日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

デフレ・スパイラルの出口となれ!“安心マーケティング”

2010-01-28 | マーケティング
景気浮揚にからむマーケティングの話をしてみます。

一昨日でしたでしょうか、日本経団連と連合が2010年の春季労使交渉をめぐるトップ会談を都内で開き、労使間の協議が事実上始まったとの報道がありました。不況下の今年、最大の焦点は年齢や勤務年数に応じて自動的に賃金が上がる「定期昇給」(定昇)の扱いのようです。経団連の御手洗冨士夫会長は会談の冒頭で、一部企業が定昇の凍結・延期に踏み込む可能性があることを示唆し組合側をけん制すると、連合の古賀伸明会長は定昇は譲れない一線だと強調するなど、まさに主張が真っ向から衝突をみせる展開となっています。この不況下、どちらの言い分にもそれなりの説得材料はあるようには思います。従業員サイドは「生活最優先」、一方の企業は「企業の存続が大前提」となる訳で、冷静に考えれば「企業の存続」の方が強いのは否めないところです。「生活」を守る大前提の会社がつぶれてしまっては、どうにもならない訳ですから…。

何をおいてもこのような労使間に不協和音が聞こえる最大の理由は、長引く不況に他ならない訳です。ちなみに定期昇給が労使交渉のテーマになるのは6年ぶりのことだそうで、ベアどころではないただならぬ状況下に依然あることは間違いありません。となるとやはり考えなくてはいけない事は、どうしたら景気がよくなるかです。モノの価格が下がるデフレ状況は、どうも高度成長の長期インフレ時代に育った我々世代には、どこか喜ばしい感じもしなくはないのですが、喜んでばかりもいられません。なぜなら、モノの価格を下げるための最大の手段は企業の人件費の削減にある訳で、とりもなおさずデフレ傾向が強くなれば強くなるほど、国民の雇用と賃金は危うくなっていくハズですから。

それではなぜデフレになるかですが、「企業の収益が悪化する」→「給与が減る」→「より安いモノを求める」→「企業がより安いモノを提供する」→「企業の収益が悪化する」→…という循環による訳です。いわゆる「デフレ・スパイラル」ですね。では、これを止めるのにどうすればいいのかですが…。ここでもまた「企業の存続」は「生活安定」の大前提になる訳で、企業はその存続のために価格競争からなかなか逃げられないが優先します。となると、デフレを止めるのは「より安いモノを求める」を止めることに求めざるを得ません。そうは言っても景気が悪い中、なるべく財布から出ていくモノを抑えたいのは当たり前の心理であって、「みんなで景気浮揚のために安いモノを買うのを止めよう」と言ったところで、土台無理なお話。ではどうすればいいのでしょう。

「なぜ景気が悪いと安いモノを求めるのか」ですが、これは言い換えると「なぜ景気が悪いと財布から出るモノを少なくしたいのか」です。「入りが減るから」は当然あるものの、「財布から出るモノを減らしたい」大きな理由は、「不安だから」に違いないと思います。「多くの出費をすること」は「不安」です。逆に景気が良くなると人がお金をたくさん使うようになるのは、「不安」が少なくなるからに違いないのです。つまり、景気の浮き沈みが与えている最大の心理効果は「不安」と「安心」の入れ替え効果なのだと言えると思います。

さて私が何を言いたいかですが、不況下マーケティングのキーワードは実は「安心」ではないかということなのです。景気の良い時に皆があまり真剣に取り合わなかった「エコ」も、ハイブリッド・カーやエコ・ポイントに先導されて大きく浸透している理由には、実は「エコ」が持っている「安心」のイメージにもあると思うのです。他のブーム商品にもその傾向はみられます。昨年のヒット商品番付上位に出ていた「LED」も「フリー」も、やっぱり「安心」のくくりでいけるように思います。昨年末に流行のトレンド・キーワードを「軽くて明るい」だと言っていた私ですが、ここにきてそれはもっと明確な一言「安心」であると考えるに至りました。

「安心」を売るビジネスはこの不況下でもきっとうまくいくと思います。なぜならば世間の誰もが、この長引く不況下の「不安」な状態から、お金を出してでも早く「安心」に転換したいと潜在的に思っているはずですから。この積み重ねが世の中に溢れるなら、景気は少しずつ上向いてくると思うのです。企業の皆さん、価格を下げることばかりを考えるのではなくぜひ「安心」を売る工夫をしてください。安いモノが巷にあふれるのは、その陰で何人の人たちが泣いているのかと思うとかえって「不安」を掻き立てます。多くの企業が「安心」を売ることでそれがビジネスの起爆剤となり、また同時に景気浮揚の切り札となることを期待して止みません。弊社も「安心」を売るよう努力いたします。