イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

Oh,no match

2012-01-06 21:57:32 | 朝ドラマ

返す返すも小原糸子役は、尾野真千子さんで良かったと思う今日この頃(@『カーネーション』)。

闇市に連れていってくれた木之元電器店のおっちゃん(甲本雅裕さん)をして「横で見てて怖かったで」と言わしめるほどの堂に入った値切りっぷりも、要所で「なぁあ~」とくんにゃり微笑まれると“したたか、叩いても倒れない、でも一周回って愛嬌”に見えるから不思議。闇市の荒くれおにいさんたちも、尾野さんの糸ちゃんなら、値切られるのが逆に楽しみで「今日はあのねえさん来ないな、まだかな、そろそろかな」と“来店”を心待ちにしているのではないでしょうかね。

洋裁店を開く前、生地代の工面のため神戸のお祖母ちゃん(十朱幸代さん)からの高価で不思議なプレゼントを詰めこんだ“神戸箱”を開け、フランドル風レース手袋など値打ちそうなモノだけを選って質屋に持ち込み「上物やで上物!」と換金に腐心していた糸子、当時はまだ10代だったはずで、自分は大正風着物を着たまま客のために洋服オシャレを推進する野性的服飾感覚と同様、金銭感覚というより、対物感覚、対価感覚の鋭さというべきかもしれない。自分の家計や蓄財は得意じゃなさそうですが、“このブツならどの程度のブツとタメか”に関しては動物的な嗅覚があるようなのです。

関東以東人のイメージする“ごっつい関西のおばちゃん”そのものな言動なんだけど、糸子ががさつで強圧な中にもさわやかなのは“手前勝手”“厚顔無恥”がなく、報恩心や義理堅さ、情の強さも感じられるからでしょう。

もちろんそう見えるように作ってある脚本も、そう見せる演出も見事ながら、尾野真千子さんが基本おとなしいパーツ並びの、地味めの小顔さんなことが大きいと思います。たとえば、國防婦人澤田の“ちょっとヤング版”みたいな人が演じてたらかなり連続視聴のきついドラマになっていたことは間違いない。尾野さん以外で糸ちゃん演れる女優さん誰かいるかな?と考えてみても、ここまで尾野さんが強力だとちょっと思いつかない。元ヤン風味でがらっぱち関西弁の芝居ができる、ルックスきれいめの人……と考えに考えても、藤原紀香さんと鈴木紗理奈さんしか出てきませんでした。

……………………成立しない。ぶち壊しだ。そもそも糸子役は、女学校2年生の14歳から見せなければならない時点できわめて高ハードル。三つ編みお下げに袴の女学生コスプレが似合えばいい(これだけでもかなり)ってものでもないし。中3でスカウトされ15歳で映画デビュー、スカウトした河瀬直美監督もどれだけ予測しただろうかと思うペースで演技賞のトロフィーを重ねてきた尾野真千子さん、それでも「女優なら朝ドラヒロインを」の思いは強く、二十歳前後からNHK大阪放送局制作の朝ドラは何度もオーディションに挑戦し続けて、信じ難い話ですがぜんぶ落ち続けていたそうです。

1981年生まれの尾野さんが二十歳前後の頃に放送された大阪発の朝ドラっちゅうとアレとアレとアレと…実際ヒロインをつとめた人はアノ人アノ人そしてアノ…と、その頃は朝ドラと無縁だった月河でもちょっと調べればすぐわかってふむふむニヤニヤできてしまうのですが、この手の「オーディション受けてた、落ちた」の回顧話って、落ちた人がその後いっぱしになってから出る話だけに、信じられない人が信じられない作品で、信じられない人に負けていたりするのです。

スーパーヒーロータイムの仮面ライダーやスーパー戦隊も、毎年毎作、ライダーならタイトルロールのほかに23役、戦隊なら正義側で最低でも3役、顔出し敵方ダークヒーローでさらに12役ポストがありますから、イケメン長身で身体のキレでも良ければ簡単に引っかかりそうなものですが、キャラクターブックのインタヴューで「実はライダーのオーディションは3度め」「戦隊も含めて4回受けてやっと合格」なんて話が、“ヒーローになるために生まれてきたようなこの人を、落とすか普通?”という人のクチから出たりする。

まあ、演技力など芸能スペックに関してはシロウト視聴者には測り知れない何かの基準があるのでしょうし、“磨かれざる原石が、受かって出演できたから輝き始める”ということもあるけれど、結局は作品、役柄との相性・“縁”に尽きるような気がします。

朝ドラ過去作の、どんなヒロインにせよ、演技力で落とされたのではないことは明白な尾野さんが、放送中に満30歳になるという、ご本人も自覚した「最後のチャンス」の年の『カーネーション』で合格。尾野さんにとってよりも、尾野さんがここまで“朝ドラバージン”で残っていてくれたことが『カーネーション』というドラマにとってどれだけ幸運だったことか。当初から、ヒロイン設定14歳~90歳代での死去までを描き切る企画だったこの作品こそ、尾野さんの「もうダメかもしれないけど、あきらめないでもう一度」の挑戦を待って待って待ちわびていたのです。そして待った甲斐があった。

運も実力のうち。というわけで本日の“『カーネーション』ココを褒める”は、“キャスティング上の強運”を褒めたの巻、でした。

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