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イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

太にして濃だが短ではない

2011-09-25 13:48:53 | 海外ドラマ

NHKBSプレミアム『赤と黒』94日(日)から2週間にわたった連続放送、どうにかこうにか録画視聴しました。

17話。ふぅー。韓国製連ドラ(一応“日韓共同制作”のカンムリはついているけれど、日本ロケシーンが若干と、日本人俳優さんが23人出演しているだけ)現代ものの通し視聴は初体験ですが、50話超の作が普通にある史劇と比べるとコンパクトなのに、はどうしてこう、焼肉の後チーズケーキみたいに腹にこたえるのか。

OP・次回予告込みだとフル59分、NHKなのでCMも無しのぶっ通したたみかけヴォリューム感もさることながら、韓国製ドラマの場合、サブストーリー、サイドストーリーらしいものがほとんどないことも原因かと思います。

とにかく主役主役、ひたすら主役押しで、主役の考えていること、欲すること、主役が出会う人、憎む人、愛する人、主役が求めて、あるいは遭遇して紡ぎ出すメインストーリー1本かぶり59分なら59分が終始する。単純、シンプルと言えばそれはもう単純でシンプルなのですけれど、いささか息が詰まるし、一方向しか見ていない状態が続くわけだから、心理的に“首が凝る”感じもある。

んで、ストーリーがひとつっきりですから当然、劇中もネタがなくなって、主役の目指すところが恋愛であれ、犯罪であれ、立身出世であれ、大きくは建国や王位継承、戦勝による領土拡張であれ、頓挫したりまったりしたり、観るほうも疲れてきたりするときが何回かあるわけで、特に何の伏線というわけでもなければ、当然前の伏線の回収というわけでもなく漠然と主役が街を歩いたり、空を見上げたり川面を見つめたりするシーンが何回かはさまって、そういう時間も含めて尺をもたせるのがあちらの流儀らしい。

日本で連続ドラマがこれ式だったら、速攻「かったるい」「間延びする」とチャンネルをかえられてしまうのではないかと要らない心配をしてしまいますが、思い出すのはこの5月にNHKで放送された『イ・ビョンフン監督の世界』で同監督がインタヴューに答えて言った「韓国人はドラマに“取り憑かれた”国民」という言葉です。

曰く、韓国は昔から周辺の諸強大国に圧迫を受け続け、植民地支配や朝鮮戦争で苦痛に耐えて来た歴史があるので国民にとってドラマは辛い実生活をひととき忘れさせてくれる“夢”であり“無しでは生きていけないもの”…というような意味のことを監督は語っておられました。

そうだ、人はパンのみにて生くるに非ず。バターをつけて食べるべきである。んなバカな。それはさておき、TVドラマ監督として20有余年のキャリアを持ち『ホジュン』『チャングム』など数々のヒット作を手がけてきたビョンフン監督の診立ては重みがある。「無しでは生きていけない!」というなみなみならぬ食いつき欲が視聴者側にあるなら、ドラマのほうも“食いつかれ負けしない”コシの強さが無ければならないのです。王位につくと決めたら絶対つくし、最高尚宮になると決心したら、花も嵐も踏み越えて何が何でもなる。恋のため復讐のため、誰某を殺ると誓ったら、最終話まで誰某を殺ることしか考えないし、誰某を殺るための行動と思考以外何もしない。国民の熱っつい、前のめり受信体温に呼応して、制作=発信サイドもとことん野太く、プリミティヴなまでに熱血剛球一直線で、いったん客のハナヅラをつかんだら、一方向にぐいぐいチカラワザで引っ張って行き、途中で放してラクにさせて、サブストーリーなんぞに目移りなど死んでもさせない勢い。

今般の『赤と黒』も、ストーリーはきわめて単純で、主人公シム・ゴヌクの、財閥ヘシングループ一族への復讐企図と実行、それが両者の過去及び現在に呼び起こす波紋と顛末、これあるのみほかにドラマらしきお話は、ところどころに気配だけちらつきはするもののほとんど皆無に等しい。

