イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

史劇感激

2011-08-13 20:24:12 | 海外ドラマ

なにしろ、この春、具体的にはNHK総合『イ・サン』と同BSプレミアム『同伊(トンイ)』の日曜夜の放送が始まった4月頃からですが、高齢家族が韓国製史劇以外のTVドラマを、『おひさま』以外)ほぼ、いっさい観なくなってしまったわけですよ。おかげで随伴ながら有名どころ作品はこの4ヶ月ほどでいろいろ視聴しました。

大型史劇挑戦の皮切りになった『善徳(そんどく)女王』は、新羅王3代にわたり王以上の権力で側室兼のちに璽主(せじゅ)として宮廷に君臨するミシルという人物が現実離れして毒々しかったけれども、権勢欲や独占欲だけでなく彼女なりの愛国心、使命感もあったのだろうなと、演じるコ・ヒョンジョンさんの美貌と迫力でなんとなく説得納得させられてしまいました。

その分、ミシル退場後のトンマン女王治世パートはちょっとかったるかった。新羅の君主が歴代願ってやまなかった“三韓統一”も結局見届けることならず中途半端に没した女王でもありますし。まだ自分の出生や運命を知らない少女トンマンが、夢で大人トンマンに出会うラストは、中途半端さをだいぶ救済しました。

要所の戦闘シーンの迫力、スケール感も合格点。全編の大半が女性の頭脳と意地のバトルなので、男性人物の存在感や魅力がもうひとつ残念でしたが、忠義武士道ひとすじの好漢・侍衛部令アルチョン、低い身分からの叩き上げ武人にしては大人の色気あるソルォン公が良かったですね。

大型長尺とくれば『朱蒙(チュモン)』。これはとにかく“ゼロから統一国家を立ち上げまとめ上げる”というベクトルの圧倒的ダイナミズムにやられます。中国大陸でかなりな部分をロケ撮影したと思しき戦闘シーン、行軍シーンもさることながら、甘やかされて育ったグウタラ王子がさまざまなきっかけを大小問わず糧にして覚醒成長していく、ブレない右肩上がり曲線が痛快。主人公を囲む脇キャラも多彩かつ珠玉の出来で、敵味方ともに誰ひとり適当に配置されていない。志を同じくした戦友の遺児、そして生涯愛する女性の産んだ子として自分の実子より朱蒙に愛を注ぐクムワ王=名優チョン・グァンリョルさん演じる叡智の中の一抹の残忍さ、晩年を迎えての迷いと老残の悲哀。朱蒙と逐次出会って最初反発摩擦しながら徐々に忠臣として自らも成長を遂げていくプータローたち。もともと持っていた度胸や反骨心、義侠心が、将来の建国のヒーローとなるべき器と出会って開花していく過程。ともに発展途上で朱蒙と知り合って恋心を抱くもすれ違い、二度めに出会ったときには“男と女ではなく、国の将来を思う同志”として、傍目からは政略策に見える結婚を敢行するソソノ大君長のいさぎよさは、その引き際とともに欧米圏の人たちにも支持されるのではないでしょうか。

欲を言えば、イェソヤ様との再会生存確認までがじりじり引っ張り過ぎに感じる上、最終盤のユリ王子とソソノの連れ子たちに関するくだりが蛇足感。昼帯ドラマでもヒロインの子供たちの代主体の話になると一気にテンション弛み興が醒めますからこんなものでしょうね。

月河も高齢組ももちろん朱蒙の建国の戦いを、側近の元プータロー武将諸君ともども応援モードで視聴しましたが、傍ら“ラクしてトクするためなら死んでもいい”勢いの、アホバカ策士・ヨンポ次兄に一貫して大受けでした。こういうキャラは悲惨シリアスな最期が似合わないから逆に安心感がある。しかも普通に見れば3兄弟の中でいちばんハンサム。見ただけでまともに喧嘩する気が失せる、腑抜けた感じの黄緑色のコスチュームも、無駄に甘く端整なルックスによくお似合いで。

