花邑の帯あそび

1本の帯を通して素敵な出会いがありますように…

「魚文様」について

2012-04-19 | 文様について

presented by hanamura ginza


4月も半ばを過ぎましたが、
東京では、花冷えのする肌寒い日が続いています。
それでも、日中には若葉が風にそよぐ姿を
目にすることも多くなりました。

あっという間に散ってしまう桜の
儚い美しさも風情がありますが、
陽の光を浴びて、すくすくと育つ
若葉の元気な姿もまた、美しいものですね。

まもなくすると、
「目には青葉 山ホトトギス 初鰹」の 5 月。
新緑が目に眩しい爽やかな季節がやってきます。

これからの季節は、
そういった清々しい景色を堪能しに、
山や海などに足を運ぶ機会も多いことでしょう。
上のにもあるようにこの季節を象徴するのは
野山であればもちろんホトトギス、
海の食材でいえば、
初ガツオといったところになりますね。

ホトトギスの澄み切った美しい鳴き声に
耳を傾けるのもたいへん結構なのですが、
やはりくいしんぼうの私にとっては
初ガツオで舌鼓も気になるところです。
タタキはもちろんですが、お刺身もいいですよね。
漁師さんたちの発案で、
マヨネーズをつけてなんていう食べ方も
最近では広まってきているようですね。

新しい季節のはじまりに、
旬の魚の名前が出てくるあたりは、
やはり食文化のなかで
昔から魚の重要度が高い日本ならではでしょう。
昨今では、市場には出回らない、
地元の漁師が食すような
めずらしい魚を食べることも
もてはやされていますね。

今日は、その魚の文様についてお話ししましょう。

古来より魚は日本だけではなく、
世界各地で貴重な栄養源となってきました。

ヨーロッパでは、魚は古くから豊饒の象徴とされ、
キリスト教では、魚が再生のシンボルともなっています。

また、中国でも古来より魚は川を伝わり、
幸運を招くという言い伝えがありました。
中国語では魚のことを「ユィ」と呼びますが、
この「ユィ」は「有余(有り余る)」という言葉と同じ発音だったため、
富と幸福の象徴とされました。
さらに、たくさんの卵を産むことから、子孫繁栄の意味合いもあり、
魚の文様はたいへん縁起の良いものでした。

中国では、向かい合う2匹の魚が文様化された「双魚(そうぎょ)文様」が
仏教の八吉祥の内のひとつとして尊ばれ、
釈迦の像の足裏には、この双魚の文様が刻まれています。

一方、日本では弥生時代の古墳から、
魚形のアクセサリーが発掘されていますが、
中国のように吉祥文様として用いられることはなかったようです。

鎌倉時代になり、中国から禅宗が伝えられると、
その禅宗とともに、「魚板(ぎょばん・けつぎょ)」とよばれる
魚形の木彫りも伝えられました。
この魚板は、寺の玄関に吊るされるもので、
現在でも、京都の萬福寺でみることができます。

魚板を吊るすのは、魚は夜も目をつぶらないということから、
「精進を怠らず、だんだんに出世し昇天する」
という意味合いがもたされているようです。

ちなみに、読経の際に「ぽくぽくぽくぽく」という音をだす
「木魚」は、この魚板が原型となってつくられたものなのです。

鎌倉時代以降は、魚は文様としてもあらわされるようになり、
鎌倉時代につくられた古瀬戸(こぜと)とよばれる陶磁器には、
青海波とともに、魚の文様があらわされています。

またこの時期には、
荒磯緞子(あらいそどんす)とよばれる文様も考案されました。
荒磯とは、荒波の打ち寄せる磯のことですが、
荒磯緞子文様は、この荒磯とともに、
鯉が飛び跳ねる様子があらわされたものです。

中国では、鯉が急流の滝を超えると龍になるといわれ、
出世魚とされていますが、
日本でもこうした思想が反映され、
荒磯で飛び跳ねる鯉の文様を縁起のよいものとしました。
荒磯緞子文様は、名物裂としてお茶の仕覆にも用いられます。

魚の文様が着物の意匠として見られるようになったのは、
江戸時代の頃です。
浴衣などの夏の着物の意匠に、
鯛や金魚、鯉などのきれいな鱗をもつ魚の文様が
多く用いらていたようです。
現在でも、金魚の文様は夏にはとくに人気がありますね。



上の写真の名古屋帯は、インドでつくられた更紗布から
お仕立て替えしたものですが、
南国の風景とともに魚の文様が意匠化されています。
ゆったりとしてのどかな意匠からは、
南国のあたたかな空気が感じられます。
この意匠のように、魚は海や川などの水をあらわすものと一緒に
意匠化されたものが多く見受けられます。

ちなみに、端午の節句に鯉のぼりを吊るすのも、
出世魚の思想がもとになっているようです。
端午の節句の日には、
鯉が気持ちよく空を泳げるような
五月晴れであってほしいものですね。

上の写真の「南国の風景文様 印度更紗 名古屋帯 」は花邑銀座店でご紹介している商品です。

花邑のブログ、「花邑の帯あそび」次回の更新は4月26日(木)予定です。

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