日本のTV局で日本人Pや脚本家が日本人視聴者向けに作るドラマなら、『赤と黒』の場合たとえばジェインの美術展ディレクターとしての成長覚醒物語とか、東部署の叩き上げオヤジ刑事とモバゲー好き新人刑事との相棒コンビ熟成とか、わがまま女優に仕えるダサい付き人少女がゴヌクの諌言を支えにリベンジとか、いっそジェイン妹ウォニンのイケメン男子高生逆ナン泣き笑い顛末とか、17話あれば(当初20話予定が大人の事情で短縮されたらしいが)、主人公のメインストーリーと対比させたり絡み合わせたりしたくなる物語要素がごまんとあるのに、ちらつかせるのみでまったく掘り下げず、主人公の周りに配置して接点を持たせ反応させた程度です。

ドラマのストーリーは一本かぶりに限る。韓国製ドラマ現代もの初視聴で、何やら同国の制作哲学というか、信条というか、そんなものもおぼろげながら見えたような気がしました。

そう言えば前出のビョンフン監督特番に、インタヴュー時(=2009年)快調撮影・本放送中だった『同伊(トンイ)』が、初めて時間帯視聴率首位を陥落…というくだりがありました。そんな状況で監督が編集作業の傍ら言ったのが「調査や推理が長く続く展開だと、視聴者は離れてしまう」

…字幕でこう表現されていたので、韓国語でどういうニュアンスだったのかいまひとつ鮮明でないのですが、あながち「韓国人は謎解きモノが苦手」というだけの意味ではない様に思います。「(韓国のドラマ視聴者は)わかりにくいのが嫌い」「主人公が何を思いどう考えているのか表現されないまま、設定上の事情や事実が順列提示されていくだけでは、つまらないと思われる」と、同監督は言いたかったのではないでしょうか。

主人公ゴヌク役キム・ナムギルさんをはじめ、仮想ライバル?ホン・テソン役のキム・ジェウクさん、ホン一族長女テラ役オ・ヨンスさん、次女モネ役チョン・ソミンさんら、OPに主題歌つきで顔出し紹介される主役陣は揃って小顔でスレンダーで、衣装もヘアも、あくまで韓国視聴者基準ながらスタイリッシュそのもの。役柄的に“庶民代表”で丈夫そうに見えるジェイン役のハン・ガインさんも、脚などモデルさんのようです。しかし一見華奢でオシャレな絵ヅラに反して、内容、作りはあくまで“太”“濃”“直”

そして“情”どこまでも“情”。

ともすれば“淡”“軽”“散”に、そしてなんちゃらかんちゃら“理”や“知”に逃げようとしがちな、昨今の日本製ドラマに不満な客の一部がそっくり韓国製のそれに流れていってしまっているのも、あながち、例の日本人俳優さんのツイッターで非難された一部TV局の偏向のせいだけではないかもしれません。

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月だから 月だから

2011-09-15 00:09:56 | 海外ドラマ

えらいことになってまいりました。先週から、月河がせっせと後片付けと浴室掃除をしている時間帯に、BSプレミアム『赤と黒』2200~)をチラ視聴している高齢家族が、「おもしろい」と言い出したのです。ついに月河家も、一時代遅れて韓流の波に席捲されるか。しかも年齢が高い順に。家の外に街宣車が来たりすまいね。

主役ゴヌクの俳優さんを「なんか、いい」とか言い始めたし。『善徳女王』のピダム役で初めてこの人を見たときは、さほどの好感もなさげだったのですがね。『赤と黒』ではズラなしナチュラルメイクの、オフ日のホストみたいなラフスタイルでの登場なのがヒットした模様。毎話アバンタイトルの、ジャケ袖ロールアップで裏地を見せたスタイルを見ると、月河なんかは「マッチ(近藤真彦さん)…」と毎度、心の脳裏をよぎるのだが。

あまつさえ高齢組、「実家の上の姉の、最初の(=離婚した)ダンナがこんな(容姿の)感じだった」と、世界中で34人にしか意味通じないことまで口走り始めたではないか。いつの話だ。戦争前か後か。存命人物か。これはどんヅボの気配。

