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預言者伝14

2010年12月21日 | 預言者伝関連

بسم الله الرحمن الرحيم
41.夜の旅と昇天:
  そして預言者ムハンマド(平安と祝福あれ)は、マッカにある聖なるマスジドから現在のエルサレムにあるマスジド・アクサーへの夜の旅を経験します。マスジド・アクサーからは、さらにアッラーが望み給うままに諸天を移動し、数々の主のしるしを目撃し、先輩の預言者たちに出会いました。以下のクルアーンの言葉がこの様子を表しています:
  「(ムハンマドの)視線は吸い寄せられ、また(不躾に)度を過ごすこともない。彼は確かに、主の最大の印を見たのである。」(星章17~18節)
  この旅がいつ起こったかにはついては諸説がありますが、ヒジュラ暦に入る一年前のラジャブ月16日であっただろうという説が有名です。
  この夜の旅と天への訪問は、アッラーから預言者ムハンマド(平安と祝福あれ)に与えられた大きな贈り物だったといえるでしょう。この経験は、力になってくれていた親族の喪失、ターイフでの屈辱に満ちた民の振る舞いといった預言者ムハンマド(平安と祝福あれ)が受けた心身の傷を癒したのでした。
  しかし預言者ムハンマド(平安と祝福あれ)の民であるクライシュは、預言者ムハンマド(平安と祝福あれ)が一晩の内にマスジド・アクサーに旅し、そこから天に昇った話を耳にすると、それは事実ではない、と完全に否定しました。それだけでなく、預言者ムハンマド(平安と祝福あれ)を嘘つき呼ばわりし、嘲笑しました。一方、アブー・バクルはというと:アッラーに誓って、あのお方がそのように申すのなら、旅の話は真実です。あなた方は何を驚いているのですか?あのお方は、天から地に夜も昼も彼の許へ(アッラーからの)知らせが届くと教えてくださったのですから、私は完全に信じます、と言うのでした。これを機に彼にアッ=スィッディーク(信じて疑わない人)というニックネームが付いたと言われています。

