巻き返し著しいNHK朝ドラに負けじと、個人的には『霧に棲む悪魔』以降放置まんまになっている月~金昼帯枠も、例の東海テレビ赤っ恥放送事故以降の大逆風でハラをくくったらしく、来たる2012年、年明けからのクールはいままでにない渋い企画をぶつけてきました。
『鈴子の恋』…って風俗嬢モノ?とタイトルだけだと思ってしまいますがさにあらず。“鈴子”とは昭和の偉大な女芸人・故ミヤコ蝶々さんの本名=日向鈴子のことで、旅芝居座頭の娘として生まれ、厳しい稽古を積んで、恋に生き芸に生きの波乱の一代記だそうです。
くはー、そう来たか。ついにこの枠も。
NHK朝ドラでも、成功しているのはたいてい昭和の女性一代記、それも実在人物の実話ベースだし、帯で多話数となるとやはり昼も“これ系”しかないという結論になったか。蝶々さんの人生ですから、妻子ある男性との許されぬ恋あり、パートナーの浮気あり離婚あり事実婚ありと、“芸のことはコッチにおいといて”の男女関係絡みだけでも“無い要素が無い”くらいのてんこ盛りになるはず。NHK朝ではいろいろ内部コードに抵触するエピも、何でもありの昼帯ならほぼ全セーフだろうし、ネタ切れの心配だけはまずないでしょう。
蝶々さんは芸能史上大きな物件でしょうが、失礼ながら個人的にはさしたる思い出も思い入れもありません。『太陽にほえろ!』のボン=田口刑事(宮内淳さん)のオカンとしてちらっと出てべらぼうに味を出していた記憶程度。あれは見事だった。どこがボンボン刑事?と思えた浅黒長身の宮内さんが、蝶々さんとからむと本当に浪花のぼんぼんに見えましたからね。
個人的にはまったく興味のない人物伝でも、ドラマとしておもしろい出来なら虜になり得ることは現行『カーネーション』で日々実体験中です。
主演の、蝶々さん=本名鈴子役に映美くららさん。宝塚歌劇団の娘役トップOGさんですね。かなり浅い学年でのトップ抜擢で当時話題になっていました。BSの番組で何作か拝見しましたが、相手の当時のトップ男役さんがカリスマ感カンロクたっぷりのダンス名手・紫吹淳さんで学年差も大きく、“可憐に添っているだけ”であまり印象がなかった。卒業後は『相棒』の2008年元日SPと、昨季season 9、右京さんがオーベルジュに客として入り込むエピ(『招かれざる客』)でお見かけしました。ヅカの優等生姫役らしく、清楚系のきれいなかたですが、卒業後のTV界での活躍は、本数結構出てるわりに浸透がいまいちなのか、媒体で“映見”と表記されてることがたまさかある。下の名前がコレの女優さんが長くご活躍ですから、emiで変換打つと出てきちゃいますからね。もう少しアピールがんばってほしいところ。
新聞発表のスチールだと、映美さん32歳で横一直線前髪に三つ編みお下げ姿の鈴子はかなり厳しいですが、『カーネーション』でも撮影時29歳の尾野真千子さんがお下げの14歳女学生役を好演したばかりだし、演技力と演出スタッフの腕の見せどころ。鈴子幼少時役は、ちょっと前までアイドル子役の代表格だった美山加恋さんだそうで、どうにかうまいことつないでもらいましょう。『僕と彼女と彼女の生きる道』の凛ちゃんから7年、実写版ちびまる子ちゃんからでも5年半。子役さんに流れる時間は早回しなので、どんなヴィジュアルのローティーンになっているのかちょっとドキドキものですが。
ただ、最大の問題は、このドラマ、脚本が大石静さん。残念なことに、2011年現在、作品タイトルや概要を知る前から「無理」ときっぱり言える数少ない脚本家さんのひとりが大石さんなのです。90年代の『おとなの選択』『ヴァンサンカン・結婚』『長男の嫁』『私の運命』など、最初から無視だったわけではなくチラチラ試し見はしているけれど、初回でも途中でも、どこか1話見て続きが見たくなった、あるいは最終回を見とどけたいと思った作品がひとつもない。1996年の朝ドラ『ふたりっ子』は当時の家族が結構熱心に見ていましたが、三倉マナカナちゃんが本当にそっくり双子さんだなぁという以外、どこに興味持てばいいのかさっぱりわかりませんでした。
何で「無理」と思うのか、分析する気にもなれない。たぶん、ストーリー、設定、人物像、何がおもしろくて、何がおもしろくないかという座標がこっちのそれと噛み合わないのでしょう。大石さんは4年ほど前に、久本雅美さん主演で2時間枠単発の『ミヤコ蝶々ものがたり』を書いておられるので、そのへんを買われての登板と思われます。
父親役が片岡鶴太郎さんでタイトル題字も書き、育ての母役が浅野ゆう子さんで、主題歌が松任谷由実さんで…と読み進むと、あまりの“中高年感”というかフレッシュ感のなさにどんどん気持ちが下向きになって行きますが、かつて個人的に“積極的に勘弁してほしい俳優さん”の代表選手だった水谷豊さんを主演に据えた『相棒』がいつの間にか贔屓シリーズになったように、ドラマ本体さえおもしろければキャストの好悪、得手不得手は比較的簡単にクリアできるものです。
しかし、脚本となると。限りなく“ドラマ本体そのもの”に近いだけに。20年近く「無理」なまんまの脚本家さんが、一作で、食いつける方向にひっくり返り得るものかどうか。
“昭和実在女性の一代記”“恋あり情けありの芸道ビルドゥングスロマン”という、帯ドラマならではの原点食材に、この枠もついに回帰したという一点は評価したいし注目もしたいけれど、実視聴はどうするかいまだ二の足三の足。これ系なら、他の、月河よりもっと適性の向いてるお客さんがかなりいそうなので、そちらにウォッチングお任せしたほうがいいような気もしますし。