イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

コジャレたオサーン

2009-03-12 20:09:21 | 夜ドラマ

「↑↑↑↑↑(=記事タイトル↑↑)だったヲ」と掲示板にカキコされちゃ、日本一の窓際族・杉下右京警部殿もカタナシですな。『相棒 Season 7“悪意の行方”(311日放送)は、匿名性によって無名の人々の小さな潜在悪意が連鎖増幅する、ネット社会の負の部分にフォーカスしたエピソードでした。

Season 6“陣川警部補の災難”以来1年半ぶりに登場の、捜査一課の経理マン陣川公平警部補(原田龍二さん)が右京さん(水谷豊さん)と一緒に拉致監禁された、ツカみのキレがまず良かったですね。誰が、なぜ?season31エピ分しか特命係に在籍しなかった陣川が巻き込まれた理由は?と、物語本編への興味をつなぐとともに、空き缶ガンガンで陣川を起こしてからは、「あそこ(=天井の採光格子)を壊しましょう(←“ましょう”と言いつつ自分はやらない)」「これ(=廃ロッカー)に乗れば済むことではありませんか」「さあ!」とバリバリ人使いのあらい右京さん、「一発で(発煙筒投げ)成功させますから」とかクチのわりに体力が追いつかない陣川くんのコントも楽しい。亀山くん(寺脇康文さん)去りし後、右京さんひとりきりの特命係になってからは、事件や語り口は水準の緻密さを保っていても、どこか暗くなってしまっていたのは否めないですからね。

三度目参戦の原田さんも『相棒』ワールドの間合いを覚えてきたのか、鑑識米沢さん(六角精児さん)や角田課長(山西惇さん)、“花の里”のたまきさん(益戸育江さん)を間においての、右京さんとのやりとりがいままででいちばんテンポがよかったと思います。現場に落ちていた携帯電話を素手で拾おうとしたり、逃走しかけた容疑者に掃除ブラシで対抗したり(主婦か)、言わなくてもいい場面で警察を名乗ってしまうなど、現場捜査慣れてないのまる出しな一挙手一投足ですが、“プロ刑事だけど、警察の論理一辺倒でなく一般市民目線”だった亀山が不在になった相棒ワールドには久々新鮮でした。

season監督作こちらも三度目の登板・東伸児さんも、いままでの2話(“沈黙のカナリア”“髪を切られた女”)に比べて出色の冴えだったと思います。CM込みで51分の本編放送時間が短く感じられましたから。演出力量云々ではなく、脚本及び脚本との相性の差でしょうね。

学校裏サイトを立ち上げネットいじめを煽ったかどで退学になった中学生と、学生時代ネットいじめの標的になり実家が万引き攻撃に遭って廃業に追い込まれた経験のある、いまはソーシャルネットワークシステム(SNS)管理スタッフになっている女性の、眠らせていた悪意が匿名掲示板の上で偶然つながり、あわよくばと書き込んだ個人情報が、警察や学校に対して漠然とした反感を抱きつつネットに集った無名の人々の悪意・攻撃性を磁石のように引き寄せ、雪だるま式に膨張させて、名も素性も知らぬひとりひとりが寄ってたかって“特命係”暴行拉致監禁事件に至ってしまった。ネットの匿名性は怖いね、世の中すさんでるね嘆かわしいねというだけのお話なら、こう言っちゃなんですが当節バカでも書ける。

今話の秀逸なのは、SNS監視中、女性教師真央(金子さやかさん)を自分の実家廃業の張本人と確信し、彼女の個人情報を退学中学生の立てたスレッドに書き込んだ張本人であるSNSスタッフ優子(原史奈さん)に、通報者と特定した陣川くんが例によって一目惚れしてしまう側線を入れたことです。

優子は自分の書き込み後スレに盛り上がる悪意がどんどんエスカレートしていくさまに怖れをなし、特命係警官2人を「監禁しますた」と書き込まれた貨物船の異常を匿名110番通報。「通報のおかげで救出されたのだからひと言お礼を言いたい」と、お節介にも通報者特定して「ボクその警官です」とアプローチしてきた陣川には優子は個人情報書き込みの一件はもちろん、そんなことを思い立つに至った学生時代の暗い経験についてもニコニコ沈黙していました。