42.夜の旅と昇天の詳細:
  預言者ムハンマド(平安と祝福あれ)だけが特別に経験した夜の旅と昇天が具体的にどのような出来事だったかは、ムスリムやアル=ブハーリーがハディースとしてそれぞれの著作内に収録しています。以下はサヒーフ・ムスリム内に見られる伝承です:
  アナス・ビン・マーリクによると、アッラーのみ使いはこう言われた。
「私のブラーク(注1)が連れて来られた。
それは白色で胴体が長く、ロバよりは大きいがラバよりは小さく、それでいてそのひづめを視界の広さまで伸ばすことのできる動物であった。
私はそれに跨がり、エルサレムの聖寺院(バイトル・マクデス)まで来た。
そして私は、預言者らが使う輪にブラークをつないでから、モスクに入り二ラカートの礼拝を行った。
そのあと、外に出たところ、天使ジブリールがぶどう酒入りの容器とミルク入りの容器を持って来たので、私はミルクを選んだ。
ジブリールはこれに関し『あなたは良いもの(注2)を選んだ』と言った。
その後、彼は私を連れて天に昇り、天の門を開けるよう頼んだが、その折、『誰か』と尋ねられると『ジブリールです』と答え、更に、『誰があなたと一緒ですか』と問われると、『ムハンマドです』と答えた。
更にまた『彼はアッラーの使徒であるか』と問われた時ジブリールは『その通りです』と答えた。
その後、天の門は私たちのため開かれたが、なんとそこには預言者アーダムがおり、私を歓迎し私のため善かれと祈ってくれた。
その後、私たちは、第二層の天界に昇った。
ジブリールはその門を開けるよう頼んだが、その折、『誰か』と尋ねられると『ジブリールです』と答えた。
彼はまた『誰と一緒か』と問われると、『ムハンマドと一緒です』と答えた。
それに対し更に『彼は使徒の一人か』とも問われたが、『まことにその通りです』と答えた。
その後、天の門は私たちのために開かれた。
そこには、母方の従兄弟に当るイーサー・ブン・マリヤム(マリヤの子イエス)とヤヒヤー・ブン・ザカリーヤがおり、私を歓迎し私のため善かれと祈ってくれた。
それからジブリールは、私を第三の天界に連れて昇った。
彼は、そこで門を開くよう頼んだ。そして『誰か』と言われた時、『ジブリールです』と答え、『誰と一緒か』と問われた時、『ムハンマドです』と述べた。
更に『彼は使徒の一人か』とたずねられ、『その通りです』と答えた。
すると門は私たちのために開かれ、なんとそこには、世界の美の半分を与えられたといわれる美しい顔立ちの預言者ユースフがおり、私を歓迎し、私の幸福のため祈ってくれた。
その後、私たちは第四の天界に昇った。
そこでジブリールは門を開けるように頼んだ。その折『誰か』と問われて『ジブリールです』と答え、また『誰と一緒か』と尋ねられ、『ムハンマドと一緒です』と答えた。
更に『使徒の一人か』と問われた時には、『その通りです』と述べた。
私たちのため門が開かれたが、そこにはなんと預言者イドリースがおり、私を歓迎し、私の幸いを祈ってくれた。至高にして尊貴なるアッラーは、このイドリースについて「われは、イドリースを高い地位に挙げた」(クルアーン第19章57節)と啓示しておられる。
そのあと私たちは、第五の天界に昇った。
ジブリールは、ここでも門を開けるよう頼み、『誰か』と問われた時『ジブリールです』と答え、更に『誰と一緒か』との問いには『ムハンマドです』と述べ、また『ムハンマドは使徒の一人か』との質問には『使徒の一人です』と答えた。
門が私たちのために開かれた時、そこには預言者ハールーン(アーロン)がおり、私を歓迎し、私の幸いを祈ってくれた。
その後、私たちは、第六の天界に昇った。
ジブリールが門を開けるよう頼むと『誰か』と問われたが、それには『ジブリールです』と答えた。更に『誰と一緒か』といわれた時、『ムハンマドです』と述べ、『使徒の一人か』とたずねられると『その通りです』と答えた。
すると門は私たちのために開かれ、そこには預言者ムーサー(モーゼ)がおり、私を歓迎し、私の幸いを祈ってくれた。
その後、ジブリールは私を連れて第七の天界に昇った。
ジブリールは門を開けるよう頼んだが、その折『誰か』といわれ『ジブリールです』と答えた。『誰と一緒か』と聞かれた時、彼は『ムハンマドと一緒です』と答え、また『ムハンマドは使徒の一人か』と尋ねられた時『その通りです』と言った。
すると門が私たちのため開かれ、なんとそこには預言者イブラーヒーム(アブラハム)がバイト・ルマアムール(不断に詣でられる聖殿(注3))に背を寄りかからせながら座っていた。
そしてここではまた、毎日七万人の天使が、それぞれただ一度ずつの機会を与えられた巡拝のため門内に入ってゆく姿も見られた。
その後、私は『速く涯にあるシドラ木(シドラト・ルムンタハー(注4))』の処に案内されたが、その葉は象の耳に類似し、その実は土つぼのように大きかった。この木がアッラーの命令によって花で覆われた時の美しさはアッラーの創造物の誰一人として讃え尽すことができないほど素晴らしいものである。
アッラーはこの折啓示を給わり、毎昼夜、50回の礼拝を義務とするよう私に命じられた。
その後、私がムーサー(モーゼ)の処に下りて行った時、彼はこう尋ねた。
『主はあなたのウンマ(信仰共同体)に何を命ぜられたのですか』
私が『50回の礼拝です』と答えると、
彼は『主の処に戻って、礼拝の回数を減らして下さるようお願いしなさい。
なぜならあなたのウンマの者は、その負担に耐えられないからです。
私自身イスラエルの民に試み、彼らにそれを課したのですが、彼らはそのような重い負担に耐えきれなかったのです』
(アッラーのみ使いは言われた)
それで私は主の許に戻り『我が主よ、私のウンマのため、負担をもっと軽くして下さい』と頼んだ。
その結果、主は私のため五回分だけ礼拝を減らして下さった。
私がムーサーの処に下りて『主は私のため礼拝を五回分だけ減らして下さった』と話したところ、ムーサーはこう言った。
『あなたのウンマは、その負担に耐えることはできないだろう。
それ故、主の許に戻り、もっと負担を軽くするようお願いしなさい』
それから私は幾度も、恩寵深く至高なる主とムーサーの間を行き戻り続けた。
主は最後に、こう言われた。
『ムハンマドよ、毎日昼夜五回の礼拝が妥当であろう。
その毎回の礼拝を10倍に数えるので、日に50回の礼拝になろう。
一つの善行を志しながらそれを実行しなかった者に対しては、一つの善行印が記録される。
そしてもし彼がそれを実行した場合には彼のため10倍して記録されるのである。
また一方、一つの悪行を企図しながら、それを実行しなかった者に対しては、なにも記録されることはないし、それを実行したとしても、ただ一回の悪行とのみ記録されるだろう』
その後、私は下ってムーサーの処に行き、このことを彼に話した。
するとムーサーはまた『主の許に戻り、負担をもって軽くするようお願いしなさい』と言った。
(これに関し、アッラーのみ使いは次のように言われた)
『私はすでに私自身が主に対し恥ずかしくなるほど、たびたび主の許に戻り負担を軽くするようお願いしたのです』」(1巻 P.122-134)