芸名キム・ナムギル“金南佶”さん。確かに、“いかにも韓流イケメン”という、型に嵌まったイメージとはちょっと毛色の異なる二枚目さんで、“かぶる”俳優さんが同国に見当たらないので、監督やプロデューサーらに惚れ込まれ特異な役にいろいろ起用されそうなタイプですね。ヨン様以来の日本のディープな韓流ドラマファンにも新鮮に映りそうです。ヨン様など所謂“四天王”系にはない、いい意味の山だし感がある。

製作側のこの人への嘱望体温と、この人が持てる芸能力量で観客に掻き立てる体温とが、まだバランスしていないような気もしますが、大人の事情によるとこの『赤と黒』撮了と同時に速攻兵役入りとなり、来年春まで軍にいるそうで、役者としての全面開花、真価が問われるのは除隊後かもしれません。

しかしながら、月河はアンテナの周波数が違うのか、監督やホン書きさんがなんぼこの人で“萌やしにかかって”来ても、うっとりとか胸キュンとかの範疇にどうしても行かないんだよなあ。どこが物足りない、何が気に入らないという問題ではない。理屈じゃないんですね。

ただ、この人の背後で、この人に惚れ込んで一生懸命ライトアップしようとしている企画者、スタッフさんたちのなみなみならぬ熱気は、チラ見レベルでもびんびん感じます。

洋服やアクセの店でも、今季はコレで客の財布を開かせるぞ!とチカラの入ったアイテムの陳列棚を通ると、好き嫌いは別として独特のオーラに当てられ、自腹の財布開く気は微塵も無くても、確実に気分は高揚しますよね。高揚しついでに、通り過ぎたその先の店で軽く散財したりする。

ゴヌクが何かするたび、何か誰かに目をやるたび、日本のどこかから「うっとり」「キュン」「じゅわん」という“音”が聞こえてくる。コレ、素直じゃないけど結構愉快な視聴体験です。録画完了・一気通貫が楽しみになってきました。

日韓共同制作というカンムリで、主題歌は日本人の歌う日本語楽曲です。フォトからレディコミ風の描線になって、配役紹介というより役者さん紹介のグラビア風ポーズで決まるOPも、韓国製ドラマならではの“臆面のなさ”が炸裂していていい感じ。

気がつけば、主題歌も知らず知らず耳の奥で静かにリフレっていたりする。韓国では、いろいろと歴史的な経緯があって日本語の楽曲は放送できないので、同国で人気の日本人歌手も、韓国語でセルフカバーしないと持ち歌を披露できないと長いこと聞いていましたが、2011年現在はどうなのでしょう。このドラマ本放送時は、やはりカバーヴァージョンだったのかしら。

あるいはこの曲の歌い手さんも、日本語っぽく聞こえないような歌唱法であえて歌っているのかも。

……そのせいか、なんとなく歌詞を聴き取りミスっているような気もしないでもない。……気のせいか。

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あなたの気ムチがよくわかる

2011-08-15 00:18:19 | 海外ドラマ

『商道(サンド)』の前にも何本か韓国史劇は視聴しましたね。ネットで目についたタイトルを探して、アタマの24話ぐらいを高齢組にお試しさせてみて、食い付きが良ければ後続レンタルする方式でやっています。広いネットの海、人気作でも好評一辺倒ということはまずありませんが、賛否ともに言及数が多いのを選んどけば大体の作品の輪郭がつかめ、ヤッコさんたちに前説しやすいですしね。