朱蒙の遺伝子を継ぐ…という触れ込みにひかれて、朱蒙の次のユリ王の、そのまた次の太武神王の物語『風の国』も視聴しましたが、これはお話としての迫力も、キャラ造形ももうひとつでした。主役・無恤(ムヒュル)も敵役トジン公も、行動の芯がヨン姫への恋愛感情に寄りかかり過ぎで、ヒーロー/ダークヒーローとしての深い魅力がない。風景など映像はこぎれいにまとまっていましたが、せつない場面でやたら同じ曲が流れる演出も浅い。『朱蒙』主役のソン・イルグクさんが朱蒙の孫に当たる役で再び主演というのも放送当時は話題だったようで、宮廷で青年期までぬくぬく育った末っ子王子朱蒙に対し、死んだことにされ洞窟の壁画工として隠れ育てられた無恤を表現するため、聞けば放送当時36歳のイルグクさん、10キロ近く減量しての参戦だったそうですが、いささか空振り気味。これはイルグクさんの落ち度ではなく、奥行きと幅のあるたくましい主人公像を作れなかった脚本の力量不足でしょう。日本の大河ドラマなどでもよくあることですね。あるいは「『朱蒙』より女性視聴者向きに」との製作側の思惑もあったか。恋愛メインにして、甘い曲を流せば女に受けるというものでもないのにね。

終わってみれば、トジンが椎名桔平さんに、ヨン姫が細川ふみえさんに、ヘミョン太子が潮哲也さんにそっくりだったことしか記憶に残っていない。韓国ドラマ視聴していて、「日本の○○さんに似てるね」に引っかかってしょうがなくなると、不出来作の証明というか、もうお話に入り込めないこと決定です。

恋愛メインと言えば『薯童謠(ソドンヨ)』。新羅と百済、宿命のライバル国の王子と王女同士の許されぬ初恋。国vs国、王位継承権をめぐる血で血を洗う話が、主役カップルの恋愛感情ほとんど一本かぶりのエンジンで進んでいくという仕立てが、逆に新鮮でした。監督が『宮廷女官 チャングムの誓い』や、冒頭に挙げた今年NHKで放送中の2作でも知られ日本でいちばん有名な韓国ドラマ演出家でもあるイ・ビョンフンさんで、フレームいっぱいの派手なドンパチドカーン、ドバドバグサッの戦闘剣劇、反対にあまーくお花畑な美男美女ラブストーリー、どちら極端もあまり得意ではなさそうなため、劇中どちら路線も中道を行き、足して二で割った独特な味になって結実したようでもある。百済太学舎(てはくさ)の数々の理系技術や工学発明がもっと展開の鍵を握るのかと思っていたら、そっちの引き出しはあまり無かった。

後半は薯童ことチャンの、血筋が求める百済王位への戦い全開になりますが、チャンも、敵国新羅のスパイで終生の仇敵となるサテッキルも、見た目どっから推してもチャンバラ武闘の似合う体育会系ではなく、文化系の優男なのがおもしろかったですね。どちらもイケメンというより、古めの昭和ハンサム。昭和40年代の学園青春もので生徒会長役などできそうなのがチャン。サテッキルのほうは若干面長なので、眠狂四郎シリーズの市川雷蔵さんにちょっと似ていました。バトルに向かうファースト動機が恋心…という作りに、『風の国』で感じたような違和感がなかったのはこのふたりのキャスティングがぴったりだったことが大きい。チャンは亡命先で太学舎メンバーから出入り禁止になって、ひとり野で暮らしていた10年があり、半裸で薪割るシーンもあったりしましたが、優型の顔立ちなわりに結構がっしりしていましたっけ。韓国の男性はいちばん肉体的に充実する20代で2年間の軍入隊訓練を体験するので、男優さんたちも総じて身体は立派ですね。

ビョンフン作品と言えば『商道(サンド)』も観ました。このドラマに関しては稿を改めましょう。

コメント
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