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預言者伝40

2013年01月24日 | 預言者伝関連

128.アル=ムスタラク家の戦いと中傷の噂:
  ヒジュラ暦6年、アッラーの使徒(祝福と平安あれ)のもとに、フザーア族の支族であるアル=ムスタラク家が、彼(祝福と平安あれ)と戦うために集まっているとの情報が届きました。それを耳にしたアッラーの使徒(祝福と平安あれ)は、彼らのもとに、多くの偽信者と共に出陣しました。その頭はアブドゥッラー・イブン・ウバイ・イブン・サルールでした。部族連合軍に勝利した戦いの後、すでに信徒らの影響力は、様々な地に広がっていました。クライシュは、かの戦いにおいて、他の部族とこれまでにない規模の連合軍となり、イスラームを一掃しようと試みたにもかかわらず負けてしまったため、マッカの不信仰者らや、マディーナとその周辺に住むユダヤ人たちや偽信者たちは、まるで喉元に棘が刺さったかのような気分を味わっていました。彼らは、戦いのために準備する兵士や軍装の数で、ムスリム達が負けることはもうないと思い知りました。

  そんなムスリムたちを弱化させるために、彼らは様々な策謀を仕掛けて来ます。内部に騒乱を引き起こし、ムスリム同士の中に部族主義が復活するよう扇動したり、使徒(祝福と平安あれ)の社会的地位を傷つけることで信徒らが彼に疑念を抱くよう仕向け、使徒(祝福と平安あれ)の名誉、彼が最も愛する妻に関する噂を広めるという陰謀を巡らしました。それにより、生まれたての理想的な社会の存続を危うくしようと企んだのです。イスラーム社会の構成員はそれぞれがお互いを映す鏡です。ムスリム兄弟について何か疑わしいことを耳にした時は、自らを見つめ直し、自身が潔白である場合は、疑わしいことを言われた兄弟も潔白であると判断します。このように信徒らはお互いに対する信頼を確認し合っていました。しかし、もし預言者の家族に対する信頼が消えてしまったら、イスラーム社会の全員に対する信頼は完全に無くなってしまいます。偽信者たちが実行したこの狡猾(こうかつ)な陰謀は、アル=ムスタラク家の戦いではっきりと現れ、今までになかった程に凶悪なものでした。

  アッラーの使徒(祝福と平安あれ)はアル=ムスタラク家のもとに赴き、『ウアル=ムライスィーウ』と呼ばれる彼らの水場で彼らに遭遇し、人々は交戦し合い、最終的にアル=ムスタラク家は敗北しました。
  戦いが終わると、信徒たちが帰途に着く前に、ウマル・イブン・アル=ハッターブの召使いと、アル=ハズラジュ族と同盟関係にあるジュハイナ族の男が喧嘩をし、後者が叫びました。:「アンサール達よ!」召使いも叫びました。:「ムハージルーン達よ!」これを聞いてアブドゥッラー・イブン・ウバイ・イブン・サルールは怒り出しました。その時、彼は自分の民(アンサール)と共におり、こう言いました:「ついにやったか。奴らはわしらをバラバラにし、わしらの土地で増えやがった。『犬を肥やせば噛まれる』の通りじゃないか。マディーナに戻った暁には必ず高貴な人間が卑しい奴らを追い出す。」そして自分の民がやって来ると言いました:「君たちは自分らの土地を奴らに譲り、資産も分け合った。これが自分らの成した結末だ。奴らに何も与えなどしなければ、奴らは違う土地に行っただろうに。」

  このやりとりを耳にしたアッラーの使徒(祝福と平安あれ)は、人々に帰る準備をするよう命じました。皆に不安が広まるのを防ぐためでした。何もなければ帰ることをアッラーの使徒が考えることもなかったのですが、人々は帰路につくことになりました。
  アッラーの使徒(祝福と平安あれ)は人々を連れ立つと、夜になっても歩き続け、朝になっても歩き続け、陽が昇って暑さが厳しくなった時、やっと人々を停止させました。すると皆、疲れのあまりに倒れ込んで眠ってしまいました。
  マディーナの手前で、偽信者アブドゥッラー・イブン・ウバイの息子であるアブドゥッラーが、その父を呼び留めると、こう言いました。「お父さん、自分は卑しく、ムハンマドは尊いと宣言してくれるまで、僕はあなたから離れません。」二人の傍を通りかかったアッラーの使徒は言われました。「アブドゥッラー、お父さんをそのままにしておきなさい。私の人生にかけて、彼が我々と共にいる限り、我々は彼と良く付き合おう。」