『一枝梅(イルジメ)』は鼠小僧的義賊モノと、忍者アクションを合わせた話のようで、時代劇世代にわかりやすいかも?と思って視聴(何度も映像化されているタイトルらしいですが、今回はイ・ジュンギさん主演ので)。意外と生き別れの実兄弟が追う者追われる者になったり、朝廷内権力争い・謀叛の濡れ衣とか、韓国史劇の“作りつけ”的お約束満載で、思っていたほどは痛快作ではありませんでしたね。どうも笑いとシリアスのバランスがね。“市井のヒーローもの”としては、日本的な感覚で言わせてもらうと“地の文”が湿っぽく、さらさらさくっとしていない。『善徳(そんどく)女王』で印象深い脇役だった刺客チルスクのアン・ギルガンさんが対照的な役で、同じくチュクパン兄貴のイ・ムンシクさんはまたしても泥棒系(?)の役で活躍していたので、高齢組は結構ウケていました。

ムンシクさんの泥棒演技が三たび炸裂したのが『チェオクの剣』。ホントにこの人、泥棒っけのない役やってるところ見たことない気がする。ムンシクさんが小悪党で表現した哀愁は『一枝梅』以上でしたが、メインストーリーも暴力描写も陰惨で救いがないにもほどがあり、高齢家族も月河も最終回ラストシーン後はリアクションが継げない微妙な後味でした。B級感満点な宙吊りアクションの連発はウケましたけどね。“無実で謀反の容疑→処刑か流罪→一家離散→敵味方できょうだい再会”のコースは避けられないのか。

雛形あきこさん似のチェオク役、ハ・ジウォンさんが妓生(キーセン)装束で出ずっぱり頑張った『ファン・ジニ』は映像が美しかったのでなんとなく完走できてしまいましたが、ヒロイン=チニ(←姓の“ファン”を冠さずファーストネームだけで呼ぶときは“ジ”ニと濁らず“チ”ニになるようです)の性格造形が一筋縄で行かない意地っ張りなため、応援モードですかっと視聴するのが難しかったですね。ラスト、究極の舞いとして大道で大衆とともに踊るチニはいい顔をしていた。

身分の高い堅気の若様(←いま日本で人気のチャン・グンソクさんです)との許されない恋や、想う人への操を立てて水揚げの前に死を選ぶ朋友など、“遊郭もの”ならではの切なさ要素、あるいは厳しい特異なレッスンとライバル同士の足の引っ張り合いといった“芸道ビルドゥングス・ロマン”の醍醐味はほぼ遺漏なく押さえてあるにもかかわらず、観終わって残るものが意外に少なかったのは、男性キャラが軒並み月河のツボに来なかったからかもしれない。盲目のチニ母を黙々と支えるベテラン楽士さんがいちばん素敵でしたね。高齢家族も同意見。

チニのライバル・プヨン役のワン・ビンナさんも参加していた『鉄の王キム・スロ』は、絵柄からして紙芝居っぽくチープでしたが、朝鮮という国が元来、いくつもの部族国家のゆるい集合体で、堅固な広範囲統一国家を必ずしも志向しない体質らしいことがよくわかりました。朝鮮戦争であっさり南北に分断されて半世紀以上を経過、統一統一と言いつつ成る気配もなくいまに至るのもそういう面が影響しているのかも。暴論か。

隣の強国・斯盧(さろ)の王女アヒョと両想いになり、次いで天竺の王族の娘ファンオクとも恋におちるモテモテのスロさん、最後のほうの即位後の貫禄ヒゲは似合ってなかったな。韓国史劇では、男性人物が“完成型”になるとヒゲ伸ばさなきゃしょうがないみたいで。『善徳』でも触れられた伽耶国の製鉄・鉄工技術に関しては、前半さらっと鍵になった程度で、結局いちばん記憶に残ったのは、スロの猛母チョンギョンが永作博美さんに似ていたこと。

『スロ』や『朱蒙』のような古代建国ものでも、近世の李氏朝鮮が舞台の作品でも、韓国の歴史時代劇に通底するのは“味つけされたナショナリズムだと思います。甘くであれショッパくであれ、朝鮮民族の来し方、文化や歴史の独自性、諸大国とりわけ半島背後の巨大中国の圧力に対し、我らが民族のご先祖たちがいかに勇敢に戦い賢明に努力して国土や産業、民生の自立を守ってきたか…という、こってりと人為的な称揚の価値観ががっちり据えられている。

