クーシューとハイカイ


このエントリーから続きます)

 わたくしの自作の「HAIKU-HAIKAI」のファイルが一時的に行方不明になっていましたが、ありました。これを見て書きます。

 俳諧Haikaiをフランスに伝えたのは、そのカーンの世界周遊給費で1903年から1904年に日本に滞在したクーシューPaul-Louis Couchoud (1879-1959)です。この人は哲学、精神医学が専門の人ですが、この世界周遊給費生に選ばれて地中海諸国からアメリカ、カナダを通って日本に来たのですが、日本で周遊をストップして、とどまったというんですね。

 この国に特別な何かを見つけたのでしょう。

 俳句の価値を最初に認めた西洋人はいわずとしれたハーンですが、普通のイギリス人があまり興味をもたなかったのに、フランス人はぱっとこのジャンルの真価に気づいたようです。

 19世紀後半に日本の美術・工芸品がフランスにもたらされてヨーロッパに「ジャポニスム」ブームを起こしたのは周知の通りですが、文学の分野での日本文化の紹介はこれより遅れるものの、これまたフランス人たちによって紹介され始め、とくにこのハイカイというジャンルはかなり注目を集めました。ヨーロッパ人たちは最初「これは何か」「これで何を目指しているのか」がよくわからなかったみたいです。

 Haikaiはクーシューからジャン・ポーラン、ポール・エリュアールといった錚々たる文学者に伝わっていきます・・・  Nouvelle Revue Francaise no.84, 1920年9月1日号はHAI-KAIS アンソロジーになっています。

 平川祐弘など「(エリュアールの)新しい詩的世界の現出には間接的に日本の俳諧が関係していたのではないか」と考える論者もいます。シュルレアリスムというものの本質を考えたら、全然おかしくない。

(以上、柴田依子「詩歌のジャポニスムの開花―クーシューと『N.R.F』誌(1920)「ハイカイ」アンソロジー掲載の経緯」(『日本研究』第29集(2004年12月)初収)によっています)

 クーシューがフランスで最初のハイカイ紹介を行った1906年、早くもカタルーニャの評論家Eugeni d'Orsがこれをキャッチ、スペイン語圏へのハイカイ紹介を行ったようです(スペイン語圏への俳句の導入は一般にはメキシコのタブラーダの功績と考えられていますが)。そこからマドリッドのあの伝説的な「学生寮」la Residencia de Estudiantesでマチャード、ヒメネスそしてガルシア=ロルカといった錚々たる文学者にこの日本の詩ジャンルのことが伝わり、影響を受けた可能性があります。

(以上、田澤佳子「スペイン語俳句とマドリードの『学生寮』―ロルカ・マチャード・ヒメネスらを中心に―」(『大手前比較文化学会報』、2004年3月)によっています)

 ヴェトナムの詩人、小説家 Pham Van Ky(最初のaの下に点が、次のaの上に中国語の三声の印が、最後のyの字に鋭アクセントがついてます)は1945年パリ刊行の雑誌Existencesのなかで数篇のHaikaisを発表しています(もっともこれは四行詩をいくつも並べたような形で、575の俳諧という感じではないのですが)。この人は東洋の隣の国の詩の伝統を自らの文学表現のために用いたのですね。

 こういうの眺めていると、ほんとうに楽しくなってきますね。心のたいまつが次々と受け継がれている様子が目に見えるようで。

 第二次大戦後、占領者として日本にやってきたアメリカ人に俳句が伝わり、それが「禅」と結び付けられてビート詩人などに影響をあたえていくにつれて、世界における俳句というとアメリカ系統のことしか知らない人が多くなってしまったのですが、やっぱり昔からフランスに伝わったハイカイのことも知っておきたいではないですか。

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芭蕉に大拙 (オアフのエクレア)
2013-02-24 22:18:56
そういえば、前にスペインのCNTで活動をしているアナキスト(本業はスペイン地元での国語教師)に、松尾芭蕉についてたずねられたことがありましたよ。奥野かるた店発行の、芭蕉かるたまで持っている私は一生懸命答えようとしましたけれども、英文対訳の芭蕉本はあってもほかの言語ではどうだったかな。
禅の話題とむすびつけてよいかわからないけれども、7年くらい前にベオグラードに行ったとき、古本屋で鈴木大拙の本があって、おお!とおもいました。ペーパーバックでセルボクロアチア語。でもキリル文字ではないからクロアチア語というべき?ただ、訳は英語からの訳でした。ついでの話です。
 
 
 
俳句の世界化は (raidaisuki)
2013-03-09 18:28:37
村上春樹とともに、世界文学のポイントかなと思います。
あと『源氏物語』というのもありますが、あれはなんだかよくわからないです。
 
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