そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『「ハードウェアのシリコンバレー深セン」に学ぶ』 藤岡淳一

2018-08-12 23:04:45 | Books
「ハードウェアのシリコンバレー深セン」に学ぶ−これからの製造のトレンドとエコシステム (NextPublishing)
藤岡 淳一
インプレスR&D


Kindle版にて読了。

著者は、25歳だった2001年に日本の上場企業から香港資本のベンチャー企業に転職し、そこから深センでの電子機器製造との関わりが始まった。
現在では、深センを本拠にしたEMS(電子機器受託製造)企業の経営者となり、日本の若い起業家のスタートアップ支援も行っているという。
彼の半生と重ねながら、深センが「ハードウェアのシリコンバレー」「紅いシリコンバレー」と呼ばれるまでの世界一の電子機器ハードウェア製造開発の集積地となった過程を解説している。
紙面量は少なくてすぐ読めてしまうが、とても刺激的な内容に満ちた快作だ。

まず「白牌/貼牌」「山寨」「公板」といった深センの製造サプライチェーンを特徴づける独特な概念が紹介される。
白牌とはノンブランドのこと。白紙のノートのように後から別のブランドを書き込むことができる。
貼牌とは、その白牌製品に企業のロゴをつけたり、塗装を変えたりしてブランドを貼り付ける行為。
山寨は「コピー品」「ノンブランド品」「無認可品」のことだが、電子機器製造の世界では、独自の設計、部品、ソフトウェアを使わない製造手法のことをも指す。
公板はパブリック・ボードと呼ばれ、ある特定の製品用に設計された基板を一般販売するもの。

こういった製品・部品サプライチェーンをうまく利用すれば、普通では考えられない低コストで電子機器の完成品を製造することができる。
深センの製造業は殆どの工程を外注していることが特徴で、垂直統合、水平分業ならぬ「垂直分裂」と表現されるという。

もちろん、素人がいきなり深センに乗り込んでいっても、このサプライチェーンを活用することは難しい。
深センのエコシステムや商慣行を深く理解する目利き力や人脈が必要となる。
長年、ここ深センで試行錯誤しながら取引を繰り返してきた著者は、それを備えていることが強みとなっている。

もちろん、中国人とのビジネスは苦労の連続だったという。
著者が中国人と日本人の違いを語った部分を以下引用する。

私は日中ビジネスマンの違いは「損して得するが日本人、中国人は得して得する」だと言っている。今回は損しても仕方がないという考えはないのだ。 1回 1回の取引でメリットがなければやらない。超近視眼的な取引であるが、人間関係も社会も変化が激しい中国ではこうして生きるしかないのだろう。

深圳を見て欲しい 。 1人 1人は超合理的で情に流されない中国人だが、深圳全体を見てみるとエコシステムという形で人の力を借りて生きる世界が生まれている。日本は真逆だ。 1人 1人の人間は親切だが、全体を見てみるとバラバラ 。協力することなく、ばらばらに動いている。


この深センの興隆ぶりを見て、深センを日本でも再現したいという話が出るが、それに対して著者は以下のようにきっぱりと見解を述べる。

だがそれは無理だ。本書をここまでお読みになった方は分かるだろうが、世界に 1つしか存在できない、希有な場所が深圳なのだ。目指すべきは深圳のエコシステムを日本も活用すること、そこから利益を上げられるような枠組みの作り方だ。日本で要素部品を作り、それを深圳で活用してもらう。そうした関係も十分考えられるはずだ。ないものねだりや無謀な発想ではなく、今の状況を十全に理解した上でどう動くのか、現実的な判断が必要だ。


とにかくダイナミックなハードウェアの都。
一度、身をもって体験してみたいものだ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『ブロックチェーン革命』 ... | トップ | 『AI vs. 教科書が読めない子... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Books」カテゴリの最新記事