カンボジアとフランス語 2


(前のエントリーから続きます)

 不幸なことですが、カンボジアというとこの虐殺というのがイメージとして大きく、なぜこんなことが起こってしまったのか知りたい、という動機でカンボジアに興味を持つ人が大変に多いです。

 わたしがフランス語系人としていちばんはっきりさせておきたいのは、このポルポト派の悪というのが、フランス中心のヨーロッパ大陸合理論が生み出す巨悪の系譜に連なるもので、それはフランスを中心とする合理主義思想の「本質的」欠陥を示すものではないか、ということです。

 ポルポトがフランスに留学したとき、フランスで同国人学生たちによるマルクス主義研究グループに入って筋金入りの共産主義者になったのは周知の通りです。

 彼とその一派がおこなった虐殺があんなに大規模になってしまったのは、不幸にもカンボジアが周囲の大国の利害関係のはざまに落ち込んでしまったからでもあるのですが、たしかにポルポトは、恐怖政治を生んだフランス革命時の山岳党、大粛清と強制収容所を生んだソビエト政権と比べて考える必要のあるもののはずなのです。

 ところで写真は、捕えられた人々が閉じ込められていた狭い独房がひしめくたてものです。
 ご覧のとおりこの博物館の表示はクメール語と英語だけで、フランス語はありません。国立博物館などはクメール=仏=英語表記なのですが。

 この博物館の設立にどういう国やどういう勢力が関わったのか、実はあんまりはっきり分かりませんでした。中に展示してある写真には「UN」ではなく「US」なんとかという機関の名前が書いてありましたが・・・(しっかり控えておけばよかったです)。

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
« トゥールスレン 国立博物館 »
 
コメント
 
 
 
またしても桜の季節が終わった (アキレス)
2010-04-24 08:13:37
おひさしぶりです、先生。桜も散ってしまいましたが、お元気でしょうか。「のだめ」の話題を以前わたしが持ち出したとき、先生はあまり評価していらっしゃいませんでしたね。でもあれだけパリを舞台にした映画が大ヒットしているのは、近年では珍しい。フランス語を履修する学生が増えるきっかけになればいいですね。「第二外語なんてなんでもいいから、そうだな、とりあえず無難なところでドイツ語にするか」という学生がひとりでも減れば充分ではありませんか。

わたしが今選択するとすれば、ペルー、コスタリカ、ベネズエラ(ギアナ高地)に行ってみたいので、スペイン語ですね。でももう若くはないので、村上春樹が「やがて哀しき外国語」で描写している心情に共感してしまいます。人生の有効な残り時間を考えると、「不規則動詞の変化を暗記している場合じゃないだろう」という気持ちになってしまいます。

>わたしがフランス語系人としていちばんはっきりさせておきたいのは、このポルポト派の悪というのが、フランス中心のヨーロッパ大陸合理論が生み出す巨悪の系譜に連なるもので、それはフランスを中心とする合理主義思想の「本質的」欠陥を示すものではないか、ということです。

これには驚きました。フランス語の先生がこんなことをおっしゃるとは思わなかった。いったいどこからこんな考えをお知りになったのでしょうか。わたしはイギリス保守思想家バークの「フランス革命に関する省察」を支持しているので、そのお考えに全く賛成なのです。
 
 
 
お返事遅くなりました (raidaisuki)
2010-05-04 09:35:27
 アキレスさま
 お返事遅くなりまして申し訳ありません。

 かなりたくさん書いたお返事コメントがキーボードのミスタッチで一瞬にして消えてしまい、少しがっくり来ていました。

 消えても惜しくないように簡単に書きます。

 今期の金沢大学はドイツ語が大増加、フランス語は減少です。原因・理由はここでは書かないことにいたします。

 わたしが『のだめ』を評価しないのは、舞台に華やかなパリを用いながら、内在している音楽的価値観が実に古くさくて、このマンガでその気になる子が増えたら、日本は(音楽の領域に限らず)非常に困ったことになるだろう、と思うからです。

 大陸合理論の内在的危険というのは、少し考えてみればバークを引き合いに出さずとも明白なことのように思います。純粋論理は切れば赤い血の出る生身の人間のことなど顧慮しませんから。
 ハイデガーに抗してレヴィナスのような人が「顔」の存在論などということを言いだすのもこの危険をなんとか克服したいからにちがいありませんが、「論理」の中に「人間」を入れようとすると話が極端に難解になってしまい、そんなに世界の人全体に効力を持たないように思います。

 この袋小路でわたしが注目しているのはむしろ、欧州評議会の言語政策みたいなものです。これについてはいつかゆっくり考えを展開したく思います。
 
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。