だから紀元前の古代が舞台でも、王族や貴族たちはカラフルできらびやかなビザンチン風、あるいはロマネスクゴシックバロック風の、布地や貴金属宝玉を異常に潤沢に使った大仰な衣装をまとい、リッチで清潔そうな室内調度の中で暮らしている。

「そんだけ輝かしい歴史を持ち英雄偉人を輩出したにしちゃ、結局分断されてんじゃんよ」というツッコみはこの際封印するか、“つぶやき”程度で。たとえば、特にお名前は挙げないけど某・現職都知事のようなゴリゴリのライトウイングの人たちが視聴されたらたちまち嘲笑と叩きの嵐でしょうが、“内戦中、分断休戦中の国”のマスメディアが作ったソフトだからこその独特の臭み、しつこさ、味付けの過剰さも含めて韓国製史劇ドラマの魅力だと月河は最近思っています。

違う歴史と民族性を持つ日本人が観たら、生理的に受けつけない人がいても当然だと思う。称揚されている価値観を、一緒になって称揚する必要はないのです。“こういうドラマが作られ、TVで不特定多数に発信されて受け入れられ消費されるのは、そういう空気と土壌がある国だからなのだな”ということをわかった上で、我が国製のドラマにはないこってり加減を楽しめばいいのではないでしょうか。

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史劇感激

2011-08-13 20:24:12 | 海外ドラマ

なにしろ、この春、具体的にはNHK総合『イ・サン』と同BSプレミアム『同伊(トンイ)』の日曜夜の放送が始まった4月頃からですが、高齢家族が韓国製史劇以外のTVドラマを、『おひさま』以外)ほぼ、いっさい観なくなってしまったわけですよ。おかげで随伴ながら有名どころ作品はこの4ヶ月ほどでいろいろ視聴しました。

大型史劇挑戦の皮切りになった『善徳(そんどく)女王』は、新羅王3代にわたり王以上の権力で側室兼のちに璽主(せじゅ)として宮廷に君臨するミシルという人物が現実離れして毒々しかったけれども、権勢欲や独占欲だけでなく彼女なりの愛国心、使命感もあったのだろうなと、演じるコ・ヒョンジョンさんの美貌と迫力でなんとなく説得納得させられてしまいました。

その分、ミシル退場後のトンマン女王治世パートはちょっとかったるかった。新羅の君主が歴代願ってやまなかった“三韓統一”も結局見届けることならず中途半端に没した女王でもありますし。まだ自分の出生や運命を知らない少女トンマンが、夢で大人トンマンに出会うラストは、中途半端さをだいぶ救済しました。

要所の戦闘シーンの迫力、スケール感も合格点。全編の大半が女性の頭脳と意地のバトルなので、男性人物の存在感や魅力がもうひとつ残念でしたが、忠義武士道ひとすじの好漢・侍衛部令アルチョン、低い身分からの叩き上げ武人にしては大人の色気あるソルォン公が良かったですね。

大型長尺とくれば『朱蒙(チュモン)』。これはとにかく“ゼロから統一国家を立ち上げまとめ上げる”というベクトルの圧倒的ダイナミズムにやられます。中国大陸でかなりな部分をロケ撮影したと思しき戦闘シーン、行軍シーンもさることながら、甘やかされて育ったグウタラ王子がさまざまなきっかけを大小問わず糧にして覚醒成長していく、ブレない右肩上がり曲線が痛快。主人公を囲む脇キャラも多彩かつ珠玉の出来で、敵味方ともに誰ひとり適当に配置されていない。志を同じくした戦友の遺児、そして生涯愛する女性の産んだ子として自分の実子より朱蒙に愛を注ぐクムワ王=名優チョン・グァンリョルさん演じる叡智の中の一抹の残忍さ、晩年を迎えての迷いと老残の悲哀。朱蒙と逐次出会って最初反発摩擦しながら徐々に忠臣として自らも成長を遂げていくプータローたち。もともと持っていた度胸や反骨心、義侠心が、将来の建国のヒーローとなるべき器と出会って開花していく過程。ともに発展途上で朱蒙と知り合って恋心を抱くもすれ違い、二度めに出会ったときには“男と女ではなく、国の将来を思う同志”として、傍目からは政略策に見える結婚を敢行するソソノ大君長のいさぎよさは、その引き際とともに欧米圏の人たちにも支持されるのではないでしょうか。

