日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

Jパワー問題 ~ 政府は過去の経緯を含めて説明責任を全うせよ!

2008-04-22 | ニュース雑感
外資ファンドTCIによる、Jパワー株の買い増しに対する政府の“待った”が正当な判断であるか否か、話題になっています。

事の概略は以下の通り。
Jパワー株9・9%を保有するTCIが、1月に特定業種の株を10%以上取得する場合の事前許可を定めた外為法に基づき、20%への買い増しを申請。経済産業省はTCIが他の投資ファンドなどと連携し株主総会で増配を可決すれば、Jパワーが進める原子力発電所の建設計画などに支障が及ぶ懸念があると判断。政府が、TCIに対して投資計画の中止を勧告したというものです。

目下の議論の焦点は、政府の中止勧告決定は正しい判断であるか否かということ。

Jパワーは政府と電力九社が出資して1952年に設立されました(正式名称:電源開発)。2400キロメートルの送電線の全国ネットワークを持ち、水力や火力発電所から九社に電力を卸している、いわばわが国の電気供給に関する総元締企業です。

その存在から考えれば、政府が言うようにTCIの買い増しで、増配要求が総会可決され原発開発などの中止による将来的な電源不足を生じるリスクがないとは言えません。しかしながら、いかに特定業種株であろうとも、もともとが政府の判断で完全民営化をした企業であり、その部分の説明が不十分なまま中止勧告一辺倒で突きとおすことは、わが国証券市場の国際的信頼性の保持の観点から許されないことであると考えます。

民営化の経緯を振り返れば、経済産業省所管の特殊法人から2004年の民営化された際に、政府保有の8割の株式に加えて九電力保有の2割も放出させ、海外での大量売却を認めたのは当の経産省なのです。放出利益の追求目的で株価対策を優先した政府政策の結果として、外資に約4割の株式を握られた形になった訳です。海外に目を向けてみると、電気事業は安全保障などの観点から、欧米でも外資の経営支配を排除していますが、例えばフランスでは政府が株式の7割を保有し、外資の経営支配を不可能にしているのです。

こうして考えると今回の問題は、民営化の名の下に目先の利益に目の眩らみ安全保障策をおざなりにした政府政策の過去の過ちに起因しているのではないのか、と思えてくるのです。

いずれにしても、政府としては保有株式の大量放出による民営化の経緯と、今回の買い増し中止勧告との整合性ある合理的な説明を世界に対してしていかないことには、“ハゲタカ・ファンド”扱いされているTCIも納得がいかないでしょうし、何よりも日本市場の公平性、信頼性の観点から世界的に不透明感を残す結果になるように思われます。

国民生活保護の観点からみれば、今回の政府判断が誤っているとは決して思いませんが、現在のグローバル・スタンダードにおけるアカウンタビリティ(説明責任)の重要性を認識し、もし過去の過ちがあるならば素直に認めた上で、納得性のある透明性の高い説明を世界に対してすべきであると考えます。どうも、ごまかしやゴリ押しがまだ通用するのではないかと勘違いする「官」における“思い上がり対応癖”が、こんなことろからもうかがい知れる気がします。プライドを捨て過ちは過ちで認める、そんな真摯な対応こそ必要な時代なのではないでしょうか。