、やはり”地元の人間同士や家族間では特別荒っぽくも下品でもない普通なローカル言葉”ととらえるべきなのでしょう。

 翌4日放送の第2話では、「お姉ちゃんも電話でお父ちゃんと話したの?ずれえ!」「ずれえ!」という天丼もありました。ドラマ的には方言どうこうと言うより”お姉ちゃんだけが大人の世界に足を踏み入れていて、ちっちゃい弟はともかく私までまだ子ども扱いでなんかくやしい”という、推定小4ぐらい?の千代子ちゃんの可愛い苛立ちを表現する言葉なのかもしれません「ずれえ」。

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