イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

ちょっと何言ってるかわかんない

2012-01-14 00:47:38 | 朝ドラマ

そんな、糸子(尾野真千子さん)が「……え゛?」顔でポカーンとなるほど、通じなくはないと思うんですけどね、周防さん(綾野剛さん)の長崎弁(@『カーネーション』

「バッテン、ピカデ、ミセデンイエデンヤケシモタケェ」「フンサ、ホイナコテネェ、ソイバッテン」と一気につぶやかれると戸惑うかもしれないけど、その後の「長崎弁はワカリニクカですか?」が通じるから、全然OKじゃないですかね。繊維組合長さん(近藤正臣さん)にも、千代さん(麻生祐未さん)にまで「何言うてるのかさっぱりわからへん」と言われるとは。サンドウィッチマン伊達ちゃんになったような気がするのではないか周防さん。

まあ、訛りがあっても、なかったとしても、あまり立て板に水と喋るタイプではなさそうな周防さん。だから宴席で間がもつように三味線を持ち歩いているのね。別に高杉晋作に心酔しているわけではないのだ(どんな狭い高杉だ)。

ただ、劇中の昭和21年当時、糸子の地元・岸和田をはじめ地方都市では、かろうじて東京発の標準語のラジオ放送が受信できる程度で、“音声で耳に入る、地元以外の方言”に接する機会がほとんど無かったということは考慮すべきかもしれません。まだ放送媒体、マスメディアの時代ではないし、地方出身者が積極的に(或いは泣く泣く)離郷就職し、都会が各地方言のルツボになる高度経済成長時代にも足を踏み入れていない。戦後1年足らずで旅客交通機関も混乱していたはずで、地元育ち、地元汁(じる)のしみこんでいない、まったく遠く離れた地方の言葉を普通に話す人と会話する機会はいまよりずっと少なかったでしょう。出身地の遠い人と初対面のときは、軽いカルチャーショックを皆おぼえていたのではないでしょうか。

北国産の月河も、南国九州出身の、ナチュラルに九州弁が出る人とナマで会話する機会を持てたのは東京に引っ越してからです。それまでは、九州弁と言われる言葉の片鱗を教えてくれたのは、漫画アニメ『巨人の星』の左門豊作だけ。「どげんしよっとかですか」「~しとってほしかですたい」とかなんとか、御御御付(おみおつけ)みたいな、「馬から落ちて落馬した」かのような、重ね着した九州弁。豊作にいちゃんは熊本設定でしたが、実際のところどうなんでしょうね。九州でも、北の博多と南の薩摩じゃ小さからぬ違いがありそうで、宮崎でも皆が皆「どげんかせんといかん」とか言ってるわけでもないでしょう。

周防さんは長崎。長崎出身のいい男というと、月河は速攻『百獣戦隊ガオレンジャー』のガオレッド走(かける)先生・金子昇さんを思い浮かべますが、同じスーパーヒーロータイムから『仮面ライダー555(ファイズ)』出身の綾野剛さんが来ましたな。スパイダーオルフェノク澤田。髪型、て言うか頭部が、散髪直後の優子ちゃん(花田優里音さん)みたいだった。人間体の澤田はいつもDJ風のキャップを目深にかぶってでかいヘッドホンを着け危ない感じでしたが、綾野さんも今年満30歳。2003年の555で覇を競った他のヒーロー・ダークヒーロー俳優さんの誰よりも“翳りを帯び青さも残した、渋い寡黙な大人”の似合う俳優さんになって帰ってきてくれました。

オランダ通商の歴史と異人さんの町・長崎で紳士服職人をしていたのに、原爆で家も店もなくなり、どうにか妻子ともども命は無事だったものの、職場に窮して親戚の伝を頼り岸和田にやってきたという周防さん、岸和田も紳士服の店はまだどこも再開しておらず、やむなく繊維組合長三浦さんの鞄持ちに雇われていましたが、糸子の店から引き合いがもらえて、ようやく久しぶりに背広を仕立てる仕事ができてほのかに嬉しそうです。

地元・岸和田大好き、家族大好きで、善作お父ちゃん(小林薫さん)が築いてくれた近隣お馴染みさんの人脈と、持ち前の土地勘の中で修業し仕事をしてきた糸子、“地元産”でない人と仕事上の接点を持つのは、東京から来たミシン教室の根岸先生(財前直見さん)以来です。

戦争で疲弊し元気を無くした女の人らのためにとにかく服を縫いたいと、闇市にかよい詰めてやっと見つけた水玉模様の生地、さまざまなバリエーションのドレス。周防さんは「格好よかし、綺麗か」と褒めてくれました。周防さんもピカドンで故郷を焼き尽くされて、悲しく悔しいその日暮らしに希望を失いかけていた一人です。自分の作った服が、男の人にも元気を与えていた。しかもその男の人は、亡くなった婿の勝さん(駿河太郎さん)と同じ、服作りを専門とする職人同士。馴染みの女性客たちに褒められ、笑顔で感謝されるのとは違った深い喜びで、糸子の心は満たされたに違いありません。

紳士服屋さんらしく、ペールでグレイッシュな、でもやわらかい暖かみのトーンでまとめた、シボのある夏素材シャツとベストの組み合わせがお似合いの周防さんは、地元に根をおろし働き詰めだった糸ちゃんに、新しい地平を臨ませてくれそうですが、長崎被爆経験者という、なんとなく薄命そうな属性が気になります。お気に入りの舶来革靴を、ピカの中から運び出して逃げてくれたというけなげな奥さんもおられるようだし、糸子にはいずれ切ないお別れも待っているのかも。長く暗かった戦争が終わったばかりだし、もう糸子の大切な人との永訣は見たくない気もしますが、人生ってそういうことの積み重ねですしね。

コメント
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