そしてヒーローになる。そして家族になる。まさかの胸アツ映画。
キャラクターのハートをしっかり捉え、”シャザム”の真の力に繋げた脚本が素晴らしい。そのクライマックスに驚きと笑いとカタルシスが襲い掛かる。陽性化が進むDCユニバースの決定打といえ、B級感の強い設定と無名キャスティングで収めた本作の成功はまさに痛快。どーりで北米で絶賛されたわけだ。観終わって「シャザム!」と何度も連呼したくなる。
ヒーロー映画の誕生譚は、然るべき背景やプロセスを踏むのがセオリーだ。偶発的な事故によって、図らずも強大な力を身に着け、正義に目覚めるパターンは少なくないが、本作の主人公ほどヒーローと縁遠いキャラクターも珍しい。主人公の「ビリー」は身寄りのいない孤独な少年、自分のために生きることしか眼中にない。他者に対して無関心かつ、周りに迷惑をかけることも抵抗なし。”純粋な者”という本作ヒーローの選定条件にはあてはめづらい。では、なぜ彼が選ばれたのか。
その謎をさらに深めるのはビリーのルームメイトとなるフレディの存在だ。足が不自由で、学校ではいじめに遭うが、いじめっ子に中指を立てる度胸あり。アメコミヒーローオタクで、正義や超人パワーに人一倍憧れている。ハンデを背負った人間がスーパーヒーローになるパターンが見え、ビリーよりも障がいを負ったビリーが選ばれるほうが収まりが良い。ビリーが有して、フレディにないもの、、いや、その答えは逆で、フレディが有して、ビリーにないものがあったからと思えた。
謎の魔術師に導かれ、強制的に超人的な力を与えられたビリー。理由もわからず、外見も筋骨隆々の大人になっている。ダサいコスチュームは固定(笑)。力の使い道を持て余して、手から出るビームも格好の遊び道具になる。”もしもスーパーマンになったら”みたいな悪ふざけ動画をフレディと一緒にSNS動画に次々とアップ、「don't stop me now」に乗せて矢継ぎ早に見せるシーンが可笑しい。普段は塞ぎ気味なビリーが、大人の姿を手に入れたことで子供らしい奔放さを発揮する。演じるザッカリー・リーヴァイは「マーベラス・ミセス・メイゼル」に出ていた人だ。とても芸達者。
すぐにその動画は拡散し、有名人になった主人公ら。そこでヴィランとなる科学者に目を付けられる。このヴィランの設定も良く練られている。家族に捨てられた境遇は同じだが、家族を探すビリーに対して、家族に復讐する科学者。善と悪、強大な力を持ちながら異なる道を辿る2人の構図が対照的。「家族」というテーマが本作の軸になっていることは間違いない。また、「7つの大罪」に支配されるヴィラン攻略のミステリーも面白かった。
ひたすら逃げまわっていたビリーが、ヴィランに立ち向かうきっかけとなるのは、彼を家族として慕う里子兄弟との絆だ。その絆の結実がビリーが選ばれた理由であり、同時に「シャザム!」の覚醒となる。巧いな~と感心。そして、まったく予想できなかった展開に、興奮してしまった。あの展開から、もう少し遊んでくれたら、なお良かった。
他、印象に残ったのは、ビリーが親と生き別れて以来、大切にしていた方位磁石のシーンだ。それまでの能天気な雰囲気から一変、あまりにも悲しい現実を突きつける。大いなる失望のなか、彼の”道しるべ”を預けるシーンが切なくも感動的だった。
監督はホラー出身の人。別ジャンルの監督が新たなステージに挑み、ホームランを打つパターンは、ここ数年のアメリカ映画の潮流だ。才能ある新鋭に次々とチャンスを与える豊かな土壌が、傑作を生み出し続ける源泉なのだろう。
【75点】