から揚げが好きだ。

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素晴らしき世界 【感想】

2021-02-20 08:27:42 | 映画


西川映画にいつか出てほしかった役所広司と太賀が同時にメインキャストとして参加した本作。公開を心待ちにしていたが、予感は的中。やっぱ傑作だった。
たぶん、もう1回観に行く。

元殺人犯の男が刑期を終えて、社会に出るとどうなるか。。。主人公「三上」本人と、それを受け入れる社会の双方向から描く本作は、「社会派」という枠を超えて、人間の生き様、人間と人間の繋がりに深く想いを巡らすドラマに昇華されていた。筆致はあくまで軽く、ユーモアのツボが悉くハマる心地よさに浸りながらも、凶暴性を秘めた男の衝動に震えたりする。面白い視点と感じるのは、主人公の生きづらさを社会のせいにしてないことだ。むしろ、本作の場合、主人公を囲む一般社会の住人たちは一様に親切で優しい。

決して「悪」ではない。主人公の暴力性は想像力の欠如によるもので、傷つけた相手の痛みを想いやることができない。本作では主人公の不幸な生い立ちから、ヤクザへの道、そして犯罪へと繋がる過程を、科学的根拠で語りながら、「瞬間湯沸かし器」な主人公の個性を考察していく。なるべくしてなってしまった、男の半生が切なくもあり、社会に適合できない必然性を感じる。「ザ・ノンフィクション」に近い感覚で、とても興味深い。おそらく相当な取材を行ったであろう緻密でリアルな情報と、西川監督の優れた人物描写が合わさった脚本が見事だ。笑いと恐怖、久しぶりの喧嘩で興奮を抑え切れない主人公が、扇風機の前でまくしたてるシーンが印象的。

本作は希望を描いたドラマだ。人生を諦めない、人間の良心を諦めない。ほぼ善人しか登場しない「偏り」は本作を描く上では必須の材料と思えた。生きる依りドコロは他者にあって、他者によって生かされるロジックは監督の前作「永い言い訳」にも繋がるなーとぼんやり。また、真っすぐにしか進めない主人公を目の前にして、「いい加減に生きている」我々一般人の、正義みたいなものが歪んで見える場面もあり、いろんな味わいのある映画だ。だからもう1回見たい。

主人公演じる役所広司は「三上」にしか見えなかった。圧倒的なリアリティーを纏い、人間の可笑しさ、怖さ、哀しさをその佇まいに集約させる。巧さを超えた次元というか、「三上」の生き様にただただ圧倒される。もはや、本家オスカーにも値するパフォーマンスと断言できる。そして、太賀だ。彼の追っかけとなりつつある昨今だが、大忙しの彼のキャリアの中でも本作は重要な機会になったことだろう。今回の彼の役どころは、理解できないことを理解させる、実は結構な難役。どうして、無関係な男子があそこまで主人公に入り込むことになったのか。。。自分はとても共感できた。2人の共演シーンは、心に刻まれる名シーンばかり。あぁ幸福な映画体験。あと、橋爪功や、六角精児ら脇役の面々が、めちゃくちゃ良かったことも添えておきたい。

【85点】
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