そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

逆オークションで調達価格は下がるか

2010-07-22 23:47:32 | Economics

本日付け日経新聞朝刊「経済教室」神取道宏・東京大学教授の稿より以下メモ。

政府調達に「競り下げ(逆オークション)」を導入して、効率化しようとの方針が閣議決定されたことに関して、その効果が期待できるのかどうか、理論と実験から研究・考察したもの。

 まず、競り下げで何が起こるかを考えてみよう。業者の利益は価格から納入コストを引いたものなので、入札価格が自分の納入コストよりも高いかぎり業者は利益を求めて競りに参加し、相手の出方をうかがいながら入札価格を徐々に下げてゆく。そして、価格が納入コストに等しくなると、もはや利益が出ないため、業者が入札から降りる。
 こうして、納入コストの高い業者が順に入札から降りてゆき、最後はコストが最も低い2社の戦いとなる。この2社のコストが20と15であったとすると、最終的にはコスト15の業者が相手のコストと同額の20を入札した時点で相手が降り、競りは終了するだろう。つまり、競り下げでは「最もコストの低い業者が勝ち、落札価格は2番目に低いコストになる」というのが、理論的な予測である


一方で、現在の政府調達方式で使われている「封印入札」の場合はどうか。
ゲーム理論によれば、業者が「自分のコストが一番低いときに、2番目に低いコストはいくらになりそうか」を予想した額を入札するのが最適になり、これは競り下げ方式の場合の落札価格の理論的予測値と等しい。
つまり、「競り下げでも封印入札でも、調達コストは平均するとまったく同じ」になる(ノーベル経済学賞受賞者W・ヴィックリーの「収入同値定理」)。

実際、神取教授が、学生に様々なパターンのコスト条件を割り当てて、競り下げ/封印入札を繰り返す実験を行ったところ、競り下げの場合に落札価格が下がるという結果は得られず、むしろ平均すると封印入札のほうが落札額が低かった。

政府の期待では「競り下げをすると調達コストが約2割下がる」とされているが、これは、現行の封印入札に比べて2割下がる、のではなく、競りの開始価格から2割下がるという実例を基にしたもので、ミスリードがある。

ただし、競り下げにも優れた点があり、それは1回限りの封印入札の場合業者の思惑に結果が左右されることがあるのに対して、新方式をインターネットを利用して広く参加者を募ることができれば、競争促進を通じた費用削減を期待できるということである。

即ち、競り下げ/封印入札といった方式の選択に本質があるのではなく、業者の自由な参入を確保し、談合を排除することが何よりも改革成功の鍵となる、とのこと。


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