2月に入り、ようやく2021年の映画館鑑賞1本目。
8年越しに待った渡部亮平監督の商業デビュー作だ。その年の私的日本映画ベストであった監督の前作「かしこい狗は、吠えずに笑う」。鑑賞後、監督の才能に惚れこみ、監督のフェイスブックに賞賛のコメントを寄せたら、丁寧に返してくれた。次作の製作が待たれていたが、こんなに待つことになろうとは。。。当たり前だけど、映画を作ることって難しいんだな。
不幸続きの女子が、開業医の金持ち男子と出会い、結婚し、その後の生活を描く。
前作に続き、監督の完全オリジナル脚本。タイトルの通り「シンデレラ」から着想を得ており、「運命の出会い」として結ばれた結果、その後の人生は果たして本当に幸せになったのか?という疑問に1つの答えを出した話である。
前半は「シンデレラ」同様のおとぎ話だ。主人公にこれでもかと投下される災難。からの、一発逆転の玉の輿。夫は金持ちで優しくてイケメン、連れ後の小学生女子は可愛くて主人公を実の母のように慕う。とんとん拍子に話が進み、絵に描いたような話を、絵に描いたように見せる。
監督の真骨頂は中盤から始まる転調だ。平凡な日常が異常な現実に変化する境界は、実は容易に手が届く傍にあって、そのメカニズムに似た過程を描きだしていく。その人の人生を100%知らない者同士が、個人ではなく家族として人生を共にしていく結婚。本作で描かれるのは振り切ったファンタジーであるものの、リアルな物語としても十分咀嚼することができる。喜劇と悲劇の表裏、正気と狂気の表裏、その一線を越えていくスリルと恐怖は前作に共通していること。これを監督の作家性と位置付けるにはまだ早いかもだが、凄い才能をもった逸材と確信する。
物語のプロットの面白さ、様々な伏線の仕掛け、衣装や小道具の意味付け、徹底した画作り、あえての余白の作り方、タブーにも踏み込む勇気、大胆なブラックなテイスト、、商業デビュー作でこれだけの作品を残したことは本当に素晴らしい。拍手喝采、大絶賛したいところだが、映画自体の引力の強さ、エンタメとしての面白さは、前作に並ぶものではなかったのは正直なところ。
監督が描きたいことが多すぎたのか、綺麗にまとめ上げられていないか。結果、それが脚本の粗として見えたりするから勿体ない。展開の動きが曲線ではなく、直線的な角度をもって変化するものだから、一瞬、気持ちが離れる瞬間もあって100%没入することができない。あと、監督が土屋太鳳のキャスティングにこだわり続けた意味もあまり理解できなかった。
本作を観たのは先週末。1週間経過して興行収入的にも苦しいようだが、映画界は渡部監督に次の製作機会を絶対に与えてほしいし、監督も忖度することなく、自らが表現したいものを撮り続けてほしいと思う。監督がクラウドファンディングをやったら自分は必ず参加する。
【65点】
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