欲を言えば、イェソヤ様との再会生存確認までがじりじり引っ張り過ぎに感じる上、最終盤のユリ王子とソソノの連れ子たちに関するくだりが蛇足感。昼帯ドラマでもヒロインの子供たちの代主体の話になると一気にテンション弛み興が醒めますからこんなものでしょうね。

月河も高齢組ももちろん朱蒙の建国の戦いを、側近の元プータロー武将諸君ともども応援モードで視聴しましたが、傍ら“ラクしてトクするためなら死んでもいい”勢いの、アホバカ策士・ヨンポ次兄に一貫して大受けでした。こういうキャラは悲惨シリアスな最期が似合わないから逆に安心感がある。しかも普通に見れば3兄弟の中でいちばんハンサム。見ただけでまともに喧嘩する気が失せる、腑抜けた感じの黄緑色のコスチュームも、無駄に甘く端整なルックスによくお似合いで。

朱蒙の遺伝子を継ぐ…という触れ込みにひかれて、朱蒙の次のユリ王の、そのまた次の太武神王の物語『風の国』も視聴しましたが、これはお話としての迫力も、キャラ造形ももうひとつでした。主役・無恤(ムヒュル)も敵役トジン公も、行動の芯がヨン姫への恋愛感情に寄りかかり過ぎで、ヒーロー/ダークヒーローとしての深い魅力がない。風景など映像はこぎれいにまとまっていましたが、せつない場面でやたら同じ曲が流れる演出も浅い。『朱蒙』主役のソン・イルグクさんが朱蒙の孫に当たる役で再び主演というのも放送当時は話題だったようで、宮廷で青年期までぬくぬく育った末っ子王子朱蒙に対し、死んだことにされ洞窟の壁画工として隠れ育てられた無恤を表現するため、聞けば放送当時36歳のイルグクさん、10キロ近く減量しての参戦だったそうですが、いささか空振り気味。これはイルグクさんの落ち度ではなく、奥行きと幅のあるたくましい主人公像を作れなかった脚本の力量不足でしょう。日本の大河ドラマなどでもよくあることですね。あるいは「『朱蒙』より女性視聴者向きに」との製作側の思惑もあったか。恋愛メインにして、甘い曲を流せば女に受けるというものでもないのにね。

終わってみれば、トジンが椎名桔平さんに、ヨン姫が細川ふみえさんに、ヘミョン太子が潮哲也さんにそっくりだったことしか記憶に残っていない。韓国ドラマ視聴していて、「日本の○○さんに似てるね」に引っかかってしょうがなくなると、不出来作の証明というか、もうお話に入り込めないこと決定です。

恋愛メインと言えば『薯童謠(ソドンヨ)』。新羅と百済、宿命のライバル国の王子と王女同士の許されぬ初恋。国vs国、王位継承権をめぐる血で血を洗う話が、主役カップルの恋愛感情ほとんど一本かぶりのエンジンで進んでいくという仕立てが、逆に新鮮でした。監督が『宮廷女官 チャングムの誓い』や、冒頭に挙げた今年NHKで放送中の2作でも知られ日本でいちばん有名な韓国ドラマ演出家でもあるイ・ビョンフンさんで、フレームいっぱいの派手なドンパチドカーン、ドバドバグサッの戦闘剣劇、反対にあまーくお花畑な美男美女ラブストーリー、どちら極端もあまり得意ではなさそうなため、劇中どちら路線も中道を行き、足して二で割った独特な味になって結実したようでもある。百済太学舎(てはくさ)の数々の理系技術や工学発明がもっと展開の鍵を握るのかと思っていたら、そっちの引き出しはあまり無かった。