  普段からアッラーの使徒(祝福と平安あれ)は旅行をする際、一緒に旅する妻一人を、くじを引き選んでいました。アル=ムスタラク家との戦いの旅には、アブー・バクルの娘、アーイシャにくじが当りました。アッラーの使徒(祝福と平安あれ)は旅に彼女を伴い、用事が済んで帰る道すがら、マディーナに近いところで停泊した後、出発しました。首飾りをしたアーイシャが、所用のために出かけた際、気付かぬうちにその首飾りが首から落ちてしまいました。テントに戻った彼女は、それがないのに気付くと探しに出かけました。その間に人々は出発してしまったのです。アーイシャが首飾りを探しに出かけている間に、人々はアーイシャを乗せる輿(こし)に彼女が乗っているものと思い込んで運んで行ってしまいました。当時、アーイシャは若くて痩せていたため、誰も彼女が輿の中にいないことに気付きませんでした。誰もいなくなった野営地に戻ったアーイシャは途方に暮れ、着ていた上着を被って、そのまま座り込んでしまいました。
  そんな状態でいたアーイシャの近くを、サフワーン・イブン・アル=ムアッタル・アッ=スラミーが通り掛かりました。用あって、人々より遅れて来たところでした。彼女を見つけると、「インナー・リッラーヒ・ワ・インナー・イライヒ・ラージウーン(本当に私たちはアッラーのもの。そして彼の許に私たちは帰っていく)」と唱えて言いました:「アッラーの使徒様(祝福と平安あれ)の奥方だ。」彼はラクダを彼女に近付けると、自分はそこから後方に下がりました。アーイシャがラクダに乗ると、サフワーンはそのラクダをひいて、人々が歩いた跡を追って、やっとのことで追い付くことが出来ました。その様子を人々が不思議がることはありませんでした。このようなことは荒野やキャラバンの生活にはありふれたことで、またお互いの尊厳や名声を守ることは、無名時代にもイスラームの時代にも、アラブの人々が習慣として守って来たことでした。

  また、教友たちとアッラーの使徒(祝福と平安あれ)は子と父のようで、彼の妻たちは彼らの母親のようでした。教友たちにとってアッラーの使徒(祝福と平安あれ)は、自らの父や子よりも、誰にも増して愛おしい存在でした。そしてサフワーンはその篤信と貞操と恥じらいで知られる人物で、女性からは遠い存在であったと言われていました。
  かの出来事は何の関心も引くことではありませんでしたが、アブドゥッラー・イブン・ウバイ・イブン・サルールはこれをネタにして、マディーナに帰った後に人々に触れ回りました。同じく偽信者の彼の仲間も噂を広め、この出来事を、信徒の間に危機をもたらし、使徒(祝福と平安あれ)と彼らの関係を揺るがす絶好のチャンスとして捉えました。実際に、幾人かの信徒らはこの落とし穴に落ち、根拠のない噂話の餌食(えじき)となってしまいました。

  アーイシャは、自分についての噂話が広がっているのを知ると、ショックを受け、とても悲しみました。涙は止まらず、夜は眠れないほどでした。その状況はアッラーの使徒(祝福と平安あれ)を危惧させました。事件の発端を知ったアッラーの使徒(祝福と平安あれ)はすぐに立ち上がると、アブドゥッラー・イブン・ウバイ・イブン・サルールに、彼の成した行為への残念な気持ちを説教台の上から表しました。続けて:「ムスリムの皆さん!私の家族を中傷した男について弁解できる者はいますか?アッラーにかけて、私は家族について良いことしか知りませんし、かの男性についても良いことしか知りません。また彼は私と同伴でしか私の家族を訪れることもありません。」

  アル=アウス族の男たちはこのことに怒り、アル=アウスの人間であっても、アル=ハズラジュの人間であっても、中傷を仕掛けた人間を殺す準備があることを、アッラーの使徒(祝福と平安あれ)に訴えました。噂を広めたアブドゥッラーはアル=ハズラジュの人間だったため、アル=アウスとアル=ハズラジュの間の怒りの炎に火がつきました。アッラーの使徒の英知と忍耐力がなければ、彼らは悪魔の思う壺となってしまったことでしょう。

  アーイシャは自らの身の潔白の確信により、気高く、その心は、誇りとプライドに満ちていました。無罪の人たちにどんな疑いも汚点もつくことがないように。アーイシャはアッラーが彼女の無罪を証明し給い、アッラーの使徒(祝福と平安あれ)の周りからあらゆる疑惑、非難を遠ざけ給うことを信じていました。しかし、まさかアッラーが彼女自身について啓示し給うとは考えていませんでした。啓示はウンマに残り続けるものです。時を移さずアッラーはアーイシャについての啓示をアッラーの使徒(祝福と平安あれ)に下し給いました。:「まことに虚言をもたらした者たちは、おまえたちの一団である。おまえたちはこれがおまえたちへの災いだと考えてはならない。いや、それはおまえたちにとって良いことである。彼らのうち、いずれの者にも罪のうち稼いだものがある。そして彼らのうち、その大罪(大半)に責任のある者、彼には大いなる懲罰がある。おまえたちがそれを聞いた時、男の信仰者も女の信仰者も自分たちについて良いことを(善意に)考え、「これは明白な虚言である」となぜ言わなかったのか。」(クルアーン 御光章11~12節)
  
  この啓示により災難の火は消え去り、何事もなかったかのように日常の生活が戻りました。信徒たちは、アッラーとアッラーの使徒(祝福と平安あれ)が彼らに命じた諸事と、人類に善と幸福をもたらす行いに、また没頭することとなりました。

(参考文献:「預言者伝」、アブー・アルハサン・アリー・アルハサニー・アンナダウィー著、ダール・イブン・カスィール出版、P267~272など)

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