presented by hanamura
だんだん陽射しが強くなってきました。
日が暮れるのもずいぶん遅くなりましたね。
春から夏へ季節が移り変わっていくさまが実感できますね。
ここ東京では、まもなく梅雨入りのようです。
それでも朝晩はまだまだ涼やかで過ごしやすいですね。
もう少し貴重な五月晴れの陽気を楽しみたいです。
ゴールデンウィークは終わってしまいましたが、
どこかへ旅行に出かけたくなってしまいます。
旅行といえば、今年は遷都1300年を迎えた奈良が
今年は人気のようですね。
そして奈良といえば、すぐに浮かんでくるのが
「鹿」ですね。
今日は鹿の子どもの背中にあるまだらの模様に見立て
名付けられた文様、「鹿の子(かのこ)文様」について
お話ししましょう。
鹿の子文様とは、
白い小さな丸文の中に、
小さな雫のような文様が表された文様です。
鹿の子文様の多くは絞り染めによってつくられます。
絞り染めによりあらわされたものは
とくに「鹿の子絞り」とよばれ、
浴衣や帯揚げなどにもよく
用いられています。
お着物をお召しにならない方でも
一度はご覧になったことが
あるのではないでしょうか。
上の写真の帯は、綸子地に鹿の子絞りを繋げて
文様を染め抜いたものです。
鹿の子絞りの歴史は古く、
奈良時代の頃より装束品の意匠に用いられてきました。
当時から奈良には鹿が多く生息していたようで、
鹿の子絞りの「鹿の子」という名前も
ここから付けられたようです。
小さな鹿の子絞りは、
布を摘まんで、糸で括り、
括った布を染液に浸すことで
括られた部分を白く染め抜き、
あらわされます。
一見単純な作業に思えますが、
絞り染めは、染め上がり後でないと
括った糸を解くことができず、
文様を確認することができません。
そのため、文様を均一にあらわすことはとても難しく、
長い経験による勘と、繊細な技術が必要とされます。
この鹿の子絞りを隙間なく、
着物全体に表したものは疋田(ひった)鹿の子絞りと呼び、
着物の中でも最高級品とされてきました。
この疋田鹿の子絞りは昔から
おもに京で作られ、「京鹿の子」ともよばれます。
江戸時代のはじめには、
裕福な町人たちが、その緻密さを競うように、
さまざまな疋田鹿の子絞りの着物が各地で作られました。
一方、疋田鹿の子絞りを型染めにより表した
「摺疋田(すりひった)」ともよばれる
絞り染めではない鹿の子文様も
多くつくられるようになりました。
そこで、型染めの鹿の子文様との違いを強調するために、
布を括って染めた後にできる布のしわは伸ばさずに、
表面の凹凸を残すことになったようです。
凹凸を残した疋田鹿の子絞りは、
布の表面に陰影が生まれ、
より美しく豪華に見えたのでしょう。
天和3年には幕府からその贅沢さをとがめられ、
「總鹿の子禁止令」が発行されたほどです。
上の写真の帯は、鹿の子絞りを型染めで表した
摺疋田の和更紗の帯です。
鹿の子絞りは型染めで表すのも難しいのです。
摺疋田もなかなか味わいがあります。
小さな鹿の子文様を繋ぐことで表される緻密な文様は、
繊細な技術力や丹念さ、
さらには計算されたものにはない
手作業のならではのゆらぎの美を
現在に伝えてくれます。
鹿の子文様は、
一見すると単純な意匠に見えますが、
そこに凝縮された時間と労力は
気の遠くなるようなもので、
たいへん奥が深い文様なのです。
※写真の名古屋帯は花邑銀座店にて取り扱っています。
花邑のブログ、「花邑の帯あそび」
次回の更新は6月1日(火)予定です。
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