後半は薯童ことチャンの、血筋が求める百済王位への戦い全開になりますが、チャンも、敵国新羅のスパイで終生の仇敵となるサテッキルも、見た目どっから推してもチャンバラ武闘の似合う体育会系ではなく、文化系の優男なのがおもしろかったですね。どちらもイケメンというより、古めの昭和ハンサム。昭和40年代の学園青春もので生徒会長役などできそうなのがチャン。サテッキルのほうは若干面長なので、眠狂四郎シリーズの市川雷蔵さんにちょっと似ていました。バトルに向かうファースト動機が恋心…という作りに、『風の国』で感じたような違和感がなかったのはこのふたりのキャスティングがぴったりだったことが大きい。チャンは亡命先で太学舎メンバーから出入り禁止になって、ひとり野で暮らしていた10年があり、半裸で薪割るシーンもあったりしましたが、優型の顔立ちなわりに結構がっしりしていましたっけ。韓国の男性はいちばん肉体的に充実する20代で2年間の軍入隊訓練を体験するので、男優さんたちも総じて身体は立派ですね。

ビョンフン作品と言えば『商道(サンド)』も観ました。このドラマに関しては稿を改めましょう。

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韓にして洋を得る

2011-07-03 22:43:11 | 海外ドラマ

脇道にそれますが、韓国製茂樹……じゃなくて(←祝・復員生還)(@『おひさま』)史劇ドラマも、長かった『善徳女王』の後、無謀にも全81話の『朱蒙(チュモン)』にまで手を出してしまいまして、現行NHK総合とBSプレミアムで放送中の『イ・サン』と、『同伊(トンイ)』も合わせると、結構なタイトル数を、制覇したりかじったりしたことになります。

こんだけここのワールド渉猟したら、世のおばちゃん方並みに、韓流スターのご贔屓のひとりぐらいできたってよさそうなものなのですけれどね。主役クラスの二の線の諸君諸姉は、かなり顔面偏差値も高いですしね。

ドラマの内容が濃くて、引っかかりもツッコみどころも豊富なのに比べ、俳優さんたちにいまいち熱く興味を持ちきれないのは、芸名がカタカナばっかりというのも大きいと思う。欧米名ならわりと簡単に顔や役柄とセットで覚えられるのは、小学生坊主の頃から英米ミステリを読み慣れていたからかも。韓国の人名って、語呂がみんな似たようじゃないですか。姓なんか九つか十ぐらいしかないんじゃないかってぐらいだし。

漢字表記と併記ならもっと覚えやすいと思うんですけれどね。漢字には、字ごとに表意があるので、イメージがしやすいんですよ。それこそ太陽の陽子とか、金ヘンに定めると書いて錠とか、真実を知る子と書いて真知子とかさ。同じ漢字文化の国なんだから、漢字で交流しましょうよ。

それでも、韓国製ドラマは大体、OPで主要キャストの顔出し紹介が毎話毎話あるので、全62話の『善徳』ぐらい多話数の作品だと、カタカナでも、結構覚えます。毒婦女傑ミシル璽主(せじゅ)さま役のコ・ヒョンジョンさんという名前は、キャラがあまりに強烈だったのでさすがに早々と覚えた。にしても、“高賢廷”さんという漢字表記ならもっと早く覚えられたのに。ミシルさまのイメージそのものな字並びじゃないですか。

『善徳』ではクレジットトップのトンマン女王役イ・ヨウォンさんも覚えました。韓国で姓“イ”さんは近世の王朝名にもある“李”さんですね。漢字では“李瑤媛”さん。愛媛県の“媛”なのがトンマンっぽい。

この作品は女王が主人公で概ね女性上位の物語なので、男優陣は覚えるのに時間がかかり、それでも終盤までにクソまじめのカッタマリ・ユシンええと…最終的には大将軍(てじゃんぐん)役のオム・テウン泰雄”さんは覚えられました。カタブツにもほどがある役柄に合った、古風な端正さのあるお顔立ちなのですが、なんか、月河は終始、微妙に昭和40年代の演歌歌手の黒木憲さんを思い出して仕方がなかったな。霧にむせぶ夜。

