本日4月1日の日経新聞朝刊「経済教室」は浜田宏一・エール大学名誉教授。
アベノミクスの経済理論ブレーンだけに、「異次元緩和」によるリフレ政策を評価するスタンスなんだけど、一般的なリフレ擁護論ではあまり語られないトーンのところが2箇所ほど見受けられたので以下メモ。
…株価上昇は借り入れ時の担保価値を上昇させる。金利がゼロでもなぜ貸し出しが増えないかというと、資金に対する需要がないからではなく、貸し手を満足させるような担保を提出できないからである。株価上昇が銀行の信用供与を容易にするのである。この信用加速の効果は銀行が現金準備にしがみつくのを防ぎ、銀行貸し出しが隅々に行き渡るのを助ける。
資金に対する実需は存在する、という立場ですね。
この辺は反リフレな人たちと真っ向ぶつかるところ。
金融実務の現場ではどうなんだろうな。
担保ありきの貸し出しって、結局バブル肯定論につながるような気もする。
もう一箇所(ちょっと長いけど)。
日本は市場経済の国である。首相や経済産業担当相が産業界に懇請したからといって、合理的な収益の基盤がなければ企業は賃上げやベースアップ(ベア)を政府の希望通りにできるわけではない。
確かに需要面では、アベノミクスの余得を経営者や株主から労働者に配ることは総需要を高める効果がある。しかし供給面を考えると、賃金が物価と生産性の上昇率よりも高まるような状況は、デフレギャップの解消や労働市場に望ましくない影響を与える。すなわちケインズもすでに明らかにしているように、賃金上昇率が、物価上昇率と生産性上昇率の和よりわずかに少ないような状態が望ましいインフレなのである。
賃上げがそれ以上になると、需要の面からは良いが供給側の企業が困って雇用の創出につながらない。今年の春闘の結果はその意味で、ほどほどに良い結果であると思ってよい。
ただし賃上げ、しかもベアまで広がったというのは、経済原理からというより、市場心理のうえで良い結果であった。日本の大衆には今でもアベノミクスに対する一種の不信感があるように思える。アベノミクスは株式市場や輸出業界の大企業のもので、労働者や庶民のものではないという実感である。
以上のような日本の投資家の心理が、株価が下がった時に日本人が買いに出ず、みすみす利潤機会を無にしている恐れがある。トリクルダウンが賃金交渉にまで下りてきて、そこで労働者にも利益が分配されるのが実感となったのは、政府の賃上げキャンペーンの成果であろう。
政府の賃上げキャンペーンは基本的にはナンセンスだけど、今回は結果オーライだった、としているのが面白いところ。
それにしても、そんな「望ましいインフレ」なんてうまく調節できるもんなのかね?