日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

経営のトリセツ25 ~ 中小企業にもガバナンス意識を

2008-04-04 | 経営
今回は少し難しい話です。

「ガバナンス」って聞いたことありますか?一般的には「企業統治」と訳される単語ですが、「コンプライアンス=法令順守」同様、実態が理解されにくい言葉でもあります。「ガバナンス」というと、どうもその言葉のなじみの悪さからか、大企業のテーマと思われがちですが、個人的にはコンプライアンス同様中小企業経営にとっても大切な概念であると思っています。いやむしろ、権力の集中度合いが激しい中小企業ほど必要な概念かもしれません。

では具体的かつ簡単に「ガバナンス」を説明するとどうなるのかです。

一言で言うと、「経営破綻を招かないために、常時経営者を監視し続けること」とでもなるのでしょうか。中小企業の実態に合わせてもっと具体的に言うと、「経営者が、従業員や株主ステークホルダーの意思に反して自己の利益に走り会社を破綻させないよう監視すること」であります。すなわち、「ガバナンス経営」は、経営者は実権を握れば握るほど、自己利益や自己都合判断での勝手な経営をしがちであるという「経営者性悪説」に立って考えられた概念と言えるでしょう。

「ガバナンス経営」とは、そのような監視状態を維持できるような、仕組みづくりをし機能させること、に他ならないのです。では、具体的に何を監視するのかですが、経営学者のドラッカー氏は、「現代企業は、<損失回避の原則>ならびに<生産性向上の原則>に従うべきである」と述べています。この考え方に則るならば、経営者が、<損失回避の原則><生産性向上の原則>を守るような経営判断を常にしているか、を監視することが「ガバナンス経営」に他ならないということになります。

では具体的にどのように監視するのかです。

大企業では、一般企業における監査役の存在や委員会設置会社方式での社外取締役の存在がまさにそれにあたることろですし、会社法的原則論で言えば、取締役会において各取締役が相互牽制をしつつ、代表取締役の行動を監視するのが正しい「ガバナンス経営」のあり方になります。

しかしながら日本の場合、現状ではまだまだ大企業でも難しいこのような会社法的運用ですから、中小企業では全くお話にならないと思います。取締役会は形式的な場合が大半でしょうし、本来「取締役の互選により選出される代表取締役」が逆に取締役の任免権を一手に掌握しているケースがほとんどですから。

では、どうしましょう。
「ガバナンス」には、「内的監視」と「外的監視」があります。先の取締役会や監査役会による監視機能はまさに「内的監視」です。その「内的監視」が、形式に流れてしまう中小企業では、「外的監視」の力を借りる必要があるのです。

歴史的に見て日本では、銀行取引がそのひとつでありました。銀行は、決算書から知り得る企業経営の実態や、社長からのヒアリングによる決算書に現れない経営情報等を総合して経営のアドバイスをし、銀行が見て健全経営でなければ資金供給ができないのですよ、という力関係を提示することで経営者の経営健全性保持の動機付けを与える機能があると思います。特にメインバンクは、企業の育成と監視を旨とし、問題発生時には経営層に人を送り込むなどして企業の<損失回避の原則><生産性向上の原則>を守る手助けをしてきたわけです。

バブル期以降の利益優先の銀行のスタンスが、果たしてこのような機能を十分に果たしているかというといささか疑問ではあります。ただ、メインバンクを持つこと、すなわち適正な借入れによって銀行の監視下に入ることは、「外的監視」の観点からも中小企業経営にとって実は大変重要なことであると思うのです。

最後に「内的監視」のひとつとして、前回取り上げた「コンプライアンス相談窓口」をあげておきます。顧問弁護士やコンプライアンス・オフィサーであるコンサルタントを外部相談窓口として設置し、従業員からの「経営監視ホットライン」を作ることは、ある程度は有効であると言えます。「ある程度」と言ったのは、当然絶対的な権力を持つ中小企業経営者にとって、抑止力にはなるものの強制力はないからです。

いずれにしましても、「ガバナンス経営」の重要なポイントとして認識いただきたいことは、全権を握る経営者が企業経営に際して自己の報酬額設定をはじめ私利私欲を廃した気持をどれだけ保てるか、それがすべてであるということです。とにかく、あらゆる問題に関して社長の独断で突っ走らず、経営情報をオープンにし内外の関係者からの言葉に耳を貸すこと、これが一番大切なことかもしれません。