ネットは匿名で顔が見えないから怖くて危険、直に顔を見てナマで会話し交流してこそ健全な人間関係やマナーも成立するのだ…と学校の教師や父兄、識者は強調しますが、リアルの交流でも人間は平気で嘘をつくし隠し事をするし、顔を見て会話しても結局は自分にとって都合のいい情報(たとえば“若く美しい愛想のいい異性だ”)しか取り入れず、自分に心地よいように翻訳して理解するばかりなのです。畢竟人間は、“見たいと思うものしか見えず、聞きたいと願うことしか聞こえない”。

人間が人間と接触しつながるということにおいて、匿名のネットにはネットの、顔と肉声のあるリアルにはリアルの、リスクがありコストがあり、恐怖も不安も陥穽もある。全幅の信頼や誠実さなど、どこにも求めようがないのが人間の社会です。“美人の愛想”というリアル生身情報にことのほかガードの甘い陣川くんを登板させたことが見事に活きた。陣川ほどではなくても、見てくれや肩書き、学歴などに目眩まされて相手の本質を理解できていないまま上辺でサークルだ親友だと盛り上がっては、些細なことで傷つき傷つけたり逆恨みしたりの人間関係が、リアル社会にこそ山ほどある。

ネットの怖さを取っかかり口にして、ここにまで言及したところが『相棒』の、事件・犯罪ものドラマとしての秀逸さです。

“至るところ陥穽だらけ”の現実を、高校時代軽い気持ちで、いじめられている同級生の実家家業の個人情報を書き込み万引き攻勢に遭わせた真央先生の後悔と、いま教師として裏サイト対策に取り組むポジティヴな姿勢で掬い上げた。「ネット蔓延社会お先真っ暗」という結論では終わらせなかったのも陣川くんの人徳でしょうか。

結局真央先生は優子の実家曝し上げとは学年的に無関係でした。ネットで細切れに露出される情報の、如何に信頼できないことか。如何に人間が、個人的な経験やトラウマに縛られてしか情報を咀嚼理解できないものか。

ネット犯罪を採り上げながら、51分一話完結でここまで提示(すべて解決救済なわけではない)し切るドラマはやはり他にはないでしょう。

ネタとしては、ネットといちばん無縁そうな内村刑事部長(片桐竜次さん)と中薗参事官(小野了さん)が「ウヒョー、怖ス」「まじワクテカなんですけど」と、捜一ヤング芹沢くん(山中崇史さん)の指南よろしく掲示板のレスを読んで「…世の中どうなってるんだ」と嘆息するくだりが笑えましたね。この劇中掲示板を見るに、『相棒』スタッフも匿名掲示板の用語、語法、相当読み込んで、精通してますな。

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2 コメント

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月河さま (狂子)
2009-03-14 13:02:28
月河さま
HP、見やすくなりました。
自分でブログやった経験がないのでわかりませんが図柄や色彩・サイズも自由に工夫できるのであれば楽しそうですね。

月河さんでなければできない月河さんらしいブログ好きですよ。

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>>狂子様 (月河たびと)
2009-03-16 22:13:36
>>狂子様
> 月河さんでなければできない
> 月河さんらしいブログ好きですよ。

 そう言っていただけると嬉しいです(懼)。
 一応公開しているので、読んでくださるかたの便宜とか、なるべく役に立つ事を書こうとか、考えないでもない時期もあった(いまも、周期的にある)のですが、そっち方向を気にしだすと切りがないし、単純に、筆が進まないんですね。
 達者なかたがたの優秀なブログを足しげく訪ねて読めば学ぶところが多いのでしょうけれど、多少でもものを読む時間があれば小説や、特撮に関する本を読みたいクチなもので。
 いまは、開いたときに自分が見やすく、幾許か心はずむ外観であればいいかなと思って割り切っています。
 これからもお気が向いたらお立ち寄り下さい。


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