日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

「ソニーに春は来ない」を感じさせる平井CEOの“ストリンガー礼賛コメント”

2013-03-19 | 経営
ソニーの前CEOで取締役会議長のハワード・ストリンガー氏が、今年の株主総会で同社の経営から退く意向を表明し、それを受けて現CEOの平井一夫氏が「ソニーにおける多大な貢献に心から感謝する」とのコメントを発表し各方面で波紋を呼んでいます。

そりゃそうでしょう。下降線にあった同社を出井伸之氏から経営のバトンを受けたストリンガー氏は、“ダメソニー”に一直線のかじ取りをした“超A級戦犯”なわけですから。「何をバカなことを言っているのだ」と一般人の冷ややかな目線は当然のこと、特に株主は腸(はらわた)が煮えたぎるような思いで、このコメントを聞いたのではないでしょうか。

古くから近江商人の商売精神をして、売り手、買い手、世間、このすべてが満足のいくような状況を「三方よし」と言って、これができる商売こそが我が国古来のあるべき商売であると言われてきたものです。今の時代の企業経営においてもこの考え方は有効であり、その「活動における直接・間接の利害関係者=ステークホルダー」の中からそれぞれの企業の立場からみて大切な「三方」を選択して、その全てに気を回し満足度を高める経営こそが現代版「三方よし」の精神ではないのかと考えられるところであるでしょう。

では現代における上場企業経営にとっての「三方」とは何か。まずは「外」。「外」とは顧客をはじめとして、協力業者関係、さらにはマスコミ、投資家に対し正しい理解を得ることを通じて醸成される風評などがこれにあたります。次に「内」。「内」とは社内関係、ESをはじめとした社内の満足度を高めることです。そしてもうひとつ、資本主義における企業経営、特に上場企業、株式公開企業において決して外すことのできないものが、「株主」であります。

言わずもがなのお話ですが、株式会社は「株主」の出資があってはじめてその企業活動が成り立つものです。と言うことはすなわち、「株主」を軽視する株式公開企業の経営者は、マネジメントの何たるかを全く理解していないということになるわけです。「外」「内」「株主」の3つにあえて優先順位をつけるなら、そもそもの企業の存在にかかわる「株主」が最上位にきて、その後に企業の存続にかかわる「外」が続き、より円滑な企業活動にかかわる「内」はさらにその下につくことになるかと思います。

いささか回りくどい言い方をしてまいりましたが、要するに平井CEOのストリンガー氏辞意に対する敬意のコメントは、「内」に対する気遣いを優先させることで、より上位にあるはずの「株主」の心象を顧みず、結果として風評を悪化させるという「外」の評価をも下げしめるものであった、と申し上げたいわけです。実はこのトップの「内」に偏る気遣いは、「既得権擁護」→「私物化」の実態を表すものであると、多くの企業マネジメント分析で実証されているところでもあるのです。

思えばストリンガー氏は主力事業であるエレキ部門の立て直し、黒字化を最大のミッションとして経営を引き継いでおきながら、ついぞ黒字化の道筋すら全く示せぬまま7年と言う無駄な時間を過ごし、企業決算としても4年連続の赤字決算、昨年は4500億円を超える巨額の赤字を計上してきました。時価総額で見るなら就任時の約6割減という悲惨な状況です。それでありながら、その間の公表されている限りの情報ではありますが、11年度が約8億円、12年度が約5億円の巨額の報酬を臆面もなく受け取ってきたわけです。

トップの居座りと巨額報酬は出井氏が作り上げた「ソニー私物化路線」の踏襲による「既得権化した経営の悪弊」でありますが、ストリンガー時代の経営実態を世間の誰もが知っている中で、平井氏が「ソニーにおける多大な貢献に心から感謝する」とのコメントを出すことは正気の沙汰ではないという判断すらできなくなっていることに、彼の病の重さを感じずにはいられません。百歩譲って先の「三方」における「内」向け限定でひそかに謝意を囁く程度ならまだしも、企業のトップとしてこのようなナンセンスなコメントを公にするというのは、経営者としての手腕を著しく疑わせる事実以外のなにものでもなくなってしまっているのです。

平井氏の先人崇拝的謝意は、自分をトップに引き上げて私物化の仲間に加えてもらったことへの感謝なのでしょうか。地位と巨額報酬に目がくらんでいるのだとすれば、目を覚まさなくてはいけません。今彼がやるべきは、まず何よりも出井氏が築き上げた、お手盛り役員人事、お手盛り役員報酬し放題の委員会設置会社取締役会の白紙化を手始めにした、「私物化文化」の一掃であるはすです。しかしそのような状況下にありながら、「私も私物化路線をありがたく続けさせてもらいます」と言っているかのようなコメントを聞かされては、桜便りが聞かれるこの季節にありながら、「ソニーに春は来ない」を実感せざるを得ないのです。

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