ここのところ、4月アタマまでBS日テレ『ウンヒの涙』、5月アタマまでBS11『明日もスンリ!』、同月末までDlife『伝説の魔女』と、韓国ドラマの長くてネチっこいやつばっかり録画でせっせと追いかけて見ていたので、我が国日本製のピリッと短くて輪郭の鮮明なドラマ、何かやってないのかしら、NHK朝ドラみたいな蒸留水に色付けたようなのは当分御免だし、『相棒』新シーズンにはまだ四カ月あるし・・と思ったら、昔懐かしい昼帯ドラマの老舗=東海テレビが、昼帯枠撤退後の土曜深夜でまたまたやってくれてます。
タイトルからして怖いぞ『限界団地』。きゃー。全8話予定。なんとコンパクトな。主演佐野史郎さん。
そう言えば東海テレビ制作枠がこの土曜23:00台に移設されての第一弾『火の粉』からもう二年になるのでした。あちらではユースケ・サンタマリアさんが一見温和で礼儀正しいサイコストーカー=武内に扮していましたが、今作の佐野さん演じる“寺内さん”は、同じ“いわくありげな新入り隣人”でも、個人的好悪感情やトラウマだけでなく、高齢化・少子化とともに崩壊の進む昭和の団地の地域社会にモノを申したい、なんらかの手を打ちたいという社会性も持ち合わせているかのようなキャラになっており、その分リアルな不気味さが増します。
マッチ箱を横立てにして間隔置いて並べたみたいな、典型的な昭和の団地という“密室の詰め合わせ”的舞台装置も、平成の現在の視点から見るとかなり異様なのに驚きます。昭和30~40年代にかけてはこういう団地が、ちょっとした中規模都市でも住居地域の一郭に数多く建設されていたので、住んでみたいと憧れるかどうかまではともかく、眺めて異様さや、負の印象をおぼえることはなかった。集合住宅の建て方としてトレンドから外れていくと、あっという間に風景ごと“衰退”“落日”の気配を帯び、何かしら悪意を含んだ、禍々しい事が起こりそうな予感がじわじわ立ちこめてきます。
寺内が越してきた住戸の隣が、サラリーマンの桜井夫妻(『火の粉』組の迫田孝也さん・足立梨花さん)と小学生の男の子の三人家族。お互いに玄関ドアを開けると、「小さく前へならえ」で突つき合えるほどの近距離。天井低い、間口狭い、狭小な空間をどうにかこうにかプライバシー分け合えるギリギリに区切った、当時の効率・低コスト一辺倒の設計思想が醸し出す息苦しさ、安らげなさ。まだしもこの街には小学校があり、育ち盛りの子供を抱えてマイホームへの脱出を計画する比較的若い住人もいるので、完全にどん詰まり化はしていないのですが、棟の一角には事故物件の開かずのドアがあり、寺内の昔馴染みらしき孤老女(江波杏子さん)が住んでいたりとホラー要素も散りばめてあり、夏に向かって期待が沸々。
佐野史郎さんという主役キャスティングもコロンブスの卵的に秀逸ですね。主役“級”の出演は数え切れず、出れば必ず主役に遜色ない存在感を放出して退場されていくので意識しなかったのですが、TVドラマでキャストロールの先頭に来る“主演”は、舞台→映画からTV進出して30年以上の俳優キャリアで今作が初だそうです。
“不気味”“頭よさげで、ハラにイチモツありげ”・・いつもどちらかというと“冷”で“陰”な役柄を得意とするこの人のイメージの源泉はどこから来るのか。未だに1993年のドラマ『ずっとあなたが好きだった』のマザコン夫=冬彦さん役を強烈に思い出す人が多いらしいのですが、知的なエリートサラリーマンではあっても性格が偏っていてひ弱なイメージのあるこの役は、佐野さんにおいては巷間言われるほどの当たり役ではないように月河には思えます。
ドラマ自体を、本放送であまりしっかり見てなかったせいもあるかもしれない。月河はやはり95年の『沙粧妙子・最後の事件』の池波がいちばん印象深いです。もちろん学識豊富で冷徹なのですが友情には厚いようにも見え、ちゃんと人に関心を持ち人に構い、社会になじんで泳いでいるところが逆に油断ならない。
長めの卵型の輪郭に顔立ちは薄くてフラットで、所謂“コワモテ”とは真逆。なんとなく植物っぽいというか、動物なら水棲生物みたいな、ひんやりした風貌で、もっとお若い時から頭髪の量が少なめでしたが、冬彦さん・池波から二十年以上を経てもさほど後退が進んでいない。老けた感があまりないんですな。逆に言えば、若い頃から老成していた。それでいて万年青年みたいな、それこそ冬彦さん的に“或る部分だけ幼い”アンバランスさも内包していて、今作ではグレーヘアで“小学生のお祖父ちゃん”らしいいでたちですが、全体的には限りなく「(若く見えるというわけではなく)年齢不詳」。
今作の主役起用の決め手は、月河の見るところ、佐野さんのまとうそこはかとない昭和感でしょうね。もっと言えば“異時代感”。
佐野さん、高すぎず低からずの身長(公称176センチ)のわりに、頭身がデカいんです。顔が、というより、頭部の占める比率が大きい。前述のように顔立ち自体は濃くなく、さらっと、ツルっとしている上に、徐々に額も広くなってきておられるので、なおさらアタマの突出感が際立つ。
頭が小さく顔も小さくひたすら脚や腕の長い平成の俳優女優さんの中に入ると、佐野さん、どこか別の時空から来た、“目立たない宇宙人”みたいなんです。そしてその時空は、たぶん未来ではなく、誰もが多少は記憶のある程度の過去であり、遥か遠い異国ではなく、隣り合わせの、歩いて行き帰りできる近郊であるような気がする。
佐野さん1955年生まれ、今年満63歳。高齢化日本では完全リタイアはまだ先、現役でじゅうぶん通用するのに、“お祖父ちゃん”で“無職”、まだまだ有り余る体力気力を崩壊しかけた団地社会の再生のために注ぎ込む・・・だけ、なわけがない!という、誰でも見ただけで一沫感じる不可解さ、アンバランス風味こそ、佐野さんをこの役に適役にする所以。
孫娘とふたりで引っ越してきた原因となった、息子夫婦を死なせた火事の詳細、寺内自身が両親とともに、まだ新しかったこの団地で過ごした数十年前の少年期の出来事、孤老女との関係など、寺内の本性、本当の目的につながる伏線も密に張ってあり、発掘解明が楽しみです。しかもたったの8話、2か月で完結、真相判明。本当に日本ドラマは決着がはやくて視聴がラクです。
・・でも一方、韓国ドラマもやはり忘れがたいのでありまして、先日、久々に午後の昼下がりにTVをつけたら『漆黒の四重奏(カルテット)』(BS11)ってのがやってて、恋人、元恋人、夫婦、それぞれの親、親の愛人、せまーい人間関係でめいっぱいごちゃごちゃしていて、これがね、面白いの。月~金オビでなんと全104話、6月第一週現在、未だ40話ぐらいで、いったいぜんたいどう事態打開して解決に至るのか皆目見当つかないのはいっそ気持ちいいほど。韓ドラ持ち前のこういうしつこさもまた、連続ものの醍醐味のひとつなのでした。