中盤から最終話まで、とても重要かつカッコいい役なのになぜか顔出しOPに出てこないアルチョン侍衛府令(しいぶりょん)役のイ・スンヒョ“李承孝”さんは、逆に、出てこないから先に公式を調べて覚えました。漢字で書くと読売ジャイアンツの選手みたいだが。こちらは歴然と純コリアンの男クールビューティという感じ。いかにも史劇の若武者役向きなルックスのかたですが、俳優さんですから現代もののラブコメとかお仕事ドラマなんかにも出ているかもしれない。ちょっと見てみたいような。

贔屓とかファンという域ではないけれど、いまいちばん興味が沸いている韓国俳優さんはぺ・スビン“裵秀彬”さんでしょうか。『同伊』で「大きくなったら俺の嫁になれ」とトンイを可愛がってくれていた、心優しく勇敢なチョンス兄さん役でお顔だけ先に覚えましたが、『風の絵師』でいきなり王さま役で、若々しい中にも圧倒的なロイヤルオーラばっきんばっきん出しまくっていてびっくり。しかも『風の~』の王さまはただの王さま(ただのってことはないが)ではなく正祖(チョンジョ)大王ですから、『イ・サン』の世孫(せそん)さま即位後のお姿をだね、世孫のお祖父さまに当たる人(=英祖さま)を産むことになるトンイを可愛がるチョンス兄さんが演じておられるわけですわ。ああややこしい。

このぺ・スビン“裵秀彬”(“ひであき”さんと読みたくなりますね)さん、いま着々と視聴中の『朱蒙』ではヨン・タバル商団のサヨン行首(へんす)として、男であって心は女でもあり、知将かつ馬術武術も強くて、というなんともスーパーなキャラで活躍中です。こういう役どころは演技力に定評ある人だからこその起用だと思います。

そう言えば先週、午後の出先の待ち時間のTVで、タイトル未知の現代もの韓国ドラマを放送中で、いきなり現代姿のスビンさんが映ってびっくりしましたっけ。軽くリーゼント風オールバック頭、なにげにおヒゲの剃りあとが濃い。時代ヅラ無しだと、印象的な翳りのある大きな目より、顔の長さのほうが若干目立つかな。『天使の誘惑』というドラマと後でラテ欄見て知りました。若き御曹司が他人になりすまして自分の妻だった女性にどうこう…ってなんかめちゃめちゃどっかで聞いたようなストーリーみたい。どっかで聞いたけど、でも大好物。どうしよう。どうしようってことはないか。DVD探すか。こうしてずぶずぶと嵌まって行く自分が怖いが。

そう言えば『朱蒙』でスビンさん扮するサヨン行首に熱く見つめられている、タムル軍のミスター髭ヅラ・ヒョッポ大将役のイム・デホ“林代昊”さんも、当地で朝いちぐらいの早い時間帯に放送されている『ホジュン 宮廷医官への道』で見かけました。こちらは12年ぐらい前の作品らしく、怪力無双でがっしりしたヒョッポのイメージよりだいぶぶにぶにな、ドジな普通のデブキャラと見えます。『朱蒙』扶余(ぷよ)国クムワ王のチョン・グァンリョル“全光烈”さんがホジュン役。忙しい朝っぱらからかぶりつきで視聴してるわけには当然いかないわけですが、気になる気になる。

顔と名前と芸風が覚えられた俳優さんを、別の作品で見かけるとなんだか嬉しくなり、作品自体への興味も増して、共演の俳優さんの顔と名もひとりまたひとりと覚えていく。1980年代後半のレンタルビデオ隆盛の頃、学生時代以来ちょっと縁遠くなっていた洋画の世界に、改めて嵌まって行ったときがこういう気分でした。

洋画以上に玉石混交で、それゆえ八方破れなパワーも感じさせる韓国ドラマ。怖れず急がず焦らず、ゆっくりじわじわ踏み込んでいくとしますか。気がついたら耳まで浸かってそうで、怖いっちゃ怖いけど。

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