(注1)ブラーク 天馬の一種。稲妻(バルク)と同類語てある点から動作の迅速なることか想像される
(注2)良いもの(フィトラ)自然性にかなったもの という意味
(注3)バイトル・マアムール(不断に詣でられる聖殿)クルアーン(第52章4節)にも記される。 創造主アッラーを讃えるため天国において無数の巡拝者が詣でる聖堂。 マッカのカーバ神殿の原型ともいわれ、それぞれが天と地にあってアッラーの唯一性のシンボル、巡礼の中心地とされている
(注4)シドラ木(シドラトル・ムンタハー)クルアーン(53章14節、16節。56章28節)にも天国の至福の象徴として記述されている。 原意は“だれも越えることのてきない涯にあるシドラの木”でその濃い緑蔭はしばしばアッラーの加護の深さにたとえられる。 “象の耳の如き葉”や“土つぼの如き実”は、神の知恵の広大無辺さの表象といわれる



43.預言者ムハンマド(平安と祝福あれ)が目にしたアッラーのしるし
  ムスリム伝承のハディースの中ですでに預言者ムハンマド(平安と祝福あれ)が目にしたアッラーのしるしが登場していますが、他の伝承にも言及されたしるしを見てみましょう。なおこれらは私たちが今生きている現世では見られないものです。
  ・天国で4つの河を見た:2つの現われた河と2つの隠れた河。現われているのは、ナイルとユーフラテス。これは預言者ムハンマド(平安と祝福あれ)のメッセージがこの二つの河の肥沃な土地にしっかりと根を張って、その土地の人たちが代を重ねるごとにイスラームを宣揚するようになることを意味しています。この二つの河が天国から湧き出ているということではありません。
  ・地獄の看守(天国)を見た:笑わず、顔に喜びの影はありません。
  ・天国と地獄を見た。
  ・孤児の金を不正に貪る人たちを見た:彼らにはラクダの唇のような分厚い唇があり、その中に石ころのような火が投げ込まれ、それはそのまま排泄されます。
  ・リバーを貪る人たちを見た:腹が大きいために身動きが取れません。そんな彼らの上を業火に晒されるフィルアウンの民が踏んで行きます。
  ・婚外交渉者たちを見た:彼らの手元には美味しそうな丸々とした肉があり、横には腐った肉があるのですが、彼らは腐った肉を選び、善良な丸々した肉を放棄して、腐った肉を食べます。
  ・夫の子ではない子を夫の子と思わせて夫を騙す女たち:彼女らは自分の乳房で引っ掛けられます。


  アッラーが預言者ムハンマド(平安と祝福あれ)にこの旅を経験させた背景とは何でしょうか。それは次のクルアーンの一言に尽きます:「わが種々の印をかれ(ムハンマド)に示すためである。」(夜の旅章1節)しるしを預言者たちに示すという行為はアッラーの慣行であることが、他のクルアーンの諸箇所からわかります。:「われはこのように、天と地の王国をイブラーヒームに示し、彼を全く迷いのない信者にしようとしたのである。」(家畜章75節)、ムーサーに対しては「われが更に大きい印を、あなたに示すためである。 」(ターハー章23節)。この“しるしを預言者に見せる”アッラーの御意志の目的は、「彼を全く迷いのない信者にしようとしたのである」に表れています。預言者たちが“知”を得た状態から“諸しるしの目撃”を経験することで、計り知れない完全なる確信が彼らの中に生まれます。これにより彼ら以外には背負わされていない責任を、アッラーの道において彼らは引き受けるのです。

(参考文献:①「預言者伝」、アブー・アルハサン・アリー・アルハサニー・アンナダウィー著、ダール・イブン・カスィール出版、P148、
②「封印された美酒」サフィーユッラフマーン・アルムバーラクフーリー著、ダール・アルフィクル出版、P92~95)