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バードマン 【感想】

2015-04-15 09:00:00 | 映画


人生は物語だ。その物語の主役の座はすべての人間に与えられる。その主役をどう演じるのか、それは個人の想像力次第だ。但し、その結果である現実は、コントロールすることが叶わない。思い描く理想と現実の間にギャップが生じるのは必然。そのギャップに苛まされるが、時間は否応なしに過ぎ去る。鏡に映る自分を見て「あれ?イメージと違う」と思う。過去と現在と未来。人は何を演じて、どう生きるのか。映画「バードマン」は、役者として生きる1人の男を通じて、その答えを探す旅に出る。

言わずと知れたオスカー作品賞受賞作だ。監督賞、脚本賞までも獲得し、その代わりに「6才のボクが~」が冷遇されたことも記憶に新しい。「いくらなんでも獲り過ぎ!」と思 っていたが、観て納得。本作のような映画が作品賞に選ばれたことを非常に嬉しく思えた。
イニャリトゥ映画の最高傑作であり、個人的には早くも2015年ベスト級の1本となった。

主人公は、過去に「バードマン」という映画で一世を風靡した初老の男。今は長期のブランクに入り、かつての名声を取り戻すために、ブロードウェイの舞台で再起をかけようとする。
本作では俳優を2つに分類する。映画俳優と舞台俳優だ。真の役者は後者であり、前者はセレブ(有名人)と位置付ける。主人公は紛れもない前者であり、バードマンというヒーロー映画はいかにも陳腐で、その典型像として映る。彼が求めるのはかつての名声であるが、真の役者として脚光を浴びることを望む。自身の脚本、演出、主演による舞台は、その実力を示すには十分な機会だ。しかし、所詮は舞台素人。今そこにあるのは、鈍った役者感と、衰えて弛んだ肉体だ。映画は彼の挑戦を応援するわけではない。むしろ「滑稽」とみる。

そんな主人公に冒頭からつきまとうのが、かつて自らが生み出した虚像である「バードマン」だ。それは、かつての栄光の化身であると共に、野心をたぎらすもう1人の自我だ。ブロッグバスタームービーに支配された現在のハリウッドを皮肉り「お前は格が違うんだ」と鼓舞したかと思えば、小難しく地味な演劇舞台をあざ笑い「誰が観るんだ?お前には映画しかねーよ」と言い放つ。思考の矛盾を余裕で無視しながら、バードマンは主人公に自らの主張をぶつけ続ける。そして主人公もまたバードマンの 存在に抗い続ける。

主人公の葛藤は、バードマンとの舌戦に留まらない。共演者や家族が、彼の挑戦に対してトラブルのタネを次々に持ち込む。そのトラブルに対処しながら、主人公は舞台の内外で本番の準備を進める。多くの機材に囲まれ、迷路のように入り組んだ舞台裏で交錯する人間模様。物語は混沌とする。
映画はその様子を場面転換なしのワンカットで、ありのままの姿を捉え続ける。空間だけでなく、描かれる4日間の時間も切られることはない。途切れることのない映像の流れに圧倒されるが、ふと我に返ると、それは自分が日々体感している同じ時空間の流れであることに気づく。映画という虚構の世界に確かなリアリティが宿る。

ルベツキによる神がかったカメラワークなど、テクニカルな側面は当然大きな賛辞に値するのだが、時空間に加えて、現実とイマジネーションの境をシームレスに繋げてしまったのが凄い。その創造性に強い感動を覚えた。映像を通して、主人公の生き様を彼の脳内から見つめるのだ。その映像体験は、不思議な親和性をもたらす。人間の意思決定の源泉は想像力の元にあるからだ。そして本作を普遍的なドラマであると確信する。ファンタジーをもってリアルを語る、これこそが神業だ。

「いったい何が言いたいの?」という本作への問いはおそらく愚問なのだと思う。現代のエンタメ業界への「考察」(批判ではない)を交えながら、混沌を混沌のままに提示する。そこに主張はない。監督のイニャリトゥは、キャラクターの 心情を含めた状況の再現性に徹する。物語の受け止め方は完全に観客側に委ねられる。本作はこれまで彼が手掛けたシリアスな映画とは異なる、突き抜けたコメディ映画である。しかし、彼の作家性はまったくブレていない。これだからイニャリトゥが好きだ。

彼が描く混沌の世界と共鳴し合うのが、即興のドラムスコアだ。音楽のベースである「リズム」の究極形であるドラム音を採用したのが素晴らしい。ときに状況の道標として、ときにキャラクターたちの鼓動と重なり、物語の骨格をより鮮明に浮き上がらせる。本作が作曲賞で、オスカーノミネートすらされなかったことが信じられない。

イニャリトゥが振るうタクトにキャスト陣も見事に応える。実力派を揃えたキャスト陣の化学反応にワクワクする。その演技力は言うまでもない。しかしそれ以上に目覚ましいのは、ワンカットで見せる映像表現と同じく、キャスト陣もリアリティとライブ感の醸成に挑み、それに成功した点だ。いやー凄かった。
バットマンだったマイケル・キートン、実際に舞台で活躍したエドワード・ノートン、迷惑をかける役の多いザック・ガリフィアナキスが今度は迷惑をかけられる役、などなど、キャストのキャリアを利用したキャスティングも、本作のユーモア体形に肉付けしている。マイケル・キートンのパンイチでのブロードウェイを横断するシーンは本作のテーマをギュッと濃縮し、象徴したものだったと思う。

キャスティング、脚本、演出、撮影、音楽、どれをとっても何も足せないし、何も引けないほど完璧。その完成度と、驚くべき映像アプローチにより、本作は映画史にその名を刻む。
現実と非現実が手をつないだラストに胸が打ち震えた。人は羽ばたけるのだ。
奇跡の映画「バードマン」に喝采を贈る。

【100点】



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