日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

経営のトリセツ74~「教訓」穴吹工務店社長の3つの“驕り” その2

2009-11-27 | 経営
昨日の続きです。穴吹英隆社長から学ぶ経営者が気をつけるべき「教訓」として3つの「驕り(おごり)」、すなわち「自身の成功に対する驕り」「社長の地位誤認による驕り」「同族経営者の会社所有意識の驕り」があるのではないか、というお話をしました。今日はまず2番目「社長の地位誤認による驕り」のお話から。

昔から日本の社長は、社長は全権を握る絶対的トップであり、一方的に他の取締役を評価し処遇を決定することはあっても、自身が他の取締役から評価および処遇を決定されることはない、という誤った認識を持ちがちです。これは古くからの日本の絶対君主としての天皇制や江戸時代の将軍制支配により培われた国民性のなせる業であるのかもしれませんが、そもそも民主原則の株式会社という組織形態における社長は絶対的な存在ではなく、取締役の互選によって代表権を与えられる存在なのです。他の取締役は代表取締役の執務を監視する義務があり、その行動が企業経営の指揮者としてふさわしくないと判断される場合には、取締役会から「更迭」を言い渡させることもあるのです。

私が管理者の研修をおこなうときに話をする内容として、「役職は役柄であり、それを演じるものと認識せよ」ということがあります。これはすなわち、自分の今の立場は仕事上一過性で与えられた「役」であり、「役」を全力で勤め上げる努力は大切だがその「役に驕るな」と言っているのです。これは、社長とて同じこと。仮に社長が大株主であったとしても、社長は取締役会で選出され当面代表を任された身であると言うことを決して忘れるな、ということなのです(実態はともかく、謙虚であれということ)。これを忘れるとトップとしての「驕り」が生まれ、「私が全役員の任免権を握っている」という一方的な支配権だけを意識する誤った経営認識を醸成してしまうのです。

今回、穴吹工務店を倒産へ導いた信用収縮の原因たる、「英隆社長による他の全役員解任騒動」はそんな社長の「驕り」から生まれたものに他ならないと思えるのです。結局英隆社長は24日、今後の会社の運営を議論する重要会議への欠席を理由に、取締役会で「解任」されました。これこそ、正しい株式会社経営のあり方であり、もう少し早くこうしたあるべき動きがとれたなら、結果は違ったものになったのかもしれません。誠に残念なことです。日本では、今だに「社長=絶対権力者」という認識が強いのですが、健全な会社経営は社長も含めた全取締役間の相互けん制があってはじめて成り立つものであり、経営トップは常に「驕らず」他の取締役から選任された立場であるとの認識の下、取締役はじめ周囲の意見に耳を傾ける姿勢を持つ必要があるのです。

最後に「同族経営者の会社所有意識の驕り」です。これは同族企業、オーナー企業のみに対する警鐘ですが、日本の大半の中小企業はこのスタイルですから、一般論として重要な視点であると思います。この「驕り」を一言で正すなら、「会社は誰のものか、正しく認識せよ」ということです。もちろん会社が株主のものであるという回答が一番正論ではあるのですが、こと経営に関して言えば、例え自身あるいは自身の親が立ち上げ100%の株式を握る経営者であっても、会社組織として他人を雇用し社会的存在として運営をしているのなら(つまり同族だけでやっている企業なら話は別ですが…ということです)、物理的な所有権はともかく会社を経営者個人の所有物と考えるな、ということです。これもまた経営者の陥りやすい「驕り」のひとつであるのです。

経営者が会社を自身の所有物として認識し行動するなら、他の取締役を含めた他人である従業員のモラール・ダウンは免れ得ず、健全な企業運営はあり得ないと認識すべきでしょう。よくある「社長自身の所有物化」の代表例としては、社長のプライベート企業(ペーパーカンパニー)への売上還流、同族幽霊役員への報酬支払などがあります。これらは、「同族経営者の会社所有意識の驕り」から生まれる好ましからざる行動であると言えるのです。「会社は当たり前のようにオーナー社長のもの」であった昭和の時代にはこういったことは、ほぼ日常的に存在していました。しかし今の時代、「会社はオーナー社長のもの」という考えは通用しなくなっているのです(上場企業では今さらの話ですが…)。穴吹工務店の実態がどうであったかは存じ上げませんが、100年企業という歴史の裏に経営者の“古い経営体質”があったであろうことは想像に難くないところです。「社長自身の所有物化」行動の積み重ねが、他の取締役や社員との溝を深めていくことになると言う点は、企業経営者「教訓」として胸に刻んでおきたいところです。

以上、今回の穴吹工務店の一件から3つの「教訓」をあげさせていただきました。いずれにしましても、経営者は「企業は生身の人間が集う生き物である」という点を忘れて「驕った独裁者」になることのないよう常日頃から身を律しなくてはならない、ということに尽きると思います。

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