そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

グローバルインバランス

2009-02-21 00:17:01 | Economics

今週2月17日(火)~19日(木)にかけて、日経新聞朝刊「経済教室」では、「国際不均衡 どう是正」と題して、2000年以降米国の経常赤字を中国・中東などの新興国の経常黒字が支えるいわゆる「グローバルインバランス」問題について、3回シリーズで特集されていました。
以下は、その備忘メモです。

第1回は、小川英治・一橋大学教授。
「経常収支の黒字国と赤字国とは、ミラーイメージ(鏡像)であり、どちらにグローバルインバランスの責任があるのかと、犯人捜しをするのは無意味」とした上で、不均衡をいかに解消するかという問題を考えるにあたり、中国の経常収支黒字縮小に向けた方策の方向性が論じられています。
方策としては「過剰貯蓄の解消」と「人民元切り上げ」の2つの切り口が主張されますが、これら2つは両立しないことが以下のように解説されます。

賃金・物価が伸縮的な経済であれば、国内総生産(GDP)は必ず完全雇用水準に落ち着き、これをもとに貯蓄の大きさが決まり、貯蓄投資ギャップから経常収支が決定される。したがって、伸縮的な経済の下では、経常収支の不均衡を調整するのは為替ではなく、貯蓄の多寡になる。
一方、賃金・物価が硬直的な経済であれば、GDPは常に完全雇用水準で決まるわけではない。すなわちこの状況でも資本移動は比較的スムーズでまず為替相場が決まるので、為替相場は経常収支不均衡の調整手段となりうる。

実証分析によれば「中国においては賃金や物価は伸縮的であり、貯蓄が経常収支の主要な決定要因であることが判明した」とのこと。中国の経常収支黒字を減少させるには「貯蓄を減少させ、消費を増加させることが有効である」と言えるとのことです。
(これに対して、日本は為替の経常収支に対する影響が大きく、貯蓄減少よりも為替相場により経常収支を調整する方策の有効性が高い、とのこと。中国に比べて外需依存が相対的に低いため、貯蓄率を減じても経常黒字縮小の効果が低い、ということのようです。)
中国の貯蓄減少は内需主導への転換が必要であり、そのためには社会保障制度を整備して将来不安に基づく過剰貯蓄傾向を解消することが肝要、と結論付けられています。

第2回は、原田泰・大和総研チーフエコノミスト。
まず、「中国の過剰貯蓄が米国の実質金利を低下を通じて米国のバブルの原因となった」というポールソン前財務長官の発言について、中国の黒字拡大と米国の金利低下に事実として時期的なズレがあることを指摘した上で、仮に中国の経常収支黒字が米金利低下に連動したという議論が正しいとしても、それは「実質金利の低下がもたらす均衡であって、バブルでもなんでもない」と論じます。
さらに、以下のように解説されます。

過剰貯蓄が一時的なら米国が低い金利を当て込んで過大な投資をした後、中国の人々が、突然、自分たちが貯蓄しすぎていたことに気がつき、消費を拡大し、貯蓄を減らしだしたら、米国の金利が上がり、過大な投資プロジェクトが破綻することになるからだ。
だが、住宅バブルがはじけたのは、中国の貯蓄が減少したからではない。米国の住宅価格が、中国の過剰貯蓄でも支えきれないほど上がりすぎたことが崩壊の主因である。中国の過剰貯蓄が原因なら、米国の住宅バブルが破裂したときには、中国の消費が急拡大していなければならないが、そんなことは起きていない。

次に、日本の低金利政策がいわゆる「円キャリー」を通じて米国への資金流入をもたらしバブルの原因となった、といった議論についても、「実質金利と名目金利の違いを無視した議論」と否定します。
海外の金利が日本よりも高いのは、インフレ率が高いためであり、実質金利で比べれば日本の金利は決して低くない、とのこと。

米国金融危機の原因を中国や日本に求めるのは誤りであり、あくまで主因は「米国の金融監督システムの不備と、その不備を悪用した人々にある」と結ばれています。

第3回は、橋本優子・東洋大学准教授。
欧州諸国を中心に、「金融部門が世界的にフロー、ストック両面で拡大した」ことがグローバルインバランスの背景にあることを指摘。
その上で、今般の金融危機事態がグローバルインバランス解消のきっかけになると解説されています。
そして、金融部門の痛手が相対的に小さいアジアにおいて、危機克服の過程で内需拡大が実現できればグローバルインバランス縮小の傾向はさらに揺るぎないものになる、と説明されています。


グローバルインバランス発生の主因をどこか一か所に特定することがナンセンスであることは、冷静に考えれば当然のこと。
内需拡大を果たせないまま急激に経済拡大してしまった新興国と、金融監督の仕組みをうまく機能させられずバブルを発生させてしまった米国という、それぞれの事情が折悪しく噛み合ってしまった…といったところでしょうか。


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