そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

龍の魂

2010-11-28 22:29:28 | Entertainment
「龍馬伝」が完結しました。

最終回は地上波の放映で観ましたが、一年納めのクライマックス、近江屋での暗殺場面のまさにその時に、愛媛県知事選の選挙速報字幕が表示されるいという興醒めの極致。
NHKも無粋なことしてくれるもんです。
まあでも、龍馬が夢描いた「上も下も無い」自由な民主社会の象徴である公職選挙の速報ですから、仕方ないとしましょうか。
幸い夕方のBSハイビジョン放映のほうも録画してあるので、あとでもう一回観直してみようと思います。

個人的に、大河ドラマをちゃんと観たのは20年以上前の「独眼竜政宗」や「武田信玄」以来。
しかもそのときも最後までは観なかった憶えがあるので、一年通してとなると小学生の頃の「峠の群像」以来かもしれません。
といいつつ、「龍馬伝」も初回から観ていたわけではないんですが。
2月くらいからかな?

最初は、その映像作品としてのクオリティの高さに惹かれて観始めました。
撮影、照明、美術などの質の高さが、従来のテレビドラマのレベルを遥かに越えていましたね。
それから段々と内容面にも惹かれるようになり。

社会が成熟し、旧来型の政治経済が行き詰まる中、グローバル化という新たな開国を迫られている今次のご時世において、この「龍馬伝」が描いたものは現代的意義を持っていたように思います。

ドラマの前半部、開明的な思想に傾倒していく龍馬が、攘夷という形で武士社会の真髄を守ろうとした武市半平太と袂を分かっていきますが、その二人が京の土佐藩邸(だったかな?)で最後の別れになる腹を割った語り合いをした場面がもっとも印象に残っています。
大きな目的は共有しながらも、守るべきものを捨てられない武市と簡単に捨ててしまうことができる龍馬。
何かを変えることは、何かを捨てることであり、時に苦しさを伴う。
そのことを誤魔化さずに描くことがこのドラマには通底していました。
そして龍馬も、結局は急激に「変える」「変わる」ことへの反発から生命を奪われてしまいます。

他に特に印象に残っているシーンを挙げると、
・薩長同盟のための西郷・木戸会談実現についに辿り着いた龍馬が、会談に向かう直前寺田屋でみせた得も云えぬ高揚感
・後藤象二郎と対決した清風亭会談の緊張感
の演出あたり。
特に後藤役の青木崇高の怪演は、個人的にこのドラマのベストアクトだったと思います。

それにしても、ドラマとはいいながらも、龍馬という人間の人生を目の当たりにすると、生きる活力が湧いてくる感じがします。
ビジョンをストーリーとして語り、地位の上下を問わず周囲を巻き込むことによって、考えを実現していく。
日常のビジネスでも必要なことですね。
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「写楽 閉じた国の幻」 島田荘司

2010-11-28 00:37:30 | Books
写楽を巡るミステリーについては恥ずかしながらほとんど何も知らなかったんですが、知れば知るほど挑み甲斐のある謎であることを深く思い知らされます。
著者によれば構想20年ということですが、このように小説の登場人物を通じて結論に到達する過程を展開させられると、何だかこれ以外に真相はありえないんじゃないかと思わされてしまう。
それくらい、結論に到達していく終盤は高揚感があります。
さらに、間に挟まれる江戸時代パートが佳い。
蔦屋重三郎とか喜多川歌麿とか山東京伝とか、日本史の教科書で名前をみたような人物が生命を吹き込まれて甦ります。
浮世絵が書かれた当時、18世紀の終わり寛政年間頃の江戸の世相についても生き生きとイメージが湧く。

しかし一方で、小説としては不格好な点も多々あります。
まず680ページにも及ぶ大著でありながら、同じことを何度も繰り返して説明している部分が多く冗長。
しかも現代パートでの登場人物の間の会話が如何にも説明的。
主人公の子供が犠牲になる回転扉事故や、主人公が写楽にのめり込むきっかけとなった肉筆画や、謎めいた美人東大教授の素生など、冒頭のほうで投げかけられた要素が、伏線なのかなと思っていると最後まで全く回収されることなく放ったらかしのまま、中盤以降写楽の謎解きに終始してしまいます。
このへんの事情は著者自身によるあとがきにも心残りとして触れられていますが、もともと週刊新潮で連載されていたものなので、連載を進める中で収拾つかなくなっちゃったというのが本当のところのようです。
せっかく単行本化するなら、その際に整理してすっきりさせればよいのに、と思うのですが。

写楽 閉じた国の幻
島田 荘司
新潮社
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