日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

iPhoneが日本の景気を悪くした?

2013-02-08 | 経営
富士通の赤字、ドコモ再び転出超へ、ソニー黒字確保もエレキは不調…。今日の新聞紙面を飾っている経済ニュースはどうも先行きに不安を募らせるものばかりでした。

アベノミクス期待で為替は円安に転じ株価はリーマン前に回復と好転を続ける市況ではありますが、実態反映は果たして可能なのかと、不安を感じさせるニュース群ではあります。結局、好転ムードが盛り上がろうとも、実態が伴わないならデフレ脱却も景気回復も望み薄で、“アベノバブル”は一瞬で潰えてしまうと思うのです。本当の勝負はこれから。大手企業各社が、円安の恩恵にとどまらない実態回復をどう見せるであると思うのです。

大手家電各社の足を引っ張るテレビ事業は、これまでは公平性を欠くウォン安政策に守られてきた韓国勢にしてやられてきた感が強いのですが、円安傾向に転じることでかなりの恩恵があるものとは思われます。元々テレビに関する技術開発で、日本の各メーカーが韓国はじめアジアメーカーに劣っている部分などほとんどないようですから、為替環境が対等になるなら大きく足を引っ張る存在からは脱却できるのではないのかなと思うのです。

この大きく足を引っ張るものがなくなったとしても、問題は上に引き上げるものが果たしてあるのかです。カギを握るのは、国際競争の中で為替問題とは無関係に日本企業を徹底して「負け組」に陥れたものの存在です。そういうものがあるとすれば、必要なのはそれを知り、それを越える事です。私はiPhoneがそれにあたるのではないのかと思っています。その製品の素晴らしさに隠れてあまり考えさせられる事がなかったのですが、考えてみるとiPhoneの登場が日本経済に及ぼした悪影響はかなりあるのです。

まず直接的には携帯電話。国内の携帯電話メーカー各社はiPhoneに徹底的にやられました。これまでの携帯電話からスマホへの流れは一気に加速し、これに乗り遅れた国内メーカー各社は韓国メーカーの後塵をも拝するような状況に置かれる始末。販売においてはiPhoneを扱う2キャリアは、アップルとの完全隷属関係に甘んじることになり、これをかたくなに拒むドコモは契約転出超の憂き目を見ている訳です。

iPhoneを支える部品メーカーは、大企業の言いなりのままコスト削減を迫られる中小下請企業状態と化し、一層のコストダウンを求めての海外製造へのかじ取りは国内経済の空洞化をもたらました。さらに加えて、大手企業が名を連ねる部品メーカー各社が受注のアップダウンリスクすらアップルの思いのままに押し付けられているという隷属関係は、経済の浮き沈みさえ握られているかの如き状況なのです。

携帯音楽機器に至っては、カセットテープに替わり日本が開発したMDプレーヤーはiPodの登場と共に劣勢を余儀なくされ、iPhoneの登場によって携帯電話に携帯音楽機器機能が標準装備されることで一気にその存在感すら否定されるまでに追いやられたのでした。音楽ソフトも、iPhoneとセットで利用されているiTunesの普及により、安価バラ売りのデータダウンロードの流れがメインストリームを埋め尽くすことで、音楽CDは軒並み売り上げダウン。音楽ソフト制作業界もその販売業界も大打撃を被ったのでした。

iPhoneの延長線上で発売されたiPadの登場は、利用者の嗜好を一気にPCからタブレットへと動かしました。国内PCメーカーの売上を奪い去るだけの勢いで広まり、その流れは他方で安価な類似海外製品の台頭をも生んで、中途半端な日本企業はここでも苦戦を強いられることになっているのです。

こうしてみるとiPhoneが影響を及ぼした国内業界のすそ野はかなり広く、携帯電話の製造・販売業、部品となる電子機器部品製造業、携帯音楽機器業界、音楽ソフト業界、PC業界等々、直接的な関係だけを拾い上げてもこれだけ出てくるのです。

繰り返しますが、円安傾向への移行で輸出型産業に光明が差しているのはまちがいありません。しかし、これが円安の恩恵だけにとどまり本質的な事業における「負け組」状態が続くのなら、この流れがデフレ解消につながることも、景気回復につながることも、決してないのではないかと思うのです。

利用者にとっては便利でなんともありがたいiPhoneですが、誤解を恐れずに言うなら日本経済にとっては結果的にマイナス効果ばかりを与えたトロイの木馬的“悪魔の製品”でもあるのです。もちろん、一連のiPhoneを取り巻く利便性を凌駕するような製品やサービスを日本企業が作れないという情けなさが、こんな状況を招いた一番の原因ではあるのですが…。

iPhoneの次に革命的生活商品として登場するものが4Kテレビなのか、スマートテレビなのか、はたまた未だ影も形もない未知の製品であるのか、それは分かりません。ただ、iPhoneが日本経済に及ぼした悪影響を考えるに、ジョブズ後の次の一手を我が国の企業や企業連携で作り出せるか否かが、景気回復の本当のカギを握っているように思えてなりません。

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4 コメント

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情けない (通行人66)
2013-02-09 00:14:31
『一連のiPhoneを取り巻く利便性を凌駕するような製品やサービスを日本企業が作れないという情けなさが、こんな状況を招いた一番の原因ではあるのですが…。』
 まさにこの一言だとは思います、ここにいたったのは日本に存在する多くの価値感が言わばアルツハイマーのごとく進歩のない状態に陥ったのではないでしょうか、、、iPODの初期の小さなHDは日本製だったのではないかと思いますが。
 人間には寿命がありますが、1980-1990頃の日本にあった価値感もきっと老齢になったのでしょう。
 私には、なんとなく、イラク戦争で1兆円を負担した馬鹿な政治家の行動から日本の落下は始まりセナがクラッシュ死した確か1944年頃からどんどん落下のスピードを早めて、たしか、1ドル120円になった1996-7年からは没落に突入したように見えます。もう一つは株の裁定取引の導入を決めた売国奴ペテン政治家もイラク戦争と共にとどめの一発だったのでは。経済には門外漢ですが絵画取引を通じて感じたこの20数年です。
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著者はアホなのか語弊なのか (通行人)
2013-02-09 18:14:42
こんな記事じゃAppleが日本壊したみたいじゃないか。
そもそも日本企業がダメなのは魅力が無いからであって、Appleのせいにしちゃいかんだろ。
Appleは魅力的な商品を出している、日本企業が悪い。
それに気付かない著者はもっと魅力がない。
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そう言ってると思うけど (aomama)
2013-02-10 09:53:04
どうみても筆者は、アップルのせいにしているんじゃなくて、アップルは仮説的に「悪い?」として結論は日本企業が悪いって言ってますよ。アップルがやめないとではなくて、日本企業ががんばらないと景気は良くならないとも言ってるし。読解力ないなあ。情けない。
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そのとおり (しんじ)
2013-02-11 10:20:13
そのとおり
だからこそ日本企業は
もっと世界に目をむけるべき。
古い体質の日本企業はこれから
ますます 下降するでしょう/
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