日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

「70年代洋楽ロードの歩き方17」~グラム・ロック7

2010-07-18 | 洋楽
グラムロックをまとめます。

グラムロックには大きく2つの流れがありました。ひとつは主流の徹頭徹尾ハデハデで音楽的には古典的ポップロック系、一般的にグリッター系という言葉があるので、ここではグリッターグラムとします。代表格はまずマーク・ボラン率いるTレックス。彼らの身上はブギーです。そして、スレイド、スウィート、マッド、スージー・クアトロ、後のACDCのボーカル、ブライアン・ジョンソンが在籍したことで知られるジョーディ、などがその代表格でしょう。モット・ザ・フープルはボウイの後押しでブレイクしたので立ち位置が微妙ですが、個人的にはこちらに入ると思っています。名前がそのものズバリのゲイリー・グリッターもこの系統なのですが、日本ではグラム=アイドル的人気を獲得できそうなものを中心にレコード会社がプッシュしたため、まんまオヤジルックスの彼はほとんど紹介されることなく当時は全く無名でした。

もう一つの流れが、デビッド・ボウイに端を発する派手な衣装の半面どこか物憂さが漂うデカダンス・グラムです。“リメイク・リモデル”というグラム・ロックを体現する概念をつくったロキシー・ミュージック、デカダンスの極みとも言えるコックニー・レベルや彼らとツアーを共にしていたビーバップ・デラックス、中性的魅力の遅れてきたグラム・ヒーローと言われたスパークス、音楽はストーンズ風なれど「時計仕掛けのオレンジ」ともイメージがダブるリーダーのマイケル・デバレスの風貌にどこかデカダンス臭が漂うシルバー・ヘッド等など・・・。元祖デカダンス系のデビッド・ボウイがグラムに分類される所以は、バックにいたミック・ロンソンが正当派グラム・ロッカーであったという点にあると思います。なので個人的見解ですが、デカダンス・グラムはプログレにも通じるコンセプチュアルな一面があり、音楽的には本来のグラムロック(グリッター系)とは正確には別ジャンルとして分類されるのが正しいのではないかとも思っています。

その他知っておきたいこととして、日本ではグラムロックに分類されないものの、本場英国ではしっかりとグラムに位置づけられるアーティストがいたことがあります。その代表格が、なんとあの「サタディ・ナイト」のベイ・シティ・ローラーズ。日本では完全に“バブルガム・アイドル”以外の何者でもないのですが、タータン・チェックの派手目(グラマラス?)な衣装と音楽的に伝統的なポップ・ロックを基本として人気を獲得した、ということからか、あちらでは確実にグラムロックだそうです。TVドラマ「ウォーター・ボーイズ」のテーマ曲「シュガー・ベイビー・ラブ」のリバイバル・ヒットで知られるルベッツも本場ではグラムです。水兵さんの恰好をした単なるコーラス・バンドと言う感じなのですが…。さらには、あちら盤のグラムロックの編集CDなどでは、エルトン・ジョンやロッド・ステュワートまで入っているケースもありビックリさせられます。これも日本的にはちょっと違和感なのですが、グラムロックは音楽的な共通点でくくられたジャンルではなく、もっと幅広い意味でのロンドン発の文化であったことを示す証なのかもしれません。

その流れでグラムロックの後世への影響をみてみるとかなりおもしろいです。グラムの衰退を経て登場したパンク・ムーブメントはグラムロックの影響をたびたび語られていますし、ハードロックやメタルロックのアーティストなどがグラムのカバーをする例も多くあるのですが、グラムとパンクやメタルとの直接的なつながりはハッキリとは見出だしにくく、その影響はあまり正しく伝えられていないように思います。パンクバンドのダムドがマーク・ボランに敬意を表してボラン生前最後のアルバムで共演していることをはじめ、数多くのパンクロッカーやメタルロッカーたちが先達であるグラムロッカーに敬意の念を表していますが、それは単に音楽性やファッションに対するではなく、もっと包括的で大きなものであると思うのです。すなわちグラムロックが音楽性だけでひとつにくくり切れない裏返しとして、音楽的部分やファッション性にとどまらない、70年代前半という時代が生んだある意味ポップアートにも相通じる思想やトータル・パフォーマンスこそが、後のアーティストたちに何かをもたらしたのではないかと思うのです。

グラムロックは確かに見かけのファッションの派手さから、音楽的には高い評価を得にくく我が国の音楽ファンからはあまり重要視されない傾向があります。しかしながら、「ファッション+音楽」をアート的な感性を含んだ新たな文化や思想として聞き手に送り届けた点で、60年代には存在しなかったポピュラー・ミュージックのあり方を生み出した歴史的に見て価値の高い“音楽文化”であると思っています。クィーンはもとよりジャパン、カルチャー・クラブ、デュラン・デュラン、アメリカン・グラム経由まで含めればバティ・スミスやキッス、エアロスミス等々、後の多くのビッグネームたちが確実にグラムロッカーたちの影響を受けていると言っていいでしょう。グラムロッカー達の代表作とともに同時代にグラムの影響を直接受けたルー・リードやトッド・ラングレンらの作品まで裾野を広げて、音と視覚の両面から今一度グラムロックを検証してみることをおすすめします。きっと80年代以降の多くのアーティストたちがグラムロッカーたちをあれほどまでにリスペクトする本当の意味が分かることでしょう。

(写真は英グラナダTVの番組「マーク」最終回で共演した、死の直前のマーク・ボラン(右)とデビッド・ボウイ)

最新の画像もっと見る

コメントを投稿