イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

花の科(とが)

2011-01-08 15:12:35 | 昼ドラマ

15日(水)から開始の月河贔屓枠、フジテレビ系東海テレビ制作昼帯ドラマ『さくら心中』はどうでしょうか。昨年1年間はこの枠が変化球開眼を目指す特訓ルポ公開に明け暮れたような年で、比較的きれいに変化した『明日の光をつかめ』(夏休みの若いお友達にも適応、78月)、変化自体はオーソドックスだが審判によってストライクボール判定が分かれる『天使の代理人』910月)、開き直ってド直球で来たら肩に力が入ってシュート回転しワイルドビッチ、いやピッチ『娼婦と淑女』46月)、いきなり野球じゃなくソフトボールでふわんと来た『花嫁のれん』1112月)、ボールですらなくバドミントンのシャトルコックが飛んできた『インディゴの夜』13月)と、いろいろ模索開拓努力のあとはうかがえるものの、なかなかスイートスポットに決まりませんでした。

 原点に戻って今作は若い男女の悲恋を出発点とした愛憎、肉親の情に利害欲得、嫉妬や打算もからみ合った古典昼ドラ、脚本にこの枠の“牢名主”とも言える中島丈博さん登場です。

 ここ最近の中島作昼帯は、『偽りの花園』2006年)→『麗わしき鬼』07年)→『非婚同盟』09年)と、作品を追うごとに肉薄くして骨顕れるというか、長尺多話数連ドラストーリーと言うより“書きたいシーン、言わせたい台詞まんま並べてつないだだけ”化が進んでおり、193575歳中島さん、老いてますます盛んながらさすがに残された時間が視界に入ると、題材熟成待てずのせっかちさんになってきたかな?との感もあって、今作、あまり過剰な期待は持たないようにしてきました。

 7日(金)で3話、比較的ゆったりめのスタートです。村井国夫さん扮する飛騨高山の造り酒屋主人・宗形郁造の人物像が、抑えめの描出ながらなかなかいい。文化文政年間からの地元の名主(なぬし)で、明治に副業として始めた造り酒屋が、戦後の農地改革で本業となって4代目の当主。桜見物が道楽で、西行法師の歌風や生き方にひそかに憧れている。昭和34年春、ミッチーブーム(同月10日御成婚)に湧く世間をよそに、小学生の長男・勝を伴い桜名所めぐりに余念ない郁造が、兵庫県の古寺の千年桜に魅せられ、その木陰から精霊のように現われた幼女を「桜のご縁」と引き取って育てる。桜子と名づけられたその女の子は、16年後の昭和50年、19歳の美しい娘ざかり(笛木優子さん)となっていました。

その間、桜子が小学校3年生の冬には、桜子が赤子のとき捨てた実母で、芸者の秀ふじ(いしのようこさん)が名乗り出るということもあり、桜への思いつのる郁造は、ダム建設であの古寺が水没すると聞いて、大枚はたいてショベルカーや大型トラック、業者を動員、境内の千年桜を自邸の裏庭に移植します。桜は無事、根を張って、毎春美しい花を開くようになりますが、出費もかさみその頃から家業は徐々にジリ貧に。使用人への給金も街金から借り、妻まりえ(かとうかず子さん)は「私がお嫁に来た頃は羨ましがられる大店で、町の人たちからも一目おかれていたのに、今じゃ同業者にみんな追い抜かれて」「桜子と縁の深い、あの桜がうちに来た頃からや」と愚痴りながら酒を過ごす日々。

たぶん郁造さんは、ひとつ所に根を下ろして先祖伝来の家業を守り、現実的に商売に励んで、カネ儲け繁盛させてなんぼの人生が基本的に向かない、漂泊者気質の人なのでしょう。やってできないことはないが、性に合わないから、やっていてどこか空々しさや飢餓感がつのる。咲き急ぎ散り急ぐ桜のすがたに心惹かれてやまず、桜が連れてきた少女を美しく育てることに情熱を傾けて、一方では養父と養女という縛りを設け、桜子が女性らしくなってきた(物語時制で)2年前(=桜子推定高校2年生)からは、彼女の面影を求めて秀ふじと深い仲になる。

郁造さんの行動を、“幼少女好きのロリコン”で片付けず、桜への偏愛に象徴される放浪願望、野垂れ死に願望、旧家の当主としての安定した生活、次世代以降にわたって安定を保証せねばならぬ生活から逃亡したい願望の因数で分解するのは、ちょっと高度すぎて難物かもしれない。

最近のこの帯では影の薄い主題歌、今作は徳永英明さん『春の雪』で、これは出色のマッチングです。2004年の『愛のソレア』とFayray『口づけ』以来かもしれない。2話では郁造さんと秀ふじとのスナックでの差し向かい会話シーンにかぶったので、思わず何度も再生してしまいました。

♪心だけはどこにでも 自由に飛んでゆけるから 大切なことは君自身がいつも幸せであること…(中略)…君らしく歩けばいいよ 僕がいつも見守ってゆくから

…という歌詞は、今後桜子のメイン相手役となって行く若き杜氏・比呂人(徳山秀典さん)よりは、むしろ郁造さんが桜子に寄せる思いを歌っているよう。郁造さんはこの後ほどなくして桜子を遺し退場されてしまうようですが、今後を含めてこのドラマは郁造さんの物語、心だけでも自由に、どこにでも飛んでゆきたいと切望した男=“漂泊したくてできなかった男が、後世代に落とした影の物語”なのかもしれません